第41話 理由はもういらない
「ふん!」
「わ! わー! すごいですね!」
種も仕掛けも全部説明した上で目を輝かせて喜んでくれる。可愛すぎる。プロかな?
那由多ちゃんの学校が始まってからは終わる時間も違ったりするし、学校の前に車で乗り付けるのも外聞が悪いので普通に直で私の家に来てもらってる。なんとかシャワーを浴びてからぎり間に合った。
今日こんなことがあってさー、と説明すると、大学の文化祭ってどんな感じですか? と若者らしい質問をしてくれる。はー、可愛い。これは年下に目覚めるわ。
去年一昨年のことを説明してあげると、すごいすごいと褒めてくれた。さすが千鶴さん、みんなから頼られてるんですね、とか、人気者ですね、とか、なんでもできるんですね、とか。美化しすぎだしそこまで言ってないはずだけど、美少女に褒められるの、気持ちいい。癖になりそう。
「十月最終週末にするから、一緒に行こうよ。当日は手伝うこともないし」
「いいんですか!? 是非!」
かーわーいーいー。みんなにこんなかわいい恋人を自慢できるとは。考えたら聡子の気遣いって私に恋人なんかできねーし可哀想ってことだし、ふざけてるよね。みんなにもそう思われてるならこんな心外なことはない。これはいい機会だ。
とこっそり企んでいると、那由他ちゃんは私がさっき二つ折りにして机に置いたパイプをそっとつまんだ。
「にしてもすごいですね。こんな硬い金属を……」
「削ってパッと見わからないようにしてるだけだし、那由多ちゃんもできると思うよ」
薄く削りすぎたということなので実際に使うのだとどうかわからないけど、少なくともまじで簡単だった。めちゃくちゃ小枝折るくらいの感覚だった。思った以上だったので力みすぎて逆に痛って感じだった。
「また今回みたいに不良品でてくるし、もらってくるよ。さすがに瓦は無理だけど」
破片でたりとか、そもそも重いしね。それは当日のお楽しみと言うことで。
「いいんですか?」
「いいよいいよ、どうせ廃棄してるからね」
「じゃあ、楽しみにしてます。にしても鉄パイプって、ほんとに鉄なんですね。武器になりそうです、えい、なんて」
「んふふ。那由他ちゃんは武器が似合わないなぁ」
割って半分になっているので30センチ。物差しを構えているようなものだ。可愛いけど、全然似合わない。私に向けている那由他ちゃんは、むぅとわかりやすく頬を膨らませた。
「こ、これは短いですし。えっと、多分、ほんとの剣だと似合うと思います」
「何その自信。多分銃の方が……うーん。いや。まあそうかもね」
背が高いって言っても、運動も苦手だしどうしても武器をもっても不安そうな顔してるのしか想像できないので、まだできそうな銃を言ってみたものの、それも似合わないな。たまたま銀行強盗に出くわして手に取ってしまったとして震えうまく持てない姿しか想像できない。
「あー、適当に言ってます。こんなの千鶴さんだって……う。千鶴さん、似合いそうですね」
「え? そう? こんな感じ?」
那由他ちゃんはじっと私を見てからどことなく不満そうに唇を突き出してそう言ったので、もう一本のパイプをつかんでびしっと那由他ちゃんに突き付けてみる。
「はい……千鶴さん、かっこいいです」
「あー、ありがと。まあ剣道もしたことあるし? あと前にも言ったけど、兄について色々習ったり体験はしてるね」
合気道、剣道、プロレスごっこ、あと陸上競技、は武器ない、と言うか剣道しか武器なかったわ。
え、じゃあ私の得意武器ってなんだろ。メリケンサックは先輩にもらったから持ってたけど、実際に殴ったりはしてないしなぁ。あ、バトントワリングのバトンはどうだろ? 武器ではないけど、棒状だし武器にしやすいかも。
……いや、素直に武器の中で剣道か。でもあれ好きではなかったのを無理やりやらされてたから、得意武器かと言われたら抵抗あるわ。
「か、かっこいいです。剣道とか以外にも、色んなスポーツされてたんですよね。何でも似合いそうです」
「そう聞くと悪くないけど、飽き性でどれも続かなかったわけだからちょっと恥ずかしいけど。だいたい一年でやめてるしなぁ」
高校くらいから割とインドア趣味に偏っていったけど、中学くらいまでは体動かすの好きだったんだよね。あの頃が一番体育テストの結果よかったよね。シャトルランとか、今では見る影もない。……ちょっとくらい、体動かそうかな。あんまり那由他ちゃんに恥ずかしいとこ見せられないし。うん。手伝いもちょうどよかったかも。
「私なんかやる気も起きないので、始められるだけ尊敬です。私、運動が苦手なので」
「まあできなさそうだよね」
「そうですか? 私、いつも見た目なら運動できそう、みたいに言われるんですが」
「あー、まあ、普段からおっとりしてるからさ」
一緒にいると色々反応鈍いときあるしね、とは言いにくい。反射神経は悪くないのに、ペンを落とした時も手は出てるのにはじいてより遠くへとばしちゃうとか。
でも正直、そう言うところも可愛い。背が高くてぴしっとしてたらすごい綺麗で、格好いいのにちょっとどんくさいところが可愛い。さすがに言わないけど。
鉄パイプを片付けるとなんとなく手持ちぶさたなので手を握りあう。
「えへへ」
目が合うと那由他ちゃんははにかみながら小さく笑い声をあげる。きゅん、としてしまう。キスしたいな。そう思ってじっと、那由他ちゃんの唇を見ながら考える。
どういう口実にしよう。唇に髪がかかってるのを頬にキスして口でとるとかどうだろう。でも実際かかってないしなぁ。
遊園地デートから結構いちゃいちゃしている私たちだけど、今のところ唇の純潔と意味もなくキスをしないと言うのは守っている。と言うか、理由付けに関しては割と無理やりだし、単に黙ってする勇気がないだけかもだけど。
「……」
「……」
見つめあっていると、だんだんと心拍数があがってくる。何気なく繋いだ手も熱をおび、お互いに指先をもじもじさせてしまう。
那由他ちゃんが可愛すぎて思考がショートしてきそうだ。ええい、もう理由はいいや!
「那由他ちゃん、可愛いね。好き。ちゅーしてもいい?」
「っ、は、はい……」
手の握って那由他ちゃんの指先の動きを封じながら少し顔を寄せ、ストレートにお願いしてみた。那由他ちゃんはその唐突で今までと違う流れに少し目を見開いたけど、すぐに目を閉じた。
従順すぎて唇にしたくなっちゃう。那由他ちゃんホント、魔性の美少女。握った手に体重をかけて少しお尻をあげながら空いている左手で那由他ちゃんの顎をつかんでそっと下げさせ、おでこにそっと唇を触れさせる。
私の部屋に来てからずっとヘアピンで前髪をとめているので、キスをしやすい。まるくてキスしたくなっちゃうおでこは少しだけ産毛があってくすぐったくて、唇を押し当てると皮膚の下の頭蓋骨を感じられた。
額にキスなんて、大したことはないはずだ。親しくなければしないけど、少なくとも性行為とは程遠い。だけど那由他ちゃんの存在を感じられてドキドキがとまらない。
「ん」
そっと唇を離して、今度は目じりに素早く触れる。まつ毛と瞼の震えを感じられて、那由他ちゃんの感情に連動しているような動きが愛らしさを感じさせる。そのまま瞼にキスをすると、下で眼球が動いているのがわかる。那由他ちゃんの繊細な、普通触れない場所にキスをしているのだと思うと変に興奮してしまいそうになる。
気持ちを落ち着けようと鼻筋にキスをする。固い鼻骨が面白い感触だ。だんだん、ドキドキだけじゃなくわくわくもしてきた。那由他ちゃんをもっと色々感じたい。
「ん、んんぅ」
那由他ちゃんが戸惑ったように鼻にかかった声をもらす。吐息をもらすようなその声に、もっと聞きたくなって私は膝立ちになって那由他ちゃんを背後のベッドにもたれさせて顎をつかんで顔をあげさせる。頬にキスをしてからそのまま何度もキスをしてすべらせるようにしながら、那由他ちゃんの耳たぶにキスをする。
「んっ」
「ふふ。那由他ちゃん、声も可愛いよね。もっと聞かせて」
油断した那由他ちゃんはさっきより大きな声をだしてしまって、恥ずかしそうに口元を手で隠した。耳元でささやくと、那由他ちゃんは真っ赤になった顔で目をあける。あった目線はすぐそらされてしまったけど、ちょっと涙目になっているのがとても色っぽい。
「う……は、恥ずかしいです。と言うか、千鶴さんばっかり、ずるいです」
「ん? そう?」
「そうです。つ、次は、私からします。座ってください」
「う、うん。じゃあ、お願いしようかな?」
もっとキスをしたかったけど、これ以上するとついついエスカレートしてしまいそうで、唇以外ならセーフとばかりに耳の穴に舌をいれたりとかしそうなので、素直に那由他ちゃんの提案を受け入れて私はさっきと同じように那由他ちゃんの横に腰をおろした。
まあ言い訳したけど、単純に那由他ちゃんにキスされるのも好き。自分がして那由他ちゃんを可愛がるのもいいけど、那由他ちゃんのタイミングで責められるのもされるのもそれはそれで好き。
那由他ちゃんが起き上がり、握ったままだった手を改めて握りなおす。ちょっとだけ汗ばんでねちゃってなってしまってるのが恥ずかしいけど、お互いさまなのでむしろちょっと興奮する。
「千鶴さん……大好きですよ」
「うん、私も」
「目、閉じてください」
「うん」
静かに閉じると、那由他ちゃんがそっと顔を寄せてくるのがわかる。タイミングがわからないのが、無性に焦らされているようなドキドキ感をあおる。那由他ちゃんが緊張しているのか、私が目を閉じたことで敏感になっているのか、吐息が大げさに聞こえる。頬に息があたり、最初は頬か、と覚悟しながら受け入れる。
「ん……」
「ん!? な……那由他ちゃん、舐めるのは、反則でしょ」
ぺろぺろ、と舌先で舐められている。恥ずかしいので思わず目を開けてしまったけど、那由他ちゃんはやめるどころか、一度離れてにこっと目をあわせて微笑んでから反対側の頬にキスをしてわずかに舌をだして舐めだした。
「ちょ、日焼け止め、は落としたけど、クリームもぬってるしやめなよ。まずいでしょ」
「……甘い匂いがして、美味しいですよ。それに……早く大人になって、その、か、可愛くないことだって、できるようになりたいです。その為の練習、駄目ですか?」
あの遊園地の帰りから、ちゃんと唇へのキスはお互い自重していた。あれから那由他ちゃんもちゃんと挨拶のキスで我慢してくれていて、わかってくれてよかったような、ちょっぴり残念なような気持ちだったのは否定できない。でも、こう来たかー。
私は遠い目になりそうなのを堪えて、そっと那由他ちゃんの肩に触れて距離をとらせて答える。
「あのね、早く大人にならなくてもいいんだよ。待ってるって言ったでしょ?」
「だって……私が、待てないんですもん。早く、また、したいです……」
「……」
那由他ちゃんはそう熱い吐息でつぶやくようにおねだりした。
こ、これ、私のせいだよね? やばい。完全に、私が手を出して那由他ちゃんの感覚狂わせてしまっている。まだ、まだ早いって那由他ちゃん! あぁー、最低だ、私………まあ、でも、まだ、最後の一線はまだ遠いし、実質セーフでは? 映画でもR15だとベッドシーンそのものは隠してるけど胸が出るくらいはセーフだし、キスだけならなんならR12くらいじゃないかな? ……いや、映像見るだけなのと実際にするのは違うでしょ。誤魔化すな、私。
ギリアウト。アウトに決まってる。欺瞞だ。那由他ちゃんに真摯に向き合うって決めてるでしょ。はっきり駄目なものは駄目。そう決めたうえで、那由他ちゃんに答えるんだ。
「じゃあ、練習だけ……ね?」
「はい。安心してください、千鶴さん。私ちゃんと、秘密にできますから」
「うん。二人だけの、秘密ね」
こんな那由他ちゃん見せられて、我慢できるはずがない! 私はそっと目を閉じた。
ごめん、おじさん。でもアウトだけど、責任はとるからね!
と心の中で一回謝ってから、那由他ちゃんといちゃいちゃした。頬がぬれてしまうほど舐められたけど、私から舐めなかったから理性を褒めてほしい。今日のところは。
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