第11話「『海』の入れ物」


 命とは何か?


 その問いに何の迷いもなく答えられる者がいるとするならば、全知全能の神か、もしくはその名をかたる詐欺師ぐらいだろう。


 イノチを作る使命を帯びた第五世代フェアリーの4人。


 とはいえ、この世界に全く『命』が存在しないのかというと、いささか疑問を覚える。


 それこそ、目に見えないほど小さな微生物や単細胞。細菌などは確かに存在しているからだ。


 また、先日師匠が作り出した『木』を育てるために、ガイヤは土に様々な栄養素を送った。


 その中には、あらゆる生物を構成するための素材、たんぱく質も含まれる。


 もちろん、ただのたんぱく質が生物か否かという問いにおいては、意見が分かれるところだろう。


 だが、それぐらい『イノチ』というものの定義は曖昧なのだ。


 どこからが生物で、どこからが生物でないのか、それを正確に答えられる者など、存在しない。


 言ってしまえば、ガイヤたちフェアリーも、生物なのか否かと問われると、正確には分からない存在なのだ。


 そんな何もかも分からない中で、曖昧なものを作り出す。


 第五世代、ネームドフェアリーに与えられた課題は非常に難題である。



 

「う~ん、もっとかわいい物が作りたかったなー。」


 教会の中庭。


 水を満杯まで汲まれた土器を見て、ガイヤがぼやく。


 海水を作り出し、そこからイノチを生み出す。


 『生命の誕生』という本からヒントを得た、ガイヤ発案の海水製作計画。


 発想は良かったが、作業は難航した。


 なにせ、水を入れる入れ物を、彼らは持っていなかったのだ。


 桶やバケツの素材となる木材やプラスチックは、彼らの世界には存在しない物質である。


 ガラスケースというのも考えたが、今一つ、作り方が分からなかった。


 そこで、着目したのが『土器』である。


 土と水を混ぜて、形を整える。よく乾かしてから、高温の石窯で蒸す。さらに水をかけて一気に冷やして出来上がり。


 世界中で作られてきた土器だが、ガイヤが注目したのは東の端で作られていたという縄文土器。


 理由は一つ、かわいかったから。


 石窯の中で高温で蒸すという工程が入っている時点で、どちらかと言えば縄文より弥生土器の作り方に近いのだが、ガイヤはそんな細かいところまで気にしない。


 かわいい。それこそが重要なのだ。


「だったら、もう一度作り直す?」


 目の前のいびつな土器を見て、フレイが聞きなおす


 縄目模様こそが、縄文土器の最大の特徴だが、彼女たちは縄など当然持っていない。


 なので、手ごろな石で一生懸命それっぽい模様を付けたのだが、当然うまくいくはずもなく、ガイヤ、アクア、フレイの三人が協力して作った土器は、とてもいびつな形になっていた。


「いや、もう6回も失敗してるので、これで良いです」


 あきらめこそが肝心。とガイヤは本で読んだ知識を想いだす。


 作り方を知っていることと、実際に作れるのは、全く別の話。


 試行錯誤や失敗を繰り返すこと、6回。


 7回目にして、ようやく出来上がったのが、目の前のいびつな形をした土器である。


「でも、かわいくないイノチが生まれたら、作り直すよ」


 せっかくイノチを作るのだが、かわいいものを作りたい。


 ガイヤなりのこだわりである。


 もちろんかわいい土器と、かわいい生き物の関連性は全くないのだが。


「ガイヤのセンスは、よくわからない」


 彼女が参考資料にと持ってきた、縄文土器の写真を見ながら、アクアがぼやいた。




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