人生マジ楽勝!!だって僕、人間100回目だもん。
GK506
第1話 人生のスペシャリスト
金が無い。
才能が無い。
愛が無い。
何も無い。
あれも無い、これも無い。
全く、いつの世も、凡人は無い物ねだりに明け暮れているものだ。
人生はあっという間。
凡人共が自らの力を嘆いている間に、人間の一生なんて終わってしまう。
それはもう、夏の夜の夢の如く。
そうやって、凡人共は、何も成し遂げる事なく、その命を無意味に散らせていくのである。
人生のスペシャリストである僕から言わせると、無い物をねだるのは、全くもって時間の無駄だ。
基本的に、【無い物】というのは手に入らないと相場が決まっているものだし、運良くそれを手に入れた所でまた新しい【無い物】が目の前に現れる。
【無い物】はとても綺麗に光り輝くから、それを欲しがる凡人共の気持ちも、まぁ、分からなくは無いけれど。
でも、そんな無意味ないたちごっこの果てに待っている物はただ一つ。
絶望だよ。
これは間違いない。
僕はもう、呆れるくらい絶望した。
だから、経験者からのアドバイスとして、無い物ねだりはお勧めしない。
それは、この世界の美しさをぼやけさせる歪んだメガネの様な物なのだから。
凡人は凡人なりの人生を全うすれば良い。
凡人である事を嘆くなんて、全くのナンセンスだ。
僕だって、最初の人生では、凡人としての一生を全うした。
でも、その人生が、英雄として歴史に名を残した人生よりも劣っているとは少しも思わない。
どんな人生も、一つ一つがスペシャルで、その価値に優劣なんて無い。
でも、凡人は、【何者か】になる事を求め続ける。
歴史に名を刻まなければ、生まれた意味は無いとでも言うかの様に、【成功】という名の幻想を、人生を懸けて追い求める。
そんな凡人共は、先人達が無価値な自らの命に意味を持たせる為に作り上げた、
それが、凡人がこの世界で選べる唯一の生き方なのだから。
だって、この世界で勝ち上がる方法は、至ってシンプル。
前世の記憶を持っている事だからね。
成功はアートって、どこかの誰かが言っていたけれど、全くその通り。
成功に再現性なんて無い。
成功者のビジネス書なんて読んでも意味が無いんだよ。
全くね。
だって、成功に必要なのは、前世の記憶。
それを持っていなければ、あなたがこの世界で成功を収めるのは極めて難しい。
百年なんてあっという間だからね。
それはもう、ビビるくらいに。
現に今、僕は15才の高校生だけれど、この頭の中には六千年分の記憶が詰まっている。
戦場での記憶も。
国王だった頃の記憶も。
冥界を
全部この頭に詰まっている。
だから僕は、生まれてこの方、勉強もスポーツも恋愛もNo,1。
僕は今回の人生で、かれこれ人間百回目だけれど、大体、十回目の人生から何をやってもNo,1だ。
どの時代のどの国であっても、人間の本質なんて、さほど変わらないものだ。
だから僕は、今回の人生だって、危なげなくNo,1になれる。
本当は、もうとっくに天界で生きていけるのだけれど、ずっとNo,1でいたものだから、今さら天界で底辺から這い上がるなんて、そんな熱いハートで頑張るなんて出来ない。
それに、僕は人間が好きだ。
完璧で無い生命。
心を失って、正しいだけの完璧な生命になんて、僕は死んでもなりたくなかった。
だから僕は、また人間を選んだ。
百回目のこの人生でも僕はまた、No,1だ。
夏休みが空けて、久しぶりに学校へ登校すると、僕は、まるでハリウッドスターででもあるかの様に、学生の群れに囲まれた。
これはたぶん、あれだ。
高校生になって初めての夏休み。
僕は甲子園に出場した。
僕は野球部には所属していないのだけれど、僕の人間離れした運動能力を知る幼馴染のクラスメイトに懇願されて、4番でエースとして夏の甲子園に出場したのだ。
この学校は、学業でも、スポーツでも、文化系の活動でも、日本でトップクラス。
野球部だって、物心ついた時から血の
だがしかし、そんな日本球界の未来を背負っていくであろう彼等の誰一人として、帰宅部である僕が、3割の力で放ったストレートにバットを
前世の記憶の無い彼等は、たった十数年という僅かな時間で、超高校級の実力を手にしなければならなかったのだ。そんな、血の滲む様な彼等の努力の日々を思うと、僕は同情を禁じ得ない。
凡人対超越者。
その当然の帰結として、僕は夏の甲子園の決勝で、【令和の怪物】と投げ合って、投げては27奪三振、打っては5打数5HR、という大活躍をして、一躍プロ注目の超新星となったのである。(おそらく帰宅部史上初の快挙ではないか?と僕は密かに思っている)
たしかに、今の僕は、傍から見れば、ただのIQ350の帰宅部に過ぎない。
でも、前回の人生では、本番アメリカのメジャーリーグでサイ・ヤング賞を5回受賞しているし、殿堂入りもした。
涙を流しながら砂を集める少年達にはゴメンだけれど、正直、僕にとって、夏の甲子園の決勝戦は、余生で楽しむ草野球程度の、軽いお遊びでしかなかったのである。
そういう訳で、今僕は、お祭り騒ぎの学生達に囲まれているのだ。
今日も僕の人生は、勝利と栄光に溢れている。
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