第13話「海に行こう」


 師匠の許可は、あっさり下りた。


 ただし条件が出た。


「四人だけで行きなさい。そして、夕方までには、戻ってきなさい」


 とのことだった。


 海までの距離を考えると、陸路を使っていては、到底間に合わない。


 そこで空路を使うことにした。


「……で、こうなるのか?」


 出発は次の日の朝。日の出とともに出ることにした。


 シルフが持っているのは、アクアとガイヤが、すっぽり入れるぐらいの大きな籠。


 素材はアルミニウム。


 そこに二人を入れたまま、シルフが飛行する。


 とはいえ、シルフ一人では先日見せたように、ガイヤ一人を五メートルほど浮かすので精一杯。


 そこで、シルフはフレイをおんぶする形で、背中に乗っける。


 これにより、シルフは温められ、宙に浮く。


 熱を帯びた空気は軽くなって、わずかな力でガイヤとアクアをはるか上空まで浮かびあがらせる。


 シルフ一人のパワーだけではなく、フレイの膨大なパワーが相乗効果で加わるのも大きい。


 あとは、わずかな風力で前に進むという算段だ。


「“ヒト”が発明した『熱気球』っていう奴と同じ原理だよ」


 ガイヤが偉そうに解説するが、この移動方法は、昔から確立されている。


 第四世代である先輩フェアリーたちも、こうしてよく遠くに出かけているのだ。


「ボク空飛ぶの初めて!すごい!いいな。シフルは毎日、こんな風景見てるんだー?」


 初めての空からの景色に興奮気味に籠の中から外をのぞくアクア。


 その表情は、少年の姿を与えられた彼の容姿相応に、無邪気で危なっかしい。


「あまり、籠の中で暴れるなアクア!!落ちるぞ!」


 それとは対称的に、初めての長距離移動に、緊張気味のシルフ。


 先程から、顔を下に向けたり前に向けたりとせわしない。


「ごめんねシルフ。重くない?」


「いや……むしろ、フレイがいないと、無理だし……」


 フレイの質問にぶっきらぼうに答える風の精霊。


 その表情を籠の中の二人は見逃さない。


「あれ?シルフ、顔赤くなってない?」


「えー?シルフそうなの?フレイをおんぶして、顔赤くしてるの??」


「う、うるせーよ!!お前ら、落とすぞ!!てか、ガイヤ、方向はあってるんだろうな?」


「まかせて、先輩に聞いたけど、海は北にあるって言っていたから、間違いないよ」


「ガイヤ、そんなことまでわかるの?」


「磁場ってやつだよ。土の精霊だから分かるの」


 説明したところで、アクアは何もわかってないように、ふーんと返事をするだけだった。


 そんなくだらない話をワイワイ言いながら、海に向かう


 が、その途中……


『ピー!』


 変な声が聞こえ、突然シルフの気球は動きを止める。


「え?」


 聞き覚えのある声、シルフが振り向く。


 全員つられて、シルフの目線の先に顔を向ける。


『ピー!!』


 再び声が聞こえた。


 間違いない。


「着いてきてるー!!!」


 声を上げたのはアクアだった。


 シルフが運ぶ大きな籠。


 その後ろにピッタリつくように、シルフィードこと、例のドラゴンの赤ちゃんが付いてきていたのだ。


「なんで?先生の言う事には、寝てるんじゃなかったの?」


「起きたんだ……」


「どうして?」


「朝だからじゃない?」


「え?朝だと、起きるの?」


「たぶん……」


 そうとしか説明できないし、理由なんて誰がいくら考えても分からない。


 それよりも、今はこのついてきちゃったドラゴンの赤ちゃん……シルフィードをどうするかだ?


「もうここまで来たんだし、海に連れていくしかないだろう?俺も、フレイも引き返すのは嫌だぞ」


「いや……私は別に……でも、シルフがそう言うなら……」


「でも、ぼく達だけじゃ、この子のエネルギーを用意できないよ」


「何とか、エネルギー切れを起こす前に、帰らなくちゃいけない……かな?」


 シルフィードが、どれぐらいで、エネルギー切れを起こすか分からない。


 いや、そもそも“イノチある生物”がエネルギー切れを起こした場合、どうなるのか、ここにいる四人では皆目見当もつかない。


 精霊の場合はエネルギーが切れた場合、存在そのものが消えてなくなる。


 それにより風の精霊をぬかす、第三世代精霊の三人は、この世界から姿を消した。


 そして、今残っている先輩たち……第四世代精霊の中にも、そうやってこの世界から消え去っていった者もいる。


 幸い、第五世代の若い四人は、誰もそのような経験をしてないので、同じようなことが起こるのか分からないが、たぶんそれほど違いはないはずである。


 だとしたら、“イノチがある生物”であるシルフィードにも近いことが起こるはず。


「急がないと……。シルフ、速度上げて」


 とりあえず、少しでもエネルギーを節約させるために、ガイヤは腕を伸ばして、シルフィードを籠の中に入れる。


 風の属性を持つドラゴン、『風竜』とは言うものの、土の精霊も、水の精霊も基本的には命に触れられる精霊である。


 シルフィードを抱くことに、何の問題もない。


 炎の属性を持つフレイならば、こうはいかなかっただろうが……。


「分かった。しっかりつかまってろよ!」


 シルフィードがしっかりガイヤの腕に収まったのを見て、一気に速度を上げるシルフ


 おかげで、2時間はかかると思えた移動を、1時間半で済むことができた。


 そして、見えてくる一面に広がる大海原。



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