第31話 ボディタッチ

 給料日翌日。


 今月は、誰も飛んでない、のかな?


 ただ、気になったのがマイカちゃんだ。


 カウンターのエミリさんと話しながら、ひとりで飲んでいたナイスミドルなおじ様の背中にペタ〜〜って張り付いて、


「指名してよ〜〜」


 と生気のない顔で言ってて、ちょっと怖かった。


 エミリさんに、なんか言われたんだろうなあ……。


 ただ、この店は客に触らせるのもNGながら女の子からの過度のボディタッチも禁止されているので、エミリさんから


「マイカちゃん! 失礼だから、離れなさい!」


 と、注意されてしまっていた。


 でも、お客さんが


「いいよいいよー、1時間だけね、マイカちゃん」


 と、ニタニタと指名してくれてた。


 ええ?! あんなナイスミドルが?! ちょっとペタ〜ってくっ付いただけで、あんなキモイ顔して指名もらえるもんなの?!


 ボディタッチ、最強じゃない? 最速じゃない?


 店ルールでダメだってなってるけど、いざとなったら使お。


 1時間どころか、閉店まで指名してたしね。




 小さい店とは言え、トップになったってのは、私も少しはレベルアップしているはず。


 あとは、売上だな。


 かなり前にエミリさんに教えてもらった、客の手を握ってのおねだり。


 いまだ実践したことないんだよな。


 だって、唐突に手を取りにいくのがもう、不自然な気がするし。


 売上上げたいから、手を握ります。ほーら、ドキッとしたでしょうよ、フルーツ頼んでよ。


 って言ってるようなもんだと思うんだよね。


 客の方もそれを感じ取って、むしろ意地でも頼むか! ってならないものかしら。


 さっき客が帰ったテーブルを拭きながら、ふと、今まさに指名のお客さんについたばかりのミズキちゃんが目に入る。


 急にお客さんに寄り添って、肩に頭を載せてなんか言ってる。


 顔、近! あれはセーフなのかしら?


「エミリさん! ミズキ、ビールとオレンジお願いしまーす!」


「ありがとうございまーす!」


 おねだりをしてたらしい。


 注文しながら即、体を離していたのでセーフなのかしら?


 熱心に掃除しながら観察を続けると、やってきたビールとオレンジジュースで乾杯。


 互いに数口飲んだところで、ミズキちゃんがお客さんのビールを奪ってグビグビいってる。


 小さいジョッキだし、ほとんどミズキちゃんが飲んでしまった。


 苦笑いのお客さんが何か言うと、ミズキちゃんは自分のオレンジジュースを差し出して、お客さんに飲ませている。


 お客さんから戻ってきたオレンジジュースを飲み干し、ビールも飲み干させて


「エミリさん! ミズキ、ビールとオレンジお願いしまーす!」


「ありがとうございまーす!」


 早くも、4杯も売り上げてしまった。


 わずか5分ほどで、2000円の売上か。


 これを複数の客でやったら、高いフードでやったら、バンバン売上上がるわねえ……。


 しかもなんか、イチャコラした雰囲気で、お客さんが気分を害してる様子は微塵もない。


 ……やっぱりミズキちゃん、恐ろしい子だ!

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