テスト勉強は一緒に


 「かーっ。試合があって試合があって、しかもテストがあるってほんと一息する暇もねーな」


 昼休み。浩一がそんな愚痴を言いながらむしゃむしゃと昼ごはんを食べている。そう、俺たちサッカー部は大会期間中にテスト期間に入ってしまい、練習もあれば勉強もしなくてはいけない地獄のような日程が組まされているのだ。


 「ほんとそれ。中々勉強する時間がないよなあ」


 「ぶ、部活は……お休みにならないの……ヒロくん?」


 「いや、今日は休み。だけど明日は練習あるんだ。それに朝練は毎日あるから、そんなに練習時間は減らないかな」


 「そ、そうなんだ……す、すごい頑張ってるねヒロくん……」


 「い、いやそんなことは……」


 「おいおい浜地さん、俺も頑張ってるんだぜ?」


 「浩一、あんたは勉強してないでしょ」


 「あ、バレてらあ」


 やはり浩一は勉強していないようだ。まあでもいっつも赤点ギリギリ回避してる底力はあるからなんだかんだ大丈夫なんじゃないか? いや、今回こそ力尽きるかもしれないけど。


 かくいう俺も……あんまり勉強できていないのが事実だ。部活の疲れってもある。だけどそれ以上に……ユキのことがどうしても気になってしまうことが、多々ある。


 毎日キスする関係なんて、慣れるもんじゃない。ましてや俺はユキ以外の人としたこともないし……それに、最近は紫に気づかれていないかも気になって……。


 「ねえ宏樹」


 「え!? ど、どうした?」


 なんて考えていたら、ふと紫から声をかけられる。


 「そんなに驚くことないでしょ。そ、それよりもさ……今日せっかく部活休みだし……そ、その……一緒に勉強しない?」


 「い、一緒に勉強?」


 「そ、そう! 誰かと一緒にやったほうが集中できるかなあって思って! ど、どう?」


 確かに一人でやるよりは誰かと一緒に勉強した方が集中できるな。他の人が勉強してるとサボるわけにはいかないって思うし。それに紫は成績優秀で学年一位とかもとったことあるから、勉強を教わるにはこれ以上ない人物だ。


 「じゃあしようか。俺も最近あんまし勉強できてなかったから」


 「う、うん! それじゃあーー」


 「ユキと浩一も来る? あ、紫何か言いたかった?」


 「…………別に」


 紫が何か言おうとしたのと同時に、たまたま俺の言葉が被ってしまう。続きを聞こうと思ったけど、紫はそっけない感じでその場を流した。


 「……行く。私も……教えてもらいたいところあるから」


 「俺は行かね。勉強したくねーからな!」


 ユキはコクリと頷く。そして浩一はらしい理由で断った。


 「よし、じゃあ三人で勉強しようか。放課後図書室でする?」


 「いや、でも図書室だと喋れなくない? マックとかなら……」


 「じゃ、じゃあ……わ、私の家はどうかな?」


 「え、浜地さんいいの?」


 「う、うん。大丈夫だよ」


 「じゃあユキの家で勉強するか」


 とまあ、こんな風に話がまとまって、俺とユキと紫はユキの家で勉強することになった。その際浩一がしまったって顔をしていたのは気にしないでおく。それから憂鬱な授業を終えて、俺たちはユキの家で勉強を始める。


 「それじゃあ、みんなゆっくりしていってね」


 「あ、ありがとうございます」


 ユキが俺だけじゃなくて同性の「友達」を連れてきたことでおばさんはかなり嬉しそうにしていて、お茶を持ってきてくれた時もすごい笑顔だった。紫はそれにびっくりしてたけど。


 「じゃあ始めよっか。宏樹と浜地さん、何か苦手な教科はある?」


 「俺は数学がきついな……」


 「わ、私も……」


 「まあ数学難しいもんね。じゃ、二人ともわからない問題見して」


 そして俺たちの勉強会が始まった。紫の教え方はやっぱり上手くてわからなかった問題がスッと頭の中に入ってくる。ユキも同じようで、できなかった問題ができるようになっていた。


 「二人とも結構できんじゃん。これなら問題なさそうだね。にしても宏樹……ほんと勉強も部活も頑張ってんね」


 「そ、そう? 勉強はしておいて損はないかなって思うだけだし、部活は……今すごく上手くいってるからさ」


 「ね。あたしも見ててそう思うよ。それに今の宏樹なら……プロにもなれるんじゃないかって思うの」


 「え!? い、いやそれは……なれたらいいなぁとは思うけど」


 「なれるよ。あたし、宏樹が頑張ってるの知ってるから。だからさ……プロになったら、あたしを試合に招待してよ!」


 「……そうだね。特等席、用意するよ」


 「約束だから!」


 まあなんてスケールの大きい約束だと思う。でも実際俺はプロになりたい気持ちはあるし、高校卒業後になれなくても大学で活躍すればなれる道だってある。もし本当になれたら……紫には本当に特等席用意しないとな。


 「…………あ、ああ! ちょ、ちょっとトイレ!」


 「え? あ、うん」


 数秒ほど時間が過ぎた後、紫は急に顔を真っ赤にして焦りだしてトイレにいった。ど、どうしたんだ急に。そんな恥ずかしいこと言ってるようには…………!?


 「ゆ、ユキ……んんっ」


 「はむっ……んんっ、れろれろ……ちゅ、ちゅ、ちゅ……んんっ……んむっ、ちゅ……ちゅ、ちゅぅ、ちゅぅぅ」


 紫がトイレに行って部屋の扉がしまった後、ユキがすぐに俺の唇にキスをし始めた。心なしかなんだかいつもよりもユキのキスは激しくて、バレるリスクも高いのに……俺はこれを拒めず……ただただそれを受け入れるしかできない。


 「んんっ……ご、ごめんね……ちゅっ……ヒロくん…………んんっ、はむっ……二人が……ちゅ……楽しく……ちゅぅ……お喋りしてるから……ちゅぅぅ……嫉妬……れろれろっ……しちゃって……」


 「……はぁ……はぁ……」


 「ヒロくんは……ちゅっ……んんっ……私だけ……ちゅっ、ちゅっ……見てて…………ちゅ、ちゅっ……れろれろ……んむっ……お願い……れろれろっ……」


 「……はぁ……はぁ……」


 何も返答できない。それぐらい、ユキのキスは、激しかった。


 「ヒロくん……んんっ……ちゅぅ……あむっ、ちゅぱ……んちゅ、ちゅ、んぅ……ヒロくん……んんっ……んちゅ……ちゅ、ちゅ、ちゅぅぅ……」


 それから、紫が戻ってくるまで俺はユキにずっとキスされていた。おそらく、今までで一番激しいキス。それほど長くしていないのにもう口の中はトロトロで……紫が戻ってくる音がしてやめた時、長い糸を引いてしまう。


 「お待たせー。勉強してた?」


 「……い、いや……あんまし進まなかった」


 「わ、私も……分からなくて」


 「……そう? なら教えるね」


 なんとか、俺たちがキスしていたことは紫にバレず平然を装えた。そして俺たちはまた勉強を始める。だけどその後……何も頭の中に入らなかったのは、言うまでもない。


  ――――――――――――


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