第22話 沼
今日は、3時からお出かけだ。
あーあ、行きたくないなあ〜〜。
なんか知らんが、エミリさんとチエミさんと3人でお昼ごはんを食べに行くんだそうだ。
なんで、私が……。
3時に、店の前で待ち合わせ。3時ちょうどくらいに到着した。
このまま店に入る方がいいなあ。と思っていたら、タクシーが来た。
助手席にエミリさん、後部座席にチエミさん。
後部座席のドアが開く。
マジですか……。
「おはようございます」
と、一応笑顔でタクシーの後部座席に座る。
「おはよう。美味しいもの食べさせてあげるから、期待して〜」
「わー、楽しみですー」
わーん、早く帰りたいですー。
タクシーで1駅向こうの
車内ではずっと、いかにセレブな日常を送っているか語られ続けて、もうヘロヘロ。
「あなたも頑張れば、こんなバッグ持てるのよ」
ってデッカいロゴの大きいバッグ見せられたけど、私ゃそんなもん、いらんのだ。
田舎から使ってたカバンを今も普通に使ってる。
最近ふと、考える。
新垣結衣になるため、女優か弁護士になるんだ! と電車に飛び乗りこの街へやって来た。
声だけとは言え、新垣結衣を得た。
さて、どうしよう?
私は別に、夜の街で女帝になりたいわけではない。
新垣結衣を一部得た今、私の夢は新垣結衣に会うこと、1本だ。
ただただ、ずっとドラマで何回も何回も観た新垣結衣に会いたいんだよ。
地元は、テレビすらただの箱、ケータイの電波も不安定で動画なんてストレス溜まって観れたもんじゃないとこだった。
なんにもやることない田舎で、友達とつるむうち、知らず知らず人の道を踏み外す若者も少なくない。
私もその1人だった。
とにかく、刺激がないんだもん。
高校を卒業してからは、素行の悪さはエスカレートした。
車に乗る友達が増えて、行動範囲が広まったからだ。
でも、自分が悪いことをしている自覚は正直なかった。
毎日楽しく過ごしてるだけだったんだ。
ある日、友達数人と電車に乗ってどっか適当な駅に降りて散策しよう、と、最寄り駅まで車で1時間かけて、電車に乗った。
降りたところが結構都会でコンビニとかあって、漫画で見た、レンタルDVDショップもあった。
水谷店長がいたりして〜とか言いながら入ってみたら、新品セルDVDのコーナーにリーガルハイのDVDボックスがあった。
パケ買い癖のある私は、パッケージの新垣結衣の綺麗さに圧倒され、買った。
所持金じゃ全然足りなかったので、すぐさまダメなやり方で現金を入手して、買った。
まさか弁護士ドラマとは思わず、なんげドロドロしよち愛憎劇かんぬ、と期待して買った。
テレビは放送してるのは観れなくても、DVDは普通に観られた。
初めて観た時、爆笑しながらも、自分は正義とは真逆の近寄っちゃいけない沼にハマっていたのかも、と衝撃的に気付いた。
どハマりして、何回も何回も繰り返し観てた。
私にとって、十分刺激的だったんだ。
まず、とにかくかわいい。電車にただ乗ってるだけからもう、かわいい。
そして、弁護士として、馬鹿にされても、お金にならなくても、真実を追求する。
何回も繰り返し観るうちに、私もあっち側に行きたい、と強く思うようになった。
新垣結衣+新垣結衣演じる
あのDVDボックスと出会わなければ、今頃、私に国選弁護士がついてたかもしれない。
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