第2話 恋愛のスペシャリスト

 『皇月こうづき君。今日の放課後、あいてる?』

 クラスのマドンナが、上目遣いに聞いてくる。


 クラスメイトの女子からのお誘いは、僕にとって日常茶飯事、今日も今日とて女の子は僕の事を放っておいてはくれないのである。


 『今日の放課後は、美希みきまな結衣ゆいと一緒にケーキバイキングに行く予定だけど良かったら君も来る?』


『うん、いくいくぅ〜』


 嬉しそうに飛び上がると、マドンナは、やったぁ〜、楽しみぃ。と言ってスマホでケーキバイキングのメニューの下調べを始めた。


 デートは男女1組でするものだ、なんていうのは凡人の考え方だ。


 まぁ、それは、遥か遠い昔から続く、凡人のサイクル(子供の頃から親や世間に刷り込まれた常識や倫理、道徳に基づいて生きるという意味の無い人生)の結果出来上がってしまった考え方なのだから、仕方の無い事なのだけれど。


 そもそも、雌というものは、本能で優秀な遺伝子を求めているのだ。


 だから、世界で一番優秀な遺伝子を有するこの僕に、女子が群がるのは当然の帰結だろう?


 僕は、僕に群がってきた女の子の中から一人を選ぶなんて事はしない。


 だって、倫理や道徳のせいにして、僕を求める女の子を拒絶するなんてあまりに残酷過ぎるでしょう?


 なにせ、彼女達は、遺伝子レベルで僕の事を求めちゃってるんだからね。


 それに、今、この時代の日本における価値基準で不器量ブスと定義されている女の子だって、ある時代のある国の価値観で測れば美人なのだ。


 であるからして、僕は、僕を求める女の子を拒まない。


 一人一人が皆んなスペシャルな、この世にひとつしか無い大輪の花なのだから。


 その花言葉が例え不器量ブスであったとしても、僕はそれを愛する。


 その結果、この学校の女子生徒、総勢千人と僕は交際している。


 彼女達は、僕の為なら命すら投げ出す所存であるから、その気になれば、ちょっとした戦だって出来てしまう。(この学校の女子達は頭脳明晰で身体能力も高い、いわゆるアマゾネス軍団なのだ。)


 まぁ、彼女達は、皆んな僕の宝物だから、例え彼女達が望もうと、そんな事は決してやらせるつもりはないのだけれど。


 『あぁ〜あ、お前みたいなのが来るって最初から分かってたら、この学校選ばなかったのに。俺は良い大学に入る為の学力なんかより、今この瞬間ときに、可愛い彼女と青春していたいんだよ。高校生活は、人生の中でたった3年間しかないんだから』


 とは、この時代の日本国の価値基準で言う所のイケメン、水谷みずたにの言葉だ。


 彼は幼稚園の頃から、中学を卒業するまでずっとモテモテだったらしいし、確かに僕がいなければ、お望みの女の子を彼女にして楽しい青春を謳歌おうか出来たであろう。


 でも本当は、僕がいたって、それは可能なのである。


 幼少期から刷り込まれたこの世界の常識がその可能性を排除しているだけだ。


 なぜ自分の心よりも常識を優先する?


 なぜお前は諦めるんだ?


 確かに、彼が僕を上回る魅力を手に入れるのは残念ながら不可能だ。


 それを諦めるのは仕方がない。


 1+1を5けいにする事が出来ないのと同じ、自然の摂理だからね。


 だけれど、別に女の子は僕の所有物という訳ではない。


 誰も皆、誰の所有物でもない。


 皆一人の人間であり、この世界の中の一つの自然現象に過ぎないのだ。


 それに、僕の身体は一つである。


 一度に千人の女の子の相手をする事など、物理的に不可能だ。流石の僕でも、ちょっと出来ない。(まぁ、あともう100回生まれ変わったら、もしかしたら出来る様になっているかもしれないけれど)


 ならば、女の子をシェアすれば良いじゃないか?


 今は家も車もシェアする時代。


 女の子だって、皆んなでシェアすれば良いんだよ。


 そうすれば、皆んなハッピー。君達は、ようやく常識の呪縛から解き放たれる。


 なぜ恋人あしかせを作りたがる?


 僕には理解が出来ない。全くもってナンセンスだよ。


 恋人だなんて、全く自然じゃない。


 カップルや夫婦が上手くいかなくなるのは当たり前だ。だってそれは、人間にとって、とても不自然な在り方なのだから。


 恋人や夫婦というものは、国が人々を管理しやすくする為に作り上げた【家族ろうごく】という不自然な概念の上に成り立っている。


 また、恋人や夫婦が無くなれば困る団体(ブライダル企業等)は、生きる為に、形振なりふり構わず、【結婚】という、人間にとって全く不必要な足枷を広めるためのプロパガンダに勤しむのである。


 親も子も、全くもって違う性質を持った独立した自然現象なのだ。


 たかだかお腹を痛めたくらいで、理解し合えるはずもない。


 あたりまえだろう?


 人は地震や津波などの【自然現象】はコントロール不能な物と捉えている。


 しかし、同じ【自然現象】である人間の事はコントロールしようとする。


 子供なんだから親の言う事を聞きなさい。(因みに、この親というのは、この世界の事を何一つ分からずに死んでいく凡人である。何も知らない人間の言葉を聞かねばならぬ道理がどこにあるのだろう?)


 彼氏なんだから、私の一番の味方になってよ。(こういう価値観の持ち主は、大概生き方を間違えている。どうしてそんな人間の味方にならねばならぬのだ?)


 家の事も子供の事も私に押し付けて、あなただって少しは家の事をやってよね。(自分で望んで築き上げた家族ろうごくの中で不満を喚き散らす。まさにモンスターである)


 誰も彼もが人間自然現象をコントロールしようとして、コントロール出来ずに、ヒステリーをこじらせるのだ。


 彼・彼女達はひょっとして、全人生を懸けたギャグをしているのであろうか?


 だとしたら、それは大成功。


 だって、僕はいつもそれを見て大爆笑しているのだから。


 いつの時代も、人間は、恋人や妻や息子や娘などというあらゆる名前の足枷を作り上げて、愛という曖昧模糊あいまいもこな概念を拠り所として、家族ろうごくという不自然極まり無い集団を作り上げ、その結果、一生を台無しにする。


 生まれた瞬間ときから刷り込まれた、倫理道徳常識あたりまえによって、結婚して家族を構築し、自由を放棄する。


 自ら自由を放棄しておきながら、不自由を嘆く。


 そして、哀れな自分を慰める為に、ブライダル企業の作り上げたプロパガンダを拠り所とした偽りの幸せで自分を騙して、その面白くも無い一生を終えるのである。


 あゝ無情。


 これこそまさに、レ・ミゼラブル。


 映画館で、運命に翻弄されるあわれな人々の姿に涙を流しながらポップコーンを咀嚼そしゃくしている場合ではない。


 君達の生き方は、全く持ってナンセンス。


 そもそも、人間という動物の本能からして恋人も夫婦も無理があるシステムなのだ。


 ボノボって知ってるかい?

 

 子供も中年も高齢者も男も女も関係ない。


 彼・彼女達は、誰とだって、挨拶をする様にフランクに、自由にセックスをするんだ。


 一匹の雄や雌を束縛するなんてナンセンスな事はしない。


 そんな彼・彼女達の世界は男女平等だし、争いだって起こらない。


 人間みたいに、自ら作った不自由の所為せいで生じた不都合の為に、同族同士で殺し合うなんていう馬鹿な真似は、絶対にしないのである。


 ボノボは地球上で一番人間に近い猿だ。


 平和を作りたいのならボノボを学ぶべきであるし、そもそも人間に、一夫一妻制は向いていないのである。


 人間の常識あたりまえは不自然極まり無いのだ。


 道ですれ違いざまにセックスするのが自然なのだ。


 浮気だとか不倫だとかで一々騒ぎ立てるのは気が違っているとしか思えない。


 要するに、彼女も妻も家族も、人間界にある凡ゆる足枷は必要ない。


 皆んなで愛し合えば、皆んなハッピーだ。


 だから、一緒にいたいと思った時に、側にいて、愛し合えばいいのだ。


 『そばにいてもいいかい?』


 『ええ』


 100万回生きた虎猫が教えてくれた。


 それが愛の全て。


 世界中の人間がボノボの様なライフスタイルを取り入れれば、今、人間界にあふれている凡ゆる問題は、あっという間に解決する。


 だから僕は、この学校の千人の女子高生と好きな時に、好きな様に遊ぶのだ。


 これが人間の本来の愛の形だよ。


 『皇月君。今日の放課後空いてる?』

 先程とは違う女の子が、僕に尋ねる。


 『今日の放課後は、美希と愛と結衣と莉子りこと一緒にケーキバイキングに行く予定だけど、良かったら君も来る?』


 『うん、いくいくぅ〜』


 恨めしそうな顔を僕に向ける水谷に、僕は心の声で語りかける。


 (君もいい加減、ボノボに学べよ)


 今日も僕の人生は、華やかな大輪の花束で鮮やかに彩られている。

 


 



 



 


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