第14話 高校時代の思い出を

 お母さんの差し入れにより、よかったような悪かったような、とりあえずぎくしゃくさを振り払うようにお互いお茶を一杯飲む。ふぅ。いつの間にか喉がかわいていたようで、一気に飲んでしまった。

 飲み干したカップを置くタイミングは同じで、顔をあわせて少し笑ってしまった。


「今日はもう、勉強する空気じゃないし、ゆっくりおしゃべりしない?」

「え、で、でも」

「一応最低限の目標はクリアしているし、ね? 今日は普通に遊びに来たことにしようよ」

「……はい。えへへ」

「じゃあ、さっきの漫画は貸すとして、そうだ。ゲームとかはする?」

「げ、ゲームですか?」

「うん。ゲームはやる?」

「い、一応、お父さんとはやってました」


 おしゃべりしてわかったけど、思っていた以上に那由他ちゃんはインドア趣味だった。ちゃんと娯楽を楽しんでいるのはよかった。案外真面目すぎてゲームにのめりこみすぎて今の成績になって、今度は勉強を真面目にしてる感じなのかな?

 聞いてみたけど運動は得意じゃないけど体は健康と言うことなので、そのくらいしか思いつかない。まあどんな理由でもいいけど。一度始めたらのめりこんでしまう性格のようで、レースゲームにはまった時は同じコースを同じキャラで機体パーツを一つずつ変えて比較したりしていたらしい。いや、真面目すぎるでしょ。でもキャラは可愛くて好きなのを選んでいる当たり女子高生っぽいけども。それすら性能で選んでたらちょっとガチ勢すぎるもんね。いや、こんな美少女がガチ勢でもそれはそれでギャップ萌えだけども。


 小説も読むし学校の休み時間では読書を主にしているけど、部屋の本棚は漫画が多めらしい。小説は青い鳥文庫が好きらしい。わかる。私も小学生のころはまって懐かしいなーってこの間一冊読んだけど読みやすいし今読んでもいいよね。全然大人も読めるし癒される。と言うか一般文庫から青い鳥にいくこともあるし、最近垣根低くなった気がする。


 なーんて色々お話していると、またとんとん、とノックがされた。


「おやつ持って来たわよー」

「あ、はいはーい」


 またお母さんだけど、おしゃべりですでにポットも空なので助かる。ドアをあけると、何故か渡してくれずに部屋に入ってきて自分で机に置いた。


「こ、これは!」

「ふふふ。駅前の新作ケーキよ。お勉強頑張った二人にご褒美で午前に買ってきたの」

「やったー。ありがとうお母さん。最高じゃん。尊敬するわ」

「はいはい」


 格好つけすぎるのはどうかとか言ってごめんね。素敵な母親だと思うな! 駅前のは小ぶりな割にお高めだし、人気だから午後に行ってもなかなか手に入らないんだよね。こんな雨の日に朝から行ってくれるなんて、最高じゃん? あとで久しぶりに全身マッサージしてあげよ!

 いそいそとお盆から机にお皿を移動させる。イチゴとチョコのシンプル系。那由他ちゃんはどっちが好きかな? と那由他ちゃんの顔を確認するとなにやら慌てて両手をわたわたさせながら母の顔とケーキをきょろきょろ見ている。


「あ、あ、す、すみません!」

「え? あ、いいのよそんな気にしなくて。勝手に買ったんだし」

「で、でも、べ、勉強してなくて、午後から、その、おしゃべりしてるだけなんです……ご、ごめんなさい」


 あー、真面目!


「いや提案したのは私だし、そもそも午前はちゃんとやったし、今週の目標自体は前倒しでしてたのもあってクリアしてるんだし、そこは大丈夫だって。ね?」

「そうね。別に普通に遊びにきてもいいところ、お勉強のつもりで来ている時点で偉いわよ。それに、もちろん私の分も買っていて、口実みたいなものなんだからそんなに気にしなくていいわ。ふふ。真面目でいい子ね。千鶴ちゃんも見習ってね」

「はいはい。とにかく那由他ちゃん。気にせず食べて大丈夫だよ」

「は、はい。あ、ありがとうございます。すみません。いただきます」

「うん。じゃあ、ごゆっくりー」


 母はふふふ、と実に満足げに微笑んで去っていった。恐縮させるほど喜ばれたことで満足したらしい。普通の友達の時でも時々ケーキを買ってきてくれていたけど、今回お高めなのでちょっと奮発しているのは事実なのだけど、那由他ちゃんの態度は十分お眼鏡にかなったようだ。

 母が出て行ってから那由他ちゃんを落ち着かせるべく軽く背中をたたく。


「那由他ちゃんはほんとに真面目だねぇ。まさか謝るとは」

「だ、だって、お勉強のご褒美って、い、今からでも勉強しますか?」

「えー、午前はしているし、元々遊び半分でくるって説明したうえでの歓待なんだから、気にしなくていいけど。うーん、まあ、気になるなら食べ終わってからもうちょっとする?」

