取り繕って、誤魔化して


 テスト当日。


 「お、紫。昨日どうしたの?」


 テスト当日ということで朝練もなかったためまっすぐ教室に行くと、そこには昨日部活に来なかった紫が教科書を広げて勉強していた。浩一とユキはまだ来ていないようだ。


 「……ま、まぁちょっと……体調不良で。昨日……結構吐いたから」


 「え、そうなの? 大丈夫?」


 確かに紫の顔色は良くなかった。昨日会ってた時までは全然そんなことはなかったのに、一体どうしたんだろう。テストが不安で、とかなのか?


 「……う、うん。ありがと、心配してくれて。……ねぇ宏樹」


 「ん? どうした?」


 「…………いや、なんでもない。それより、テストいけそう?」


 「まあ紫に教えてもらったところはできると思うよ。せっかく教えてもらったし、俺もそれに答えないといけないからさ」


 「……じゃ、それなりに宏樹の結果楽しみにしてる。いい点取ってよ!」


 「ああ、楽しみにしておいて。……あ、ユキ。おはよ」


 紫と話しているうちに、ユキがやってきた。


 「おはよ、ヒロくん。林原さん」


 ユキはニコッと笑って俺たちに挨拶してくれる。


 「……おはよ」


 そして紫も、笑って挨拶する。でもどうしてか、紫の笑みはいつもよりなんだか……渇いた笑いって感じな気がしたのは、俺の気のせいか?


 「ヒロくん、テスト大丈夫そう?」


 「うん、多分赤点は取らないと思う。紫に勉強教えてもらったし」


 「そ、そっか。そういえば……今日は部活、あるの?」


 「今日はないよ、明日もテストあるから」


 「そ、そうなんだ……。そ、そしたらまた……私の家で……勉強しよ?」


 「じゃあそうしよっか。紫も来る?」


 「…………あたしは…………いいや。体調まだそんなに良くないし」


 「わかった。ほんと、無理すんなよ。何かあったらいつでも言ってな」


 「……うん」


 それから浩一が来て、浩一は案の定今更焦って勉強しだしては俺たちがそれを手伝って……そして、テストが始まった。ところどころ不安なところもあるけど、やはり紫に教えてもらったかいがあって俺はなんとか解けた。


 「ふー1日目終わり。疲れたぁ」


 「……や、やべえ……赤点……とったかも」


 「そりゃ今更勉強するからでしょバカ」


 「お、俺たちと一緒に勉強するか?」


 「う、うるせえ! クッソ……もう諦めた。勉強しねぇ。今日はカップラーメンバカみたいに食うぞ!」


 「ば、バカもここまで極まってるとは……」


 「す、すごい……ね」


 浩一は案の定解けなかったようで、訳のわからないことを言ってる。ま、これは放っておこう。なんだかんだ底力でどうにかするだろうし。


 それから、俺とユキはユキの家に行って……勉強をするはずだったのに。


 「んんっ……ちゅ、ちゅぅ……んむっ、ヒロくん……ちゅ、ちゅ、んむっ……」


 そのための時間をキスに使っていたことは、俺たちだけの秘密だ。


 ★★★


 「……おぇ」


 テストが終わって、宏樹たちが先に帰った後、学校でまた吐いた。浜地さんの顔を見ると、どうしてもあの光景を無理やり想起させられて……気持ち悪くなるから。


 また、キスしてるのかな。今日は浜地さんの家で二人っきりだから……してるに決まってるよね。そんなに気持ちいいのかな? キスなんてしたことないから、あたしにはわからない。


 ……今日、聞けたら聞きたかった。二人は付き合ってるからキスをしてるのかって。だけどそれを聞いたら……宏樹と距離ができてしまいそうだったから、聞けなかった。


 あたしは宏樹を困らせたくない。好きだから、幸せでいてほしいから。だけど……浜地さんなんて、どうでもいい。あの子がどうなろうが知ったこったない。


 でも宏樹は浜地さんが学校に来た時、本当に嬉しそうにしていたから……。浜地さんを蔑ろにすることは、宏樹を困らせることになる。だからいじめるなんてできない。あたしは、どうすることも…………


 「…………なら、あたしが不登校になれば…………いいのかな」


 ふと頭に、そんな考えがよぎる。そうしたら、宏樹はあたしのことを心配してくれるかもしれない。浜地さんよりも、大事にしてくれるかもしれない。何か、願い事も聞いてくれるかもしれない。


 「…………でも、無理だよね」


 でも、現実的にみてそんなの無理。たくさんの人にも迷惑をかけるし、家族にも心配をかける。好きな人の気を引きたいからってなんて……いないでしょ。少なくとも、あたしはそこまで落ちぶれることができない。


 「……はぁ、勝ち目なんて……ないんだ」


 改めて、自分がどうしようもない立ち位置にいるんだなと痛感する。このまま、宏樹のことを諦められずに、浜地さんと上っ面の友達として……過ごすんだろうな。……ははっ、辛。


 それからトイレで弱音を吐いたあたしはトイレから出て、手を洗ってトイレから出ようとした。その時……初めてあったはずのある人に、話しかけられた。


 「林原先輩、初めまして。ちょっとお話いいですか? 梅崎先輩のことで」


 その人は背が高くて眼鏡をかけている美人。でも上履きが一年生の色だったから、後輩のようだ。気が滅入ってるから無視しようかとも思ったけど……宏樹の話ということで、あたしは、その子の話を聞くことにした。


 ――――――――――――


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