第6話 人間関係のスペシャリスト
人間関係の秘訣を問われたら。
それは、【カリスマ】である。と僕は答える。
この地球上の人間の99%は凡人だ。
凡人というものは、自分で選択するという能力を有していないので、必然、常に支配者を求めている。
自分よりも優れた何か、責任を押し付けられる何かがいなければ、凡人は一歩だって前には進めない。
だから、まるで蛾が街灯の光に引き寄せられるかの如く、凡人はカリスマに群がるのである。
カリスマである僕は、この人生で人間関係に悩んだ事はない。(人生1〜3回目くらいまでは、多少悩んだ事はあるけれど)
人間関係に
あなたがもし、今、人間関係に悩んでいるのであれば、今すぐに、面白くも無い凡人で在る事をやめて、カリスマになる事をオススメする。
そうだ。
この僕が、カリスマだ!!
『おい、
ビジュアル系バンドGLAYのTERUの様に、両手を広げ、遠くを見据えながら悦に
『あぁ、ちょっとね。カリスマについて考えていたんだ』
『何だよそれ?全く、お前みたいな変人が皆んなにチヤホヤされるのは、一体どういう道理なんだよ?』
それはね、カリスマだよ。
神はカリスマの上にカリスマを作らず。
この世界の全ての現象は、カリスマを中心として回っているのである。
だから、凡人達は、皆んな遺伝子レベルで僕を求めちゃってるんだよ。
要するに、凡人には一生理解出来ない、この世界の真実が全部カリスマには詰まっているんだ。
『皇月。今日はお前に頼みたい事がある』
珍しく、水谷が真面目な顔をする。
アホの子なのに。
まぁ、真面目な顔をしていた所で、アホはアホなのであるからして、結局水谷は、今日も今日とてアホなのだ。
そう考えたら、まぁ、珍しくもないか。
『頼みたい事ってなんだ?』
『
『ヤマナカとは?野良犬か?それとも野良猫か?どちらにせよ言葉の響きからして
いやっ、まてよ。
ヤマナカ。
もしかしたら、狸っていう線も…。
『山中は隣のクラスの奴で、俺の幼馴染なんだ。病気でもしたのかと思って、LINEしたんだけど、既読になるのに返信が無いんだ。もしかしたら、登校拒否なんじゃないかと思ってさ』
『ハァン?でっ?それが僕に何の関係があるんだ?』
『今日、俺、部活休んで山中の家に行こうと思うんだけど、お前も付いて来てくれないかな?』
うぅ〜んわっ。
ダッルゥ〜!!
キモイ、キモイ。いやっ山中って誰だよ?
どうせモブキャラだろ?
そんなザコの為に、このカリスマの貴重な時間を浪費しろというのか?
タイムイズマネー。
時間はお金で買えないんだぞ。
特に、この、カリスマの時間はな。
『そんな、あからさまにダルそうな顔しないでくれよ。今度メシ
ハァ〜ッ。
全く、面倒くさい。
正直、モブキャラの為には指一本も動かしたく無いのだが、凡人の願いを聞き入れてやるのが、カリスマとして生まれて来た者の役目なのである。
あぁ、カリスマって、本当に大変だなぁ。
『分かったよ。で、僕が君に付いて行って、山中の家で何をすれば良い?マンボでも踊れば良いのか?いや、
世界トップレベルのサンバのステップを踏む僕に、
『いやっ、普通に山中と話して、病気じゃないんなら、明日から学校に来る様に説得して欲しいんだよ』
水谷が、相変わらずの似合わぬ真面目な顔で言う。
『それが、彼の望まぬ事であったとしてもか?』
『あぁそうだ。何があったか知らないけどさ、もし何か辛い事があるのなら支えてやれば良い。高校くらい出ておかないと、将来苦労するだろう?』
水谷は良い奴ではあるのだが、残念ながら彼は絵に描いた様に教科書通りの
高校なんて出なくて良い。
それどころか、保育園や幼稚園だって出なくても、何の苦労もなく快適な人生を送る事が可能だ。
良い成績を取りなさい。
良い大学に入りなさい。
良い企業に就職しなさい。
ハァァ〜?何言っちゃってんの?
