第40話 文化祭に向けて

 長かった夏休みは終わった。と言っても那由他ちゃんの話だ。新学期が始まって、新しい勉強会予定もたててスムーズに初めて見ても、私の休みは9月いっぱいまでなので、まだ二週間以上ある。

 那由他ちゃんが学校に行っている間はバイトをいれているものの、そんな急には希望日全てにはいれるわけもなく。割と暇を持て余していた。


「……んあ?」


 そんな朝、那由他ちゃんとも夕方まで会えないし、だらだらとテレビを見ながらスマホをいじっていた私にあまりやる気のでない連絡がきた。

 同じ大学に通う高校からの友達、金森聡子からで、所属してるサークルの文化祭の準備を手伝え、と言うものだった。文化祭は10月後半。9月の今はそれなりに忙しい盛りだろう。

 文化祭か。個人でも事前に申請すれば模擬店をだすなりイベント参加は可能だ。一年生の時はお世話になった先輩たちの手伝いであちこち奔走し、やる気に満ち溢れた去年は友達と模擬店をしたりした。今年も何人かから誘われはしたけど、めんどいし、那由他ちゃんがいたので今年はパスとしてたのだ。

 だけど手伝いか。……まあ、暇だしいいか。手伝いなら、都合が悪い時は適当に抜けても許されるだろうし。聡子のサークルって空手だっけ? なんか格闘技だった記憶はあるけど。そもそもなんでそんなの始めたのか謎。高校時代インドアだったくせに。私がつれだしてやってたくらいなのに。


「ふー。よしっ」


 だらだらするの終わり! 足をあげて起き上がり支度をすることにした。支度の合間に聡子に連絡をとって内容を聞いておき、指定された場所へ向かう。うーん、最近車多かったからめんどいな。


「おーい! こっちこっち」

「あ、はよ」

「おはよー。来てくれてありがと。さっすが千鶴。暇してると思ってた」

「言い方。15時くらいまでだからね」

「ん? なんかあんの?」

「ある。めっちゃ忙しい毎日だから」


 午前はたまたま暇だったけど、毎日那由他ちゃんと会っているので嘘ではない。つれーわー。毎日恋人と会って幸せすぎてつれーわー。


「はいはい。とりあえず概要説明するから部室きてー」

「部室って。サークルでしょ」

「そうだけど、みんな部室って言ってるから。そんなことはどうでもいいから」


 入り口で待っていたやる気満々の聡子に引っ張られる様に移動した。そして面識のある人たちに囲まれた説明を受ける。聡子含む6人のメンバーと私と同じ友達付き合いの人で合計10人。サークル飲み会的な感じで全員と面識あったのでいいけど、割と本格的な会合っぽいな。めっちゃ気楽に来てしまった。


 話を聞いたところ大まかな計画は決まっていた。去年までリーダーだった人が真面目だったので、体験教室みたいなことをしていたけどいまいち客足は振るわなかった。その反省を踏まえ、今年はお客集めを意識して参加型イベントにしたそうだ。

 コンセプトは俺tueee体験でストレス発散、俺また何かやっちゃいました? らしい。これ考えたの今のリーダーって嘘でしょ。美人の真面目な顔とトーンに変な笑いでてしまった。後半いらないでしょ。

 でも内容は普通に面白そうだ。木板一枚、鉄パイプ一本、瓦三枚の三段階の破壊可能アイテムを作成し、それぞれ一発で全部壊せたら豪華賞品。失敗しても段階に合わせてお菓子がもらえる。挑戦するのにそれぞれ一回、木板と鉄パイプは500円。瓦は1000円。全部合わせて挑戦するなら2000円である。

 木板と鉄パイプは元値が安いが、瓦がなにせ高い。割れやすいようにする加工は全て大学内の施設でできるとはいえ、ぶっちゃけ瓦だけ割られるとほぼ儲けはないので豪華賞品など無理である。なので三枚中一枚は以外は割れにくくしていく予定らしい。一応空手をしていて瓦割りになれている人ならぎりできなくもないらしいけど。まあまあの不正を見た。


「切れ目入れるってことだけど、そんな簡単に素人が割れるの? 怪我したりしない?」

「そうだね。千鶴ちゃんでも多分全部いけるでしょ。瓦はタオルを引くし、鉄パイプは膝で割る形だし、木板が不安なら瓦割りと同じ形でもいいことにしてるよ。あと一応年齢制限をして、子供や怖いって人用に柔らかい木材で簡単なバージョンも用意する予定」

「へー、結構凝ってるんだ。楽しそう」

「でしょ? でも作るのが結構大変なんだよね。加工は得意な子がするとしても、資材を運ぶだけで大変だから、千鶴ちゃんも手伝ってくれて助かるよ。当日は無料でやらせてあげるし、ご飯は奢るからね」

「……まあ、できる程度で手伝うけど」


 なるほど。加工場と文化祭まで保管する場所、そして文化祭で実際におこなう場所が違うから、都度運ばないといけないわけね。はー、めんどくさいやつ!

