【4】ヒコミ√2

@wizard-T

【4】ヒコミ

「ちくしょう!」


 ベッドが揺れる。激しく揺れる。


 どうやら、ドクターの足が当たったらしい。


 その足が私のベッドを揺らし、それ以上に心を強く揺らした。


「ちょっと!」

「ああすまん、でもつい腹が立ってしまってな!」

「確かに誤算では……ってあのですね、これどうするんで○×△□……」




 その後何と言われたかは覚えていない。


 確かな事は、私があの蹴りにより気を失い、さらに衣服が切り替わっている事と、より拘束がきつくなっていると言う事だけだ。




「もしこれが功を奏しているとしたら、ひどくアナログと言うかアナクロニズムなおお話だな!」

「これが続けば彼女はますます我々から離れますよ、そうなったら」

「わかったわかった、だがそうなるとな……」


 私が気を失ったことについて何か話しているようだ。

 私に聞かせるように、ずいぶんと大きな声で話している。


 私に聞かせるように。


 だがすぐさま二人は私から離れ、小声で何かを語り始めた。ドクターの方がもう一人の男性に押されている事はわかるが、それ以上の事はわからない。







「ヒコミ」

「……え?」


 やがて戻って来たドクターは、私をヒコミと呼んだ。


「ヒコミって10回言ってみろ」

「ヒコミ、ヒコミ、ヒコミ、ヒコミ、ヒコミ……」


 呼べば呼ぶだけ、体のこわばりが取れて行く。拘束が緩くなって行くのがわかる。


 153番、だから153ヒコミ。いい名前なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【4】ヒコミ√2 @wizard-T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