それらは人生を豊かにするのに1㎜だって役に立たないガラクタだよ。
現に、東大主席の秀才だって、日本トップクラスの頭脳を有する高級官僚だって、首の座らなかった頃の僕にすら敵わない。
そもそも、旧時代式の全くクソの役にも立たない
この国の
その結果出来上がった凡人もまた、この世界に何も残していくことなく、まるで最初から無かったかの様に、この世界から消えていくのだ。
だから、辛いのなら学校になんて来なくて良い。
自分のエゴの為に、他人の感情を無視する水谷のやり方は、どうかと思う。
でもまぁ、頼まれたからには、僕は僕の役割を果たそう。
そう。カリスマは決して期待を裏切らないからこそのカリスマなのである。
『わかった。山中を家から引き
『ありがとう。助かるよ』
ビジュアル系バンドGLAYのTERUの様に両手を広げ、遠くを見据えて悦に入る僕を一人残して、水谷は次の授業のある理科実験室へと向かい、教室を後にした。
相変わらず学校の
人生百回目の僕に、どや顔で面白くも無い
この世界の頂点に君臨する僕が、我慢して学校に通っているというのに、山中如きモブキャラが、一丁前に登校拒否を決め込んでいるというのか?
生意気だ。
あぁ、なんか、無性に腹が立ってきた。
早く山中を家から引き摺り出して、
【ハハァ〜、
再生数を稼げそうな画角やカット割、構成を考えていたら、午後の授業はあっという間に終わってしまった。
────
放課後。
僕は水谷と一緒に山中の家の前に立っている。
『よしっ。それじゃあ、ベルを押すか』
僕は、アーケードゲームの世界トップ選手並みの速さで玄関ベルを連打した。
『おい皇月。お前、何やってるんだよ?』
『何って?ベルを押してるんだよ。見たら分かるだろうが?』
サンバのリズムを踏みながら玄関ベルを連打する僕を見て、水谷がドン引きしている。
何ドン引きしてるんだよ?
お前が僕を呼んだんだろう?
カリスマが人を呼びに来たんだぞ?
そりゃあ、こうなるだろ?
『やめろって、ピピピピピピピピッてめちゃめちゃうるせえから、山中のお母さんに迷惑だろ』
迷惑な訳があるかぁ。
カリスマの連打が聞けるなんて、全く、この家の住人は幸せ者である。
『それにしても、誰も出てこないな?本当にこの家には人はいるのか?』
『たぶんいる。少なくとも、山中はいるはずだよ』
『君、山中の部屋は分かるか?』
『あぁ、あそこだよ。2階の、あの部屋だ』
『よし、分かった』
パルクールにおいても、世界最高峰の実力を有する僕にとって、この様に平々凡々な
そして、この部屋の引き違い窓。
このクレセント錠なら、僕の用意して来た針金で簡単に開けられる。
窓を開けて部屋へ侵入すると、そこには山中がいた。
『なっ?えっ?君、誰?』
絵に描いた様なモブキャラ、見ているだけで腹が立つ。
『うるせぇ。おぉい、山中!!』
僕はポケットからスマホを取り出し、ビデオの録画ボタンを押す。
『お前、【ハハァ〜、
突然の事に、水谷は腰を抜かしている様子である。これぞ、モブキャラの極み。
『なにしてる?早く言えよ!ホラッ、ハイハイハイハイッ!!カメラ回っちゃってるからぁぁぁぁぁ〜!!』
『えっ?あっ、あぁ、ハハァ〜、
『ハァァァ〜イ。オォ〜ッケェ〜!!頂きましたぁ。じゃあ、僕はこれで失礼するよ、では、また会う日まで、
帰ろうと窓に手を掛けた所で、ふと気が付いた僕は、山中に振り返り、
『あっそうだ。お前、明日学校来いよな』
と言って、返事も聞かずに窓から飛び出した。
僕の背中に山中が今にも消え入りそうな声で、【うん】と答えた。
────
TikTokにアップロードした動画は、2000万再生を超し、今も尚その再生数は伸び続けている。
そして、山中は、今日も学校で
今日も僕のカリスマは、凡人共を正しき道へと導いている。
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