第25話 賢い子

 オーナーの誘いに乗って寿司食いに行くかどうかはともかく、ぜひって言えばチエミさんに嫌われるなら、本当にぜひって言えば良かった。


 週1~2で、お昼ごはんを食べようだの、お茶しにおいで、だの誘って来る。


 いつも、エミリさんと3人でだ。


 エミリさんは、本当にチエミさんを尊敬してやまないみたい。


 チエミさんの言うことは絶対だと、信じてるみたいに見えた。夜の世界で長年働いてるのに純粋過ぎないかい?


 でも、そんなエミリさんだから素直に言う通りにしようと思えるし、好きなんだ。


 エミリさんも、同じ感じでチエミさんを尊敬してるのかな……と思おうとしても、どうしてもエミリさんとチエミさんは全然違うとしか思えないんだよねえ。


 今日も仕事前にお昼ごはんからのマンションコースで、すでにクタクタですわ。精神的に。


 ミーティング前の、わずかな自由時間。今日から新しい子が入っていた。


 今店にいるメンバー、カンナちゃん、マイカちゃん、私、ミズキちゃん、週1のユキノちゃん達とはどうも毛色が違う雰囲気が漂う。


 アカネちゃんだ。


 よし、パイセンとして、話しかけてみよう。


「アカネちゃん、昼間はなんかしてるの?」


 無難に、でも時間もないし、気になったとこガシガシ聞いてみよ。パイセンですから、嫌な顔したって聞きますわよ。


「大学に通ってます。薬剤師になろうと思ってて」


 毛色の違う理由が分かったね。


 この子は、お勉強のできる子だわ。


 残念ながら、エミリさん含め、そりゃ稼ぐなら水商売だよねって感じの女の子が揃っている。


 けど全然、アナタ達とは違って私賢い感は出てない。むしろ、ハキハキ答えてくれて感じがいい。


「なんで薬剤師?」


「医師や看護師に比べるとまだ取りやすいし、費用もかからないし、パートの募集も多いから結婚して子供できても働きやすい資格なんですよ。夜勤もないし」


 ……なんて、しっかり者! この私が言葉を失ったわ。


「高校生で、そう考えて大学行ったわけだよね?」


「そうですね」


 はー……なんて賢い子なんだ。


「で、なんでこの仕事をしようと? 家庭教師とか、頭活かした高時給の仕事もできそうなのに」


「受験生教えるとか、そんな責任負えませんよー。それに、人に勉強教えるくらいなら自分の勉強したいし。勉強優先で効率的に稼ぎたいんで」


 ……目的が明確で、なんてしっかりした18歳なんだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る