第16話「それぞれの戦い方」


「ヒューマノイド!」


 フレイが叫ぶ


 “ヒト”の記憶の残骸。


 “ヒト”の形を模した命なき生命体。


 見た目だけでは素材は分からないが、今回は比較的予想が付きやすい。


 全身角張ったフォルム。顔に目はあるが口はない。


 “ヒトの形”……とは言うものの、それは腕が二本、脚が二本あるから、辛うじてそう言えるのであって、駆動系の関節、巨大な身体、全身から聞こえるカラクリ音はどう見ても“ヒト”からはかけ離れた姿だ。


 ガイヤがいれば、巨大なロボットと形容しただろう。


 色は灰色、太陽の光を反射して黒光りしている。


 主な素材はおそらく金属……。鉄あたりが、有力候補。


 数もわずか一体。とはいえ、身長は約6メートル。相手はざっと10メートルは離れた場所にいるはずなのに、見上げなければ、顔すら見えない。


「なんで?ここは教会からずっと離れているはずなのに……」


 フレイのおびえた声。


 ヒューマノイドの目的は教会への侵入。


 ならば、こんな場所に現れるはずがない。


「イノチ ヲ ヨコセ……」


 距離があるはずなのに、ここまで届くヒューマノイドの奇声。


 教会の侵入だけではない。


 今回の敵の狙いは、イノチ。


 目の前の巨大な人形は、シルフィードを狙っている!


「シルフ!シルフィードを抱えて逃げて!!」


「分かってる!!」


 シルフ飛翔。


 俊敏さで風の精霊に勝るものはいない。


 シルフィードを抱えたまま、一気にはるか上空まで上がると、ヒューマノイドと反対方向へ飛んでいく。


「イノチヲ……ヨコセ!!」


 だが、それをみすみす見逃す、ヒューマノイドではない。


 カラクリ音が一段と大きくなると、猛スピードでこちらに迫ってくる。


「行かせない!!」


 フレイの両腕が、業火に変わる。


 瞬間、青ざめるフレイ。


 火力が……足りてない!


 すぐにわかった。


 エネルギーが足りてないのだ。


「なんで??」


 心当たりはある。


 教会から海に来るまで、フレイはずっとシルフを温め続けていた。


 火の属性を持つ火人属フレイ。


 彼女の管轄は『熱』


 他の3精霊と違って、彼女には使える原子はない。


 しかしすべての原子は『熱』の奴隷である。


 鉄だろうが、何であろうが関係ない。


 相手が『気体』や『液体』ならば、その温度を奪い、凍らせてしまえばいい。


 『個体』ならばその膨大な熱で全て蒸発させてしまえばいい。 


 最悪、超高温をもって、プラズマ分解させてしまえば、相手が何であろうと、どんな特徴を持っていようと、跡形もなく塵と消すことができる。


 『原子』を持っている以上、彼女には勝てない。


 4精霊最強、火の精霊、火人属。


 それが、フレイだ。


 だが、それゆえの欠点もある。


 火人属はその戦い方に莫大なエネルギーを消費する。


 火人属フレイのエネルギーは炎


 当然、ここに来てから一度もフレイは炎にあたってない。


 エネルギーを使うだけ使って、補給を忘れた。


 そのツケが、ここに来て出たのだ。


「ダメ!!向こうにはいかないで!!」


 だからと言って、ひくわけにか行かない。


 フレイは、渾身の力を込めて、ヒューマノイドの脚に抱き着く。


 だが、火力が足りない。


 本来、鉄の融点、1600℃なんてフレイからしてみたら、大した温度ではないはずなのに、それすら出せない。


 必死に抱き着き、動きを止めようとするのが精一杯。


 まったく無意味な抵抗である。


 ヒューマノイドの目にフレイは映らない。


 小さすぎて、相手をするまでもないほどに、微力な炎だった。






「どうなってるんだ?」


 シルフィードを抱いたまま、シルフは距離を置き、安全なところから、フレイとヒューマノイドの戦いを見届ける。


 ここからだと詳細までは分からないが、幸いにも今回の敵はあまりに巨大。


 フレイが一方的にやられているのが、動きを全く止めない、ヒューマノイドから、察することができた。


「あんな奴、さっさと溶かしてしまえばいいだろう?」


 いくら敵が巨大とはいえ、素材が金属という時点で、溶かして終わりのはずである。


 フレイならば、それぐらいの火力を持っていることをシルフは知っている。


 だが、一向に溶ける様子もなければ、ヒューマノイドの動きが止まる様子もない。


 シフルは必死に頭を働かせる。


 思い出すのは、海に着いたばかりの時にガイヤに言われた言葉



『だから、どうしてシルフはそうデリカシーがないの?シルフを浮かすために、高熱を出し続けたフレイだって、疲れているんだよ』



 瞬間、シルフの顔がみるみる青ざめていく。


「あいつ、そういえばエネルギー補給したのか?してないよな?」  


 誰に言っているのかは不明だったが、一応聞き手はいた。


『ピー!』


 腕に抱かれたままのシルフィードが元気に鳴き声を上げる。


 言葉に変換すると『だいじょうぶ??』


「大丈夫じゃねーよ!!いいか、シルフィード、俺は今からあいつを助けに行く。お前は、絶対にここから動くな。あとで迎えに行くから、絶対に動くなよ!」


 シルフィードを岩場に下ろす。


 波打ち際で、赤ちゃんドラゴンを置くには少々危険な気もするが、今のシルフにそこまでの頭は回らない。


 このままでは、フレイが消滅する。


 決断したシルフの行動は早かった。


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