「は、はい」


 ほんとに真面目だなぁ。そう言うところも可愛いけど、私関係に関してはもっと肩の力ぬいて大丈夫だってわかってもらいたいなぁ。


「じゃあそう言うことだから、リラックスリラックス。まずは落ち着いて味わおう? それからがんばろ」

「はい。そうですね」

「ケーキどっちがいい? 私はどっちも食べたことあるから、好きな方でいいよ」

「えっと、じゃあ、い、イチゴの方でいいですか?」

「いよいよー」


 那由他ちゃんの前にイチゴショートを設置する。そしてフォークを持って目をあわせてからいただきます。

 那由他ちゃんも何だかんだ甘いものは好きだし、ケーキも好きみたいで、気持ちを切り替えたらもうその目はキラキラしていた。


 特に意味はないけどタイミングをあわせて一口食べる。うーん、濃厚で美味しい。濃厚なのに後味くどくなくて最高。


「ん! 美味しいです。えっと、、駅前のどこのお店でしたっけ」

「あとでURLおくるね。あ、てか勉強してないからヘアピンつけてないけど、今は二人だし食べる時もつけたほうがよくない?」

「あ、そう、ですね」


 里田ちゃんはペンケースからヘアピンをだしてつける。もう慣れた仕草で、最初の頃は少し斜めだったりしたけど今では完璧だ。自分で選んだけど、何度見ても大人可愛い感じが似合ってるなー。


「那由他ちゃん、似合ってる。もっといろんなヘアピン着けてるとこみたいなー、ってそうだ。ね、今度一緒に買い物行かない?」

「あ、はい。い、行きます!」

「わーい」


 お出かけの予定をたてつつもケーキを食べ終わる。そして余韻を味わいつつ腹ごなしをしてから、再びの勉強モードである。昼食時にいったん鞄に片づけていたのを出していく。


「じゃあ次だね。参考書はきりのいところまでいったし、塾のテキストで予習から行こうか。どこまで習ってるんだっけ」

「あ、はい。じゃあ、こっちのテキストですね。えっと、今日やったのがここまでですね」

「うん。といっても、まずは読んでもらいながらがいいかな。普通にこれだけでわかりやすいし。まず読んでみよっか。暗記科目だし声に出したほうが理解もしやすいし、補足しながらいくね」

「は、はい。えっと、じゃあ、一行目から読みますね」


 普段は黙読してもらうけど、折角自室なので朗読してもらう。那由他ちゃんはいつもちょっとビビってるような気弱さのわかる声音だけど、朗読は感情がはいらないからかすらすらとどもることもなく読み上げている。


「あ、いったんそこまで。この条例すごく重要だから、チェックしておいて。後年に影響あるから」

「あ、はい」

「にしても那由他ちゃん、前から思ってはいたけど、朗読するといっそういい声だねー。放送部とかはいったことある?」

「え、い、いえ、まさか。部活は、はいったことないです」

「そうなんだ。もったいないなぁ。高校は部活はいらないの? 私以外も友達できると思うけど」

「……か、考えてみます」

「うん。平日忙しくなったら、別に私は土曜日だけとかでもいいし、やりたいことをやるのが一番だしね」


 こんなに真面目なのだし、塾にも通っているのだ急がなくても夏休みもあるし、今年中に学力は追いつけそうだ。勉強の習慣さえできてしまえば、部活と両立だってできるだろう。


「そっ……あ、あの。毎週、見てもらうの、その、迷惑、でしたかね」

「まさかまさか! ごめんね、紛らわしかったね。那由他ちゃんと一緒に勉強すると私もやる気でるし、単純に那由他ちゃんのこと好きだから楽しいよ。だから那由他ちゃんが望むならちゃんと最後まで教えるからね」

「あ、ありがとうございますっ」

「うん、ただ真面目にしてるからちゃんと追いつけそうだし、慌てたりしなくても大丈夫だし、高校生活でしかできないこともいっぱいあるからね。高校での友達だって大事だから」

「……あの、わかります。でも、学校で、多分、友達つくるの、難しいですし、ち、千鶴さんがいいなら、私と遊んでほしいです」

「お、おお。うん、わかった。じゃあ、いっぱい遊ぼう」


 そんなことないって。勇気を出せば那由他ちゃんならすぐ友達ができるよ。と言うのは簡単だ。だけど友達を作るのが難しいと言った那由他ちゃんは見ていられないほどしょんぼりした顔をしていて、無理をしいることはできない。それに少し思ってしまったのだけど、もしかして、いじめられているのかもしれない。

 私の周りでいじめなんてなかったし、那由他ちゃん程可愛い女の子がそうなるなんて思いつきもしなかったけど、そう言うことなのかもしれない。だけど今すぐそう指摘したって、私にできることはない。四六時中一緒にいて守れるわけでもなく、学校に乗り込むわけにだっていかない。


「私と一緒に、高校時代の思い出たくさんつくろっか」


 本当のところはわからない。だけど今の私に言えるのは、この位だ。勇気を出して、遊んでほしいと不安そうに言ってくれた那由他ちゃんの気持ちに応える。それにもちろん、私も楽しいしね!


「っ、はい! つくりたいです!」


 にっこり元気に返事をしてくれた那由他ちゃんに、これは私の高校時代の青春メモリーも増産しちゃうな、と思った。那由他ちゃんと一緒に、私も女子高生気分で楽しんでしまおう。と心に決めたのだった。

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