プリンセスドールズと謎の少女

第10話 謎の転校生・星空蘭

 パラレルワールドから人間界へと旅立った日の夜明け、ダークミラージュは、上空から横中を見下ろしていた。

「ここが、横中市ね…」

すると、ダークミラージュはポートフロンティア学園中等部の校舎の屋上にり立った。

「このままでは、周囲に存在をばれてしまうわ。私がダークネス団の一員であることを」

ダークミラージュは、ドールプリンセスのドレス姿から人間の姿に変身する。

「今日からお世話になるわ」

ポートフロンティア学園中等部の制服に身を包んだダークミラージュは、ウエストまである髪が藤色ふじいろから紫色むらさきいろに変わり、黒いリボンをカチューシャ代わりとして結んだのであった。

 そんな朝、つぼみたちはいつものように登校していた。

「おはよう!」

「今日から衣替ころもがえです!」

「夏服もとってもいい感じね!」

 初夏の陽気に包まれた通り道、つぼみたちはポートフロンティア学園中等部の夏の制服に身を包んでいた。

 「さあ、六月といえば何を思い出しますか?」

「はい!六月といえば、物憂ものうげな雨に打たれる季節です!」

「それもいい意見ですが、もうすぐ梅雨つゆが来るということです」

「梅雨入りはまだなの?」

「例年通りだと、もうすぐ来ると思いますが…」

一年一組のホームルームでは、六月の話題をやっていた。

「みなさん、この時期は雨がりやすいので、くれぐれもかさわすれずに」

「そういえば、天気予報によれば夕方からの降水こうすい確率かくりつが上がっているから、気を付けてくださいね」

「あっ、折りたたみの傘を持ってきていないんだった!」

「これもつぼみちゃんらしいね」

アリスから雨のことについての話を聞いたつぼみに、沙奈(すなな)は思わず照れてしまった。

 「さて、今日からここに転入生がやってきます!では、どうぞ!」

「もう六月だよ?」

「季節外れの転入生という感じだね」

「男の子かな?女の子かな?」

「かわいい?かっこいい?」

「誰かと似ているかな?」

一年一組に新しいクラスメイトが入ってくることに、どうやらクラスメイトは落ち着かない様子だ。

「仲良くなれたらいいな」

つぼみがこう期待を寄せていた途端とたん、転入生が入ってきた。

 「それでは、自己紹介をお願いします」

転入生が黒板に白いチョークで自分の名前を書く。

星空ほしぞららんです。よろしくお願いします」

「みなさん、星空さんのことを仲良くしてください」

「よろしくお願いします!」

蘭が転入することになったクラスメイトは、

「すごくかわいいね!」

「クールでかっこいいし」

「イケてるね!」

とクラスメイトが蘭の第一印象を語り始めると、

「つぼみ、星空さんの印象は?」

「どこかで見たことがあるような…」

「あっ、星空さんがぼくとつぼみの班に入るみたいだよ」

蘭は、つぼみと晴斗の班に入った。

「よろしくね」

「よろしく」

「愛沢さん、藤村くん、よろしくね」

同じ班になった蘭はつぼみと晴斗に挨拶あいさつした。


 蘭がポートフロンティア学園中等部の生徒としての初授業は、家庭科の調理実習だ。

「気を付け、礼!」

「お願いします!」

「今日は、ケーキを作ります!私は、みなさんが作った素敵なケーキがどんな感じなのかを期待しています!では、がんばってください!」

「はい!」

今回は、ホールケーキを作るという。

「楽しみだね!」

「一緒に頑張がんばろう」

「そうね」

つぼみたちも気合十分だ。

「私のことはつぼみでいいよ。星空さんは?」

「蘭で呼んでね」

「もし何かあったら、私と晴斗くんがフォローするからね」

「うん」

 早速、つぼみたちはケーキ作りに取りかる。

「つぼみ、とっても料理上手だな」

「うん。特にスイーツはね」

スイーツ作りを趣味しゅみとしているつぼみは、慣れた手つきで調理していく。

 共立てで作るスポンジケーキの工程を、つぼみが蘭たちに教える。

「ケーキの型にクッキングシートをき込んで、オーブンを百八十度に予熱するよ!」

「バターは湯煎ゆせんで溶かすよ!ちなみに、バターは無塩むえんがおすすめ!それから、ボウルに卵とグラニューとうを入れて、グラニュー糖が溶けるまで湯煎にかけながらしっかり泡立あわだててね!」

