下駄箱の中に


 テストも終わって、試合も終えた火曜日。


 「先輩。おはようございます」


 「あ、おはよ鮎川さん。日曜の試合見に来てくれてありがとうね」


 朝練を終えた後、鮎川さんが俺の元にやってきて挨拶をしてくれた。鮎川さんは試合を見にきてくれて、差し入れもくれたので俺は改めてお礼を言う。


 「いえいえ、大したことではありません。それに先輩大活躍されてましたから、ほんとは昨日すぐにかっこよかったって言いたかったんですけど……すみません、最近何かと忙しくて」


 「いや、そんなに俺活躍してないし……。そんな強くない相手だったから、攻め込まれることもなかったからさ」


 「そんなことないですよ。先輩はかっこよかったです、自信を持ってください」


 「そ、そう? ありがとね」


 「ふふっ。また試合見に行ってもいいですか?」


 「もちろん、鮎川さんがいいならきてほしいな」


 「ありがとうございます! それじゃあ私はここで」


 そう言って鮎川さんはどこかに行ってしまった。まあ何か用事があるんだろうな、昨日忙しかったみたいだし。そして俺は下駄箱に行って、上履きを取りに行く。


 「……?」


 下駄箱を開けると、そこに何か入っていることに気づく。はて、これは一体…………!?


 「……え!?」


 俺はそれを見ると、すぐに下駄箱の中に戻す。だってそれは……


 (な、なんで俺とユキがキスしてる写真が……!?)


 俺とユキが屋上付近で、隠れてキスをしているところを映した写真だったから。それに……明らかに正面から写真が撮られていて、誤魔化しようがない光景だった。


 昨日……撮られたのか? だけど確かに人影なんてなかったし……そもそも、この角度だったら撮られたことにすぐ気付くはず。だとしたら……どこかにカメラを設置して、それで撮ったってことか?


 ……わからない。とにかく、今日はあそこでキスするわけには行かないってこと……だよな。そもそも、これを撮った人の目的はなんなんだ……? 何か他には入ってないのか? 


 そう思って俺は下駄箱を改めて見てみるけど、やっぱり写真以外は何もない。脅しなのか? いや、間違いなくそうだろうけど……誰がしてるのかわからない以上口止めもできないし……。


 「……ヒロくん?」


 「……あ、ゆ、ユキ」


 下駄箱の前でそう考え事をしているとき、ユキがやってきた。表情を見るにどうやらユキは焦っていないから、俺と同じように下駄箱に写真は入っていなかったんだろう。


 「ど、どうしたの? なんだか……焦ってるみたい……だよ?」


 「え!? い、いや……そんなこと」


 俺はとっさに誤魔化した。だけど……これ、言うべきなのか? 俺が場所を変えるように言えば……また写真を撮られることはないかもしれないし。それにユキが余計な不安を感じて、キスをやめて……約束を果たせなくなって、学校に来なくなる……俺は、それが一番嫌だから。


 「そ、それよりさユキ。今日は約束の場所、部活終わりにユキの家でするのはどうかな?」


 「え? わ、私はいいけど……ヒロくんが疲れちゃうよ。私、ヒロくんにはすぐ休んでほしいから……。ば、場所を変えたいの?」


 「え!? う、ま、まぁおんなじ場所でし続けるとバレるリスクがあるかなって思って……」


 「……な、なら……使ってない教室で……しよ? 私……いくつか心当たりが……あるから」


 「……そ、そうなの? ……ならそこでしよっか」


 ユキも警戒して探してくれていたってことか。ならそのユキの努力を無駄にするわけには行かないし……そこでするか。流石にすぐバレることはないだろうし。


 「う、うん。……じゃ、じゃあ一緒に……教室いこっ」


 「あ、ああ……あ」


 「ちょっと宏樹! 今日は部室点検があるからスパイク片付けておかないと!」


 俺がユキと一緒に教室に行こうとした矢先、背後から紫がそう俺に大声で声をかけてきた。あ、そうだ。スパイク下駄箱に入れておかないと捨てられるんだった。


 「すまん紫、忘れてた」


 「たくっもう……。下駄箱に入れとくよ」


 「あ、俺が入れとくから!」


 紫が親切心からかスパイクを下駄箱に入れてくれようとする。だが下駄箱にはあの写真が入れっぱなしで……俺はスパイクを紫から取っては自分で下駄箱にしまう。


 「? どしたの宏樹。なんか下駄箱にえろ本でも入れてるの?」


 「い、いやそんなんじゃないって。すげー臭いから俺が入れただけ」


 「え、そうなの? ちゃんと掃除してよもう……。んじゃ教室いこ」


 「あ、ああ」


 そして俺たち三人は一緒に教室に行って、それから浩一もやってきて、退屈な授業を受けて、昼休みを終えて、また授業を受けて。それから……。


 「んん……んむっ、ちゅ、ちゅぅ……んむっ……ヒロくん……好き、好き……ちゅ、んんっ……」


 ユキが見つけてくれた空き教室で、キスをした。そこは確かに誰も来る気配のない教室で、もうきっと盗撮されることもなさそうだった。


 だけど、それから二日後。また俺の下駄箱に俺たちがキスしているところを撮った写真が、入れられていた。


  ――――――――――――


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