第32話 ボディタッチ2

 よし、私もやってみよう!


 次についたお客さんに、ちょっとボディタッチして、おねだりしてみる!


 お、ちょうど松田さんが今日来てくれるらしい。松田さんは、超優しい。おねだり実験にはぴったりだ。


 松田さんへの返信を打っていると、ドアがカランカラーンと鳴った。


「いらっしゃいませー」


 と言いながら、メッセージを打ち続けていたら、


「ユイちゃん、ご指名です」


 黒崎さんが来た。


「え、もう?」


「はい?」


 あ、松田さんじゃなくて、堀さんだ。


 堀さんかー……堀さんにとって私は、お店の女の子ってよりも我峨弁の研究対象だからなー。


「堀さん! ご指名ありがとうございます!」


「おーユイちゃん、久しぶり!」


 隣に座り、おしぼりを渡す。


「見事標準語をマスターしたら、分かりやすく来ないんだもん」


「たまたまだよ! 仕事が忙しくて」


「そうなの? お仕事お疲れ様ー!」


 堀さんは、さらに我峨弁について研究を重ねていたそうだ。


 そんなに方言っておもしろいか?


「おもしろいことが分かったよ、ユイちゃん」


「はあ、なんでしょう」


「なんで、あんなに研究してた我峨弁なのに、ユイちゃんの我峨弁は初め気付かなかったほどに、分からなかったのか」


 ぎくり。


「ユイちゃんの我峨弁は、昔からある我峨弁じゃなくて、若者言葉だったんだねえ」


「あ、あはは」


「いやー、なかなか汚い言葉遣いだったようだねえ」


「えー? そうかなあ?」


「まさか、こういう店で働く女の子があんな言葉を遣うとはねえ。よく標準語では出ないもんだねえ」


「堀さん! 今日はビールにしません? 私もビール飲みたいなあ! 乾杯しようよ! 」


 あ、エミリさんはお客さんについてるわ。


「黒崎さん! ユイ、ビールふたつ!」


「ありがとうございまーす!」


 あははははは、と堀さんは笑っている。


「必死でごまかすなあ」


「えー? そんなこと、ないですう。売上少ないから、頑張っただけですう」


「似合わないなー」


 むう。


 やっぱり、私にはかわいこぶりっこは似合わないのでは……。


「え? 売上少ないの?」


「少ないの。向いてないのよ」


「まさか。何も考えずに、その声を信じて頼んでみなよ。悪い気のする男はいないと思うよー」


 ほお。


 この声を……。


「じゃあ堀さん、フルーツ盛り頼んでいーい?」


「いやいや! ポテトフライでお願いします!」


「じゃあ、ポテトフライねー。黒崎さーん! ポテトフライお願いします!」


 あら、ビール2杯にポテトフライ、さらっと上げられた。


 おや?


 言ってみれば、案外注文してくれるものなのかしら?

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