第27話 申込書

 ちゃんと聞いてから出てくるべきだった。


 戸倉さんが帰るまで、30分ほどかけてオレンジジュース買って来たらいいのかしら。


 エミリさんがうまいことなんて言ってるのかも分からないし、30分後くらいに戻るか。オレンジジュース買うのにどんだけ時間かけてんだって怒られたら、謝ろ。


 一旦寮に戻って、上着を羽織り自転車の鍵を持って、自転車に乗り、なんとなく、聖天坂に向かう。


 天神森のトップクラスのホステスやホストが住むマンション。


 NOVAかー……。


 自転車で、片道10分足らずでNOVAに着いた。この距離でタクシーって、金持ちってより感覚おかしいんじゃないの? って思っちゃうなあ。


 さて、コンビニでオレンジジュース買って帰ろう。


 手近なコンビニに入る。奥のジュースコーナーから、100%オレンジジュースを手に取り、レジに並ぶ。


 3人くらい並んでる。


 おばあさんがレジを打つ横で、若い男の子が椅子に座ってスマホを見ている。その目の前には、もう1台のレジあるんだけど。


 ……あのレジ、壊れてんのかな?


 新人さんかしら? スマホでメモ取ってんのかしら?


 ジロジロ見てたら、男の子が顔を上げた。


 大学生くらいかな? 彫りの深い、若い名倉潤って感じのそこそこイケメンだ。


 あ、私の番が来た。


 お会計を済ませ、オレンジジュースを手にコンビニを出る。


 あと5分程で指名の時間は終わるはずだ。店に着く頃には、戸倉さんは帰っているだろう。


 寮に上着と自転車は置いてく。


 裏口から店に戻り、恐る恐る店内を見渡してみる。


 ……あれ?


 戸倉さんとエミリさんがカウンターに移動している。現金庫にお釣りを入れるため、カウンター内にそーっと入った。


 戸倉さんは、エミリさんに教えられながら何か書いてるようだ。


 ……申込書?


 何気なく目に入ったのは、消費者金融の申込書?!


 え?!


 私が戻って来てることに、エミリさんは気付いているのか、いないのか、


「よし、OK! 行こっか」


「はい」


「私ちょっと出てくるから、少しの間お願いね」


 と黒崎さんに告げ、戸倉さんと店を出て行った。


 えーと……実は、戸倉さんとエミリさんは兄妹で、兄に頼まれて、借金の申し込みを手伝ってあげた説。


 あとはー……


 若く見えるけど、エミリさんがお姉さん説。


 じゃないとしたらー……


 エミリさんが客に、借金させようとしてる説。


 いや、それは、法的にもどうなの?


 ホステス 客 借金させる


 客 消費者金融 借金させる


 検索してみるも、ダメだ。夜職で借金する方法ばっかり出てくる。


 もう、ダイレクトに……


 ホステスが客に借金させる


 ……ダメだ! 客がホステスに入れ込んで借金するパターンばっかり出てくる。


 戸倉さんは、自分が借金すること、ちゃんと分かった上で自分の意思で申込書を書いたのかしら……。


 いや、たぶん、エミリさんが指導したんだろう。


 ここに名前書いて、住所書いて、って。


 その戸倉さんに借りさせたお金を、店に落とさせるつもりなんだろうか……。


 いやまさか、エミリさんがそんな……。


 たしかに、アヤちゃんが辞めてからというもの、過剰に売上上げさせようとしてる感もあったけど……。

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