第20話 チエミさん

 給料日翌日だ。


 今回飛んだのは、リンちゃんだった。


 リンちゃん、カンナちゃんと仲良かったのに……。


 私だって、そこそこ仲良いつもりだった。


 リンちゃんはカンナちゃんと仲良しだしーって遠慮するとこはあったけど、リンちゃんのことが好きだった。


 接客がみんなのお手本みたいに言われてたのに、なんで……。


 またお話したいと思うお客さんとも、また来てくれなきゃ会えない仕事だ。


 そして、今日もいつものように会えると思っていた仲間とも会えないまま終わる事もある仕事だ……。


 アヤちゃんの時に学んでいたはずなのに。


 また、悲しい。


 リンちゃんが飛んだ翌日、普通に5時頃出勤したら、知らないおばちゃんがいた。


 なんかいるなーって気付いたけど、どうでもよかったから知らん顔した。


 着替えて更衣室から出てくると、


「ユイちゃん! ユイちゃん!」


 と、エミリさんが呼んでる。その隣には、知らないおばちゃんがいる。


 めんどくさいなあ……。


「はい」


「ユイちゃん、初めてじゃないかな? こちら、本店のママのチエミさん」


「よろしく。ユイちゃん」


 握手を求められる。欧米か。そりゃ応じるけど。


「本店?」


「うちのオーナーがやってる店の中で一番大きいのが本店」


「エミリちゃんも元々は本店で働いてたのよ。売れっ子だったのよ〜」


「いえいえ、チエミさんのおかげですー」


 上下関係半端ないのが太マジックで書かれてるかのように分かるな。


「こっちの人手が少ないから、本店にヘルプ頼んだの」


「うちも女の子足りてないくらいなんだけど、こっちの方が大変そうだから私が来たのよ」


「本当にありがとうございますー」


 ってエミリさんは言ってるけど、若い子が好きなお客さんの多いこの店におばちゃん来て助けになるの?


 私が来ないで女の子寄越せよ。


 案の定、チエミさんは来るお客さんにひと通りついてあいさつするも引かれ、古いお客さんとは


「久しぶりだなー、チエミちゃん」


 と、同窓会みたいになっていた。


「エミリちゃん、灰皿取って」


 とか、エミリさんを自分の周りに置いて雑用させるものだから、こちらはエミリさんの指示が来なくて働きにくい。


 エミリさんの代わりに、黒崎さんが全体を見て指示してくれていた。


 黒崎さんの仕事じゃないのに。


 邪魔だなあ。このおばