第6話「初めての『イノチ』」


「ネームドフェアリー?なにそれ?」


「いや、俺に聞くな」


 二人とも顔を見合わせて首を傾げる。


「ガイヤー!大丈夫?」


 そんな中、ようやく動かなかった水と火が、こちらに向かって近づいてきた。


 とりあえず、ネームドフェアリー問題は棚上げである。


「うん大丈夫!私も20体ぐらい倒したよ!」


 二人に向けてピースマークを向けるガイヤ


「俺のサポートのおかげでな」


 シルフも腕を組んで、自慢げな顔を二人に向ける。


「でも、その手……」


 心配そうなフレイの声


「大丈夫大丈夫」


 言うと、ガイヤは刀になってる右手を大きく振って


「『soil』」


 叫ぶとガイヤの腕は元の土の腕に戻る


「便利な身体だな」


「いや、シルフ達も出来るでしょう?」


「それが、色々と俺の身体は制限が多いからな……」


 これは風人属だけに言える話ではない。


 精霊たちが最初に覚えるのは、力の使い方ではなく、その暴力的で破滅的な力を制御する方法である。


「さて、教会に戻ろう。師匠に褒めてもらわないと」


 うきうきと話すアクアだが、彼は何もしてない。


「うーん、みんなは先に戻ってて。私は、もうちょっと、ここで調べたいことがあるから……」


 ガイヤの脳裏に、ヒューマノイドの呪いめいた言葉がよぎる。


 “イノチ ヲ ヨコセ”


 先輩たちは、ただの戯言だと一蹴していたが、ガイヤにはどこか確信めいた予感があった。


 あるのだ……この周辺に“イノチ”が。


 何の根拠もないが、ガイヤはそう信じて疑うことが出来なかった。


「だったら、ボクも残るよ」


 だが、それにアクアが乗っかってくる。


「え?なんで??」


「だって、なんか面白そうなことあったんでしょ?」


 笑顔を向けてガイヤに寄り添う。いつも抜けているようで妙に鋭いところがある彼らしい判断である。


 ガイヤみたいな根拠があるわけではなく、彼女の表情から、これから面白いことが起こると予感したのだろう。


「だったら、私も……」


 それにフレイが続く。


 彼女の判断理由はガイヤみたいな探求心でもなく、アクアみたいな好奇心でもなく、おそらくは、罪悪感。


 せっかくの初戦だというのに、何もできず、入り口から全く動かず、すべてをガイヤとシルフに任せてしまったという、引け目からくる、せめてもの償いという意味合いが入ってる


「なんだよ?オレだけ仲間外れか?」


「いや、別に戻ってもいいけど?」


「残るよ!」


 そして、シルフが残る理由は、心理学でいうところの『同調行動』


 単純に、みんながやるなら俺もやる。


 ……それだけである。


「別に、何かあるわけじゃないんだけどな……」


 言うと、ガイヤは地面に手を付ける。


 ガイヤは土人属。


 だから、こうして地面に手を当てれば……


「何かわかるの?」


「分かるわけないじゃん」


 念のためいうが、土人属に、そんな力は存在しない。


「じゃあ、何でやったんだよ?」


「いや、かっこいいかなーと思って。」


 エヘヘと照れ笑いでごまかすガイヤ。


 実は、土の精霊は呪文一つで大地を揺るがし、地形を盛り上げるというのを、本で読んだので、自分でもできないか試してみたかったのだ。


 結果は失敗に終わったが。


「バカだろう?」


「うるさいバカ」


「ねぇ、ガイヤが地面に手を付けたってことは、もしかして地面に何か埋まってるの??」


 アクアが不思議そうな声を上げる。


「根拠はないんだけど、なんとなくね……」


 灰色の世界。


 砂と岩しかない世界。


 そんな中、何かが隠れるもしくは何かを隠すとしたら、地面の中。


 それが、ガイヤの考えだった。


「地面ね……」


 ガイヤの行動に触発されて、シルフも地面に手を付ける。


 その行動に意味はない……はずだった。


「!!何かある……いや、いるぞ」


「「「え??」」」


 シルフの意外な反応に三人が不思議な声を上げる。


「いるって、何が?」


「え?どうしよう?もしかして敵、怖い……」


「どの辺?どのあたり??」


 三人がシルフに詰め寄る


「いや、お前たちも地面に手を付けろ」


 言われて、三人とも地面に手を付けるが……


「…………」


「………………」


「……………」


「フレイ、何かわかる?」


「ううん。ガイヤは?」


「さっぱり、アクアは??」


「ボクも全然」


 三人が顔を見合わせて首を横に振る


「なんでわからねーんだよ!!いるだろう?どの辺かまでは……えっと~……」


 そこまではわからないのか、シルフは顔をゆがめる。


 だが、嘘を言っている様子ではないことは、彼の表情が物語っていた。


 そもそも、どちらかと言えば野蛮で、無骨な性格のシルフではあるが、嘘をいう性格ではないことは三人とも、よく知っているのだ。


「確かめてみるか……」


 ガイヤは意識を集中する。


 土人属は『個体』を管轄している精霊というだけであって、応用力は他の三人の精霊に比べ群を抜いて広い。


 問題があるとすれば、その応用力は大量の知識と知力に依存する事だろうか


 土人属の勉強量は、他の三精霊に比べ、少なめに見積もっても10倍以上である。


 もっとも、本好きのガイヤから見れば、さしたる苦行でもないのだが。


「『Terahertz』!」


 ガイヤは右腕を大きく振りながら、叫ぶ。


 先程の戦いで、右腕の変化を「火」と「水」の力を借りて行ったのが、ここに来て、大きかった。


 エネルギー消費を大幅に抑えられたため、このような高度な鉱石変化も行うことができたのだ。


  テラヘルツ鉱石……1秒間に1兆回振動するという、世界的にも非常に珍しい鉱石である。


 それで、地面を揺らして、この周辺を探索する。


 

 ………


 ……………


 ……………………


「……見つけた」


 結果はすぐに出た。


 ガイヤはそこに視線を向ける、ここから3メートルほど南。深さは5メートルほど。


 目印となるものは何もなく、普段生活していたら、絶対に見つからないところだろう。


「ガイヤはそうやって、すぐ能力自慢したがるよな?」


「思ったんだけど、それボクがやった方が早くなかった?」


 それを見て、あきれ顔を向ける二人。


「いいじゃん!実際難しんだから、ちょっとは誉めてよ!」


 息巻いて反論をするガイヤだったが、実際に水を地面の中に浸透させて探索した方が、簡単で省エネだったことは、事実だった。


「でも、凄いよガイヤ。さすが」


「ありがとうフレイ、本当に優しいね。」


 ガイヤは笑顔をフレイにだけ向けると、“何か”を見つけた地面の場所まで歩みを進める。


「この辺、掘るよ」


 地下五メートル。


 中々に深いが、さすがにそこは土の精霊のである。


 両手で地面を掘り始めると、まるで土の方から避けてくれるように、どんどん下に進んでいく。


 わずか3分


 それはすぐに出てきた。


 真っ白に黄色い斑点が付いた、握りこぶしぐらいの丸い物体。


「なに?これ?」


 フレイが上からのぞき込んでくる。


「卵だ……」


 たくさん本を読んでいた、ガイヤだからこそ分かる。


「たまご??」


「食べ物だよ」


「食べ物??」


「“ヒト”はこれを使って『料理』っていうのを、していたんだって」


  彼女の知識によると「卵」とは、ニワトリという生き物が、産み落とす“ヒト”の食べ物である。


 だが、彼女が図鑑で見た卵とは少し色や模様が違っている。


「???何言ってんのか、さっぱりわからないぞ。ガイヤ」


 シルフが不思議そうな顔を向けるのも、無理はない。


 そもそも、「料理」はおろか「食べ物」すら、この世界には存在しないのだ。


 ないものを、知る機会はない。


 シルフもアクアも、フレイですら、「料理」や「食べ物」がなんであるのか、全く理解はしていない。


「まず、『食べる』っていうのは……」


 とりあえず、そこからだろうと、ガイヤが口を開いたその時


「あ、卵が!」


 フレイが卵を指さす


 目を向けると、いつの間にか、卵にひびが……


「え?なに?『ありがとう』??何言ってんだ?」


「シルフどうしたの?」


「いや、今卵から、声が……」


 瞬間、ひびの入った卵が割れる。


 そして……


『ピーーー!!』


 大きな鳴き声と共に、見たことのない、『生き物』が現れた。


 もっとも、なぜ目の前に現れた「それ」を“生き物”と認識できたのか、ガイヤたちにはわからないのだが……。


 黄色い鱗、白目のない真っ黒な瞳孔。口に頬肉はなく、脚の生え方が腰から垂直ではなく横から生えているのは、爬虫類の特徴。


 だが、この爬虫類は四本の脚の他に背中には翼が生えている。


 地球史上、このような生命体が存在した歴史は空想の中だけである。


 そして、その名は……。


「ド、ドラゴンだー!!」


 ガイヤは目の前に現れた、生き物を見て、大きく叫んでいた。


 それは、生命の存在しない世界で、精霊たちが、初めて見る『生きた』生物だった……。



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