第28話 ガールズトーク
どうしよう、どうしよう、とカウンターの中でウロウロオロオロしていたら、カランカラーンと扉が開いた。
エミリさん?! 思い直して戻って来たのかな?!
「エミリちゃん、出てるんでしょ。来てあげたわよ」
チエミさんか! チエミさんが、エミリさんに指示したんだ!
このババ……おばちゃん!
自分の言うことなら疑問を持たずにやっちゃうって分かってるエミリさんに、なにさせてるんだよ……。
無意識にチエミさんを睨みつけていたみたいだ。
カンナちゃんがカウンターに小走りでやって来て、
「ユイちゃん、顔! さすがにその顔は怒られちゃうよ〜」
あ、ヤバい?
とっさに、しゃがみこんでカウンター裏に隠れた。
「ビーワンの売上が激減してるんだって。エミリさんがネチネチ責められてるの一昨日聞いちゃったよ。今エミリさんいなくて良かった」
ホッとしたように言って、カンナちゃんはおしぼりを持ってボックス席に戻って行った。
ネチネチと……エミリさん、追い込まれてたんかしら。
エミリさんが戻って来ないまま、閉店まであと1時間ってところで、客がゼロになった。
「店開けてるだけお金の無駄ね。今日はもう閉めるから、掃除して」
と、チエミさんが言った。
お金の無駄、か。私らの時給とか、光熱費とか?
掃除してたら、コソッとカンナちゃんが
「2人で飲みに行かない?」
と言って来た。
「いや、カンナちゃん未成年でしょ」
ちょっとめんどくさいし、早く終わるなら早く帰りたかった。
「ご心配なく。昨日ハタチになりました」
「昨日?! えー昨日言ってよ!」
「寮の隣のトリキね! 一緒に帰ると思われないように、私先に出るから」
「へ? あ、うん」
言ってた通り、カンナちゃんは掃除が終わると真っ先に更衣室に入り、お先に失礼しまーす! と出て行った。
私もすぐ更衣室に入る。
エミリさん、今日は戻って来ないのかな。着替えて出てくると、チエミさんがいた。
「お疲れ様です」
「ユイちゃん、ごはんでもどう?」
険悪な空気にしかならん自信あるわ。
「すみません、今日は約束があるんで」
「カンナちゃんと?」
「いえ、地元の友達が来るので。お先に失礼します」
急いでるフリして、カランカラーンとドアを開けて店を出た。
あ。
閉店1時間も早まってるのに、約束に遅れそうなフリって、これバレバレですわ。
まあいいや。なんぼでも嫌え!
寮の隣のトリキとカンナちゃんは言ってたけど、寮とトリキの間には、細長いビルがある。
カンナちゃん、もうトリキ前で待ってるかな?
よく見えないけど、とりあえず一旦部屋に戻って、給料袋からいくらかお財布に移した。
昨日もカンナちゃんは働いてた。ハタチの誕生日だもの、お祝いしないと!
急いで向かうと、カンナちゃんが立っていた。
「お待たせ!」
「ううんー入ろ入ろ」
平日の深夜だけど、結構お客さんがいる。私達は、奥のテーブルに案内された。私はチューハイ、カンナちゃんはカクテルでまずは乾杯だ!
「お誕生日おめでとう!」
「ありがとう〜」
「でもさ、そういやカンナちゃん2ヶ月くらい前にバースデーやってなかった?」
「私のママのバースデーよ。ママがいるから私がいる。ある意味私もバースデーでしょ」
「なにそれ?」
「店に本当の誕生日なんて言ったら、彼氏がいても誕生日はバースデーイベントやんなきゃいけないのよ! 絶対イヤだから嘘の誕生日を言ってあるのよ」
「ええ〜そんな裏ワザあるの! 私本当の誕生日言っちゃったよ」
適当に、焼き鳥とサラダとサイコロステーキとか頼みつつ、カンナちゃんの彼氏の話を聞いたり、久しぶりのガールズトーク!
「あ、でも彼氏できてもエミリさんとかチエミさんには言わない方がいいよ」
「え? なんで?」
「別れさせられるよ。リンちゃん、それがイヤで辞めたのよ」
「えー、なに?」
「リンちゃん、エミリさんとチエミさんとお昼食べに行こうって誘われて、しゃべってた時に彼氏と1回別れて復縁したって話したんだって」
「うん」
「それからもう、一度別れた相手とは絶対うまくいかないから、別れた方がいいってめっちゃしつこく言われて、すっかり嫌気が差しちゃって辞めちゃったよ。実際はラブラブだったしさ」
「うわーうざー……」
私がしょっちゅう呼ばれるのも、彼氏作らせないためだったりしたのかなあ?
「でもさ、彼氏できて何が悪いのさ」
「そりゃ辞めるからでしょ。水商売やってるの分かってて付き合いだしても、いざ付き合うと店辞めてくれって言う男も多いんじゃない?」
「それで辞めるのもイヤだけどね。好きにさせろよ仕事くらいって思っちゃうわ」
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