第36話 決意

 あの名前が長くて覚えられない店の2人が現れてから、ずーっと考えてた。


 お客さんについてる時だけは頭から消えてたけど、見送った瞬間から、この店を辞めたら、もう二度とこのお客さんに会えないのかもしれない、と、頭によぎった。


 エミリさんやカンナちゃんの顔を見ると、やっぱり何も言わずに辞めることはできないなあ、って思った。


 何か言って辞めるなら、何を言えばいいんだろう。


 ずーっとモヤモヤ考えてて、ふと、私は辞めることは内定してるな、って気付いた。唐突に。


 あら、私が今悩んでるのは、辞めるか辞めないかじゃない。誰に何を言って辞めるか、誰にも何にも言わずに辞めるのか。


 どう辞めるか。その先が、希望しかない。


 私にとって新垣結衣に通じる道は、自覚してた以上に、絶対なんだな。


 私は、わがままなんだ。だから悩んでるんだ。


 私はどうしても新垣結衣に会いたいから、少しでも新垣結衣に近付けそうなら、迷わずそちらへ進みたい。


 でも、お世話をお掛けしてしまった、ユイちゃんとしての私を育ててくれた、一緒に楽しい時間を過した、エミリさんやカンナちゃんやお客さんたちとも、今のいい関係のままでいたいんだ。


 全部欲しいのは、わがままだ。誰にも嫌われずに、自分の希望を追いたいのは、わがままだ。


 私は、わがままだ……。自分だけでは、ひとつを選べない。自分の選択肢を、見せられる人。一緒にどれを選べばいいのか考えてほしい、頼りたい人。


 ……1番、嫌われたくない人。


 なんなら、私だけじゃ選べない選択肢を決める、共犯にしたい人。


よし、腹を決めた。行こう! 私は、新垣結衣に会うために、この天神森に来たんだから。



 夕方4時。


 昨日より早いけど、昨日言ってたみたいに今日もいるのかな? 早すぎていないかな?


 いないならいないで、店に直進しちゃえば今日は顔合わさなくていいかも?


 こんな所でモタモタしてる場合じゃない。決めたならばもう、行くしかないのじゃ。よし! 行こう!


 寮を出た。


「ユイさん、こんにちは」


 いた―――!


 昨日と同じく、本郷さんとアンパンマン。


 いや、落ち着いて。私は条件なるものを、私なりに考えた。


「条件……ひとつだけ」


「なんなりと」


 背の高い本郷さんは優しい笑顔で、やっぱり私を見下ろしてくる。

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