「これでいいのか?」

「そうね!あまり湯煎しすぎてしまうと、生地が膨らみにくくなるから気を付けて!」

「生地を上かららしたときに、十秒程度文字が消えずに残るまで泡立てることがポイントだよ!」

薄力粉はくりきこるい入れ、ゴムベラでさっくりと混ぜ合わせてね!」

「ポイントは?」

「生地に泡がなくならないようにすること!」

「そうか。わかったよ」

「ある程度混ざったら、バニラエッセンスを入れて!」

「型に流し入れて二回ほどトントンと上から下へ軽く落とし空気をいたら、百八十度に温めておいたオーブンで二十五分焼いて、たけぐしして何もついてこなければ、スポンジケーキの焼きあがりだよ!」

こうして、スポンジケーキが完成した。

 「さあ、蘭の出番だ。このケーキにデコレーションしてほしい」

「分かったわ」

「頑張って!」

蘭は、ホールケーキにマジパンやフルーツでデコレーションをほどこしていく。

「バラのかざりはここに置いて…」

「ケーキを焼いている間に私が作ったんだよ!」

「ルビーチョコレートとアラザンをデコレーションして…。これでいいかな」

「いい感じ!」

「完成だ」

「よかったね!」

つぼみたちは、ラブリーピンクをイメージしたピンクのホールケーキを完成した。

「沙奈、順調に仕上がっている?」

「もちろん!」

同じ頃、沙奈の班もメロンのホールケーキを完成したようだ。

「これを冷蔵庫に保存しよう」

「食べるのが楽しみだね」

「うん!」

つぼみたちは、出来上がったケーキを昼休みに食べるという。

 その最中に、体操服に着替えたアルファが家庭科室に潜入せんにゅうする。

「あら、いいケーキがたくさんありますわ。でも、そのうちの一番よくできたケーキをいただこうかしら」

すると、アリスたちの班が作ったなつ満載まんさいのフルーツのホールケーキに、アルファは目を光らせた。

「これに決めましたわ!」

アルファは早速、じゅうの生成に取り掛かる。

「大変だ!あやしい予感がする」

休み時間、チララが魔獣の気配けはいを察知すると、

「家庭科室で事件のかおりがします」

とアリスが反応して家庭科室に急行する。

そこで待っていたのは、アルファだった。

「あら、またお会いすることができて本当に光栄こうえいですわ。では、本日の魔獣はこちら!お菓子かしの魔獣ですわ!」

アルファの合図で、フルーツやチョコレート菓子でデコレーションされた二段のホールケーキをかたどったお菓子の魔獣が現れた。

「みんなのケーキをぬすむなんて、どういうことですか!?」

「オーホッホッホッホッホ!気づくのがおそかったのですわ!」

アリスは、自分たちの班が作ったケーキをアルファが持っていかれたことに、いかりをあらわにした。

「それでは、始めます!」

アリスは、プリンセスミラーでシトラスイエローに変身する。

「プリンセスジュエル、セット!プリンセス・ドレスアップ!」

アリスを黄色い光が包み込む。

「花のプリンセス・シトラスイエロー、見参!」


 シトラスイエローが現れると、魔獣がこちらに向かってめてくる。

「やっちゃいなさい!」

すると、型抜きクッキーでできた魔獣の手下が現れた。

「ピカっとひらめきました!あまいものは塩分が大敵ですから、しおを魔獣に振りかけましょう」

シトラスイエローのひらめきで魔獣に向かって塩を振りかけると、魔獣はみるみるうちに弱体化していく。

「何ですわ!塩分が糖分を上回るなんて」

そこに、キルルが現れた。

「シトリンのマジカルジュエルを使うわよ」

シトラスイエローはプリンセスミラーにシトリンのマジカルジュエルをセット。その力をプリンセスバトンロッドにさずけると、

「プリンセスステージ、ライブスタート!」

シトラスイエローによる魔獣の浄化が始まった。

「花がいて 鳥も鳴いたら」

「あたたかな季節がはじまる」

「たんぽぽの綿毛が」

「飛んでいかないうちに」

「風がいて 月も光ると」

「一日の終わり」

「光に照らされていく」

「黄色のきくが」

「はちみつ色の日々」

「私の人生は」

「甘くてほんのり」

「味を感じるの」

「Honey Days」

「It’s a Wonderful Life」

「花が咲く 太陽浴びて」

「新しい日 始まる」

「東に差し込んでくる」

「希望の光」

「はちみつ色の日々」

「今の気持ち」

「なんてハニカムなんだろう」

「はちみつ色の日々」

「私の人生は」

「甘くてほんのり」

「味を感じるの」

「Honey Days」

「It’s a Wonderful Life」

「シトリンのかがやきでパワーアップ!乙女おとめの勇気!シトリン・フローラル・セラピー!」

シトラスイエローがプリンセスバトンロッドでオレンジ色の花をえがき、魔獣に向かって放つ。すると、魔獣は跡形あとかたもなく消えていった。

 「ちゅ、ちゅ、ちゅっぴー!」

と、チララが魔獣のコアから出てきたマジカルジュエルのありかを察知。そこにたどり着くと、

「キャッチ!」

とマジカルジュエルを回収することに成功した。それをシトラスイエローのプリンセスミラーに認識すると、

「ペリドット。黄緑のマジカルジュエルだ。八月の誕生石で、石言葉は『夫婦の幸福・平和・安心・幸福』である。カンラン石の中で宝石ほうせきとしてあつかわれるもので、含有がんゆうする鉄分の作用によって緑色を示す。 ペリドットは、夜間照明の下でも昼間と変わらないあざやかな緑色を維持したため、ローマ人から夜会のエメラルドと呼ばれていた。後にペリドットは十字軍で紅海こうかいかぶセントジョンズ島から持ち帰られ、中世の教会の装飾そうしょくに使われた。二百カラット以上の大きなペリドットが、ケルン大聖堂にある東方の三博士の三つの聖堂を飾っている。産地としてはセントジョンズ島があり、鉱脈こうみゃく枯渇こかつしていないが、採掘さいくつが禁じられている。宝石として流通できる品質のものの産地は、アメリカ合衆国のハワイやアリゾナ州、中国、ミャンマーなどである。いしてつ隕石いんせきの一種のパラサイトの中に、まれに宝石質のカンラン石が混じっていることがあり、原石のまま特に大きいものはカットされ流通することがある。隕石自体がめずらしいものであり、その中でも稀にしか見られず、生成の由来が所有者の夢をかきたてることもあり、かなり高価である。ペリドットは、マグネシウムを含む苦土橄欖くどかんらんせきと、鉄をふくむ鉄橄欖石が混ざりあっている。苦土橄欖石が多いと黄緑色、鉄橄欖石が多いと褐色かっしょくや黒色になる。宝石として使用されている黄緑色のものは、苦土橄欖石がほとんどである」

 「それではみなさん、また次回輝く世界でお会いしましょう!プリンセスステージ、ハッピーフィナーレ!」

シトラスイエローが勝利宣言すると、

「もう、また負けちゃったんじゃないの!でも、次はゆるしませんわよ!」

アルファはこうなげいて、小型のマシーンに乗ってどこかに去っていった。


 昼休みの時間、中庭にいるつぼみたちは授業で作ったホールケーキを食べる。

「では、いただきます!」

「いただきます!」

「まずは、私と晴斗くんたちで作ったピンクのホールケーキを食べてみて!」

沙奈とアリスがピンクのホールケーキを食べると、

「おいしいね!」

「ちょうどいい味がします」

めると、どうやってピンクのクリームを作ったのかをつぼみにたずねる。

「そういえば、ピンクのホイップクリームはどんな味がするの?」

「気になります」

「生クリームにラズベリージャムを入れたんだよ!着色調味料を使っていないから、安心してね!」

「なるほど、いいアイディアですね!」

「つぼみらしいアイディアね!」

その後、沙奈たちの班が作ったメロンのホールケーキと、アリスたちの班が作ったフルーツホールケーキを食べる。

「私たちのケーキはどう?」

「今からワクワクしていますよ」

「どっちもおいしい!」

「メロンのホールケーキも、フルーツのホールケーキも、気に入っているよ」

「ありがとう!」

うれしいです!」

 つぼみたちがケーキを食べていると、蘭がここにいないことに気づく。

「あれ、蘭は?」

「四時限目まではいたけど…」

「どこにいるのでしょうか?」

「でも、ケーキについては彼女かのじょの分はとっておいたからね」

「蘭ちゃんも食べたいと思っているわ」

「きっと来るでしょう」

「僕たちも待っている」

つぼみたちも、蘭がここにもどってくることを待っているようだ。

 一方その頃、蘭は西野先生がいる職員室にいた。

「あの…西野先生、すいません。ちょっとこの一次式の問題がわからないのですが…」

「分配法則を使って、解いてみて」

蘭が数学の宿題を解いてみる。

「…これかな」

「正解です」

「ありがとう!」

「もし分からないことがあれば、私の所まで来てくださいね」

「はい!」

 西野先生がこの場から去ろうとしたその時、蘭と目を合わせる。

「あの先生、ちょっと気になるわ…」

蘭はこうつぶやいたのであった。

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