 いやまあしょうがない。実際この場の全員やる気だし、暇っちゃ暇だしね。那由他ちゃんを文化祭に連れてくるから当日は手伝えないけど、事前になら夏休み後も授業の合間の空き時間もあるし、わいわいするのも嫌いじゃないしね。


 と言う訳で手伝うことになった。前から交流のあるグループとは言え、若干のはめられた感がある。今日だけだと思ったらずっとなあたりね。なので早速お昼は聡子に奢ってもらうことになった。


「午後からきりきり働いてよね」

「はいはい。でも今は一階の倉庫で、別頭の加工場の三階まで運ぶかー。エレベータ―使うとはいえ、結構重労働じゃない?」


 どのくらいの量かは知らないけど、台車の乗せておろして、と言うだけでも重量のあるものなのだから重いだろう。


「だから奢ってんでしょ。それで加工が終わってから倉庫に戻すのも手伝ってほしいんだけど、15時までだとまだ途中ね。もっといてよ」

「ごめんね、聡子がどんなに寂しくても、私にも予定があるから」

「バイト?」

「んふふ。デートだよ。聡子が筋トレしている間に、私は青春を謳歌しているからね」

「お、マジか」


 ま、聡子ならいいでしょ。普通に高校生と付き合ってる子も知り合いにいるしね。てか普通友達からだよね。何故私は先に親に報告してるのか。重い。

 聡子はパスタをすすりながら悪戯っぽいにやけ面になって、お行儀悪くフォークの頭を向けてくる。


「えー、いつの間に。紹介しろよー。てか私も知ってる人?」

「そう。那由他ちゃん。覚えてる? 前に自習室であったでしょ」

「なゆた……あー、あ? え? あの子? 名前も特徴的だし覚えてたけど、え? マジで言ってる? 子供じゃん」


 相変わらず記憶力がいいのはいいとして、めっちゃ驚かれた。そんな驚くか?

あんたの両親もそこそこの年の差じゃなかったっけ?


「そんな言わなくても高校生と大学生だし普通じゃない? 後、ちゃんと那由他ちゃんのお父さんにも話を通してるから」

「あー……親に通ってんなら、セーフかぁ。いやでも、ないわ。ロリコンじゃん」

「は? 誰がだ。私はただ那由他ちゃんが好きなだけであって、JKが好きなわけじゃないから。てか高校生ってロリか?」

「知らぬが仏と言うか、恋は盲目と言うか、そもそも節穴と言うか」

「いやいや、ちゃんとね、守るべき一線は守ってるし、だいたい高校生のグラビアアイドルとかいるし、世間的にもロリコンではないでしょ?」


 そんな、私が那由他ちゃんを好きになったから世間的にもOKと思い込んでる的な扱いはやめてください。実際に、那由他ちゃんくらいならどう見ても誰だって対象になるでしょうが。


「はいはい、言い訳乙。まあいいけど。てかあんた女の方だったんだ? それか両方?」

「ん? まあ、結果的にはそうね。私那由他ちゃんが初恋だし、自覚なかったけど」

「は? おっそ。今までなかったの? どーりで浮いた話ないと思ってた」

「聡子だってないでしょうが」


 めっちゃあきれ顔で言われたので、イラッとしながら反論する。聡子とそんな話をしたことないと言うことは、聡子も言わなかったのだから同じだろう、と。が、呆れ顔どころか小馬鹿にした表情になった聡子は鼻で笑いながら応えた。


「いや、私は気ぃ使って言ってないだけでいるよ」

「え!? 誰!?」

「内緒」

「はー? 私には聞いておいてそれかよ」

「今は照れくさいし。また今度言うね。それまで楽しみにしてくれたまえ」

「いやそこまでではないけど」


 なんだこいつー、と言いつつも、実際大した興味はないので流す。てかもしかしてサークル入ったきっかけがその恋人か? と思ったりもしたけど、まあ本人が言わないなら突っ込まないでいてあげよう。これで聡子も気遣いのできる子だからね。こちらも同じようにしてあげなければ。


 そして食後の休憩も終えたら、真面目に働く時間だ。一回目は大したことがなかったが、普通に移動距離もそこそこなのもあり、まあまあ疲れた。クーラーないところばっかり移動なのもある。

 普通に疲れたー、ご飯だけじゃ割にあわーん。と文句を言ったところ、はいはい、そろそろ時間でしょ。あ、この失敗作の削りすぎた鉄パイプあげるから。はい、お疲れー。

 と雑にあしらわれた。いや、いらねーわ。ゴミ捨て場まで廃材置き場までパシってるだけじゃん。と思ったけど、折角なので一本もらって那由他ちゃんに自慢することにした。くくく。ムキムキ千鶴さんが火を噴くぜ。


 でも今日はあれだし、どうせ家で約束だから持って帰らなきゃならないんだけどね。ちょっと恥ずかしいな、鉄パイプ持って電車乗るの。長さ60センチほどなので無理すれば隠せなくもないけど、でも確かこういうマジで武器になるのって隠して持ってると犯罪だったし、逆にむき出しにしておかないと駄目なんだっけ?

 なんか車にバットのせてると違法的な感じであったような。まあ見せてても警官いたら声かけられるかもだけど。でも職質ってされたことないし、ちょっと楽しみかも。


 とわくわくしていたのに、駅員さんどころか警察の前も通ったのに普通にスルーされた。残念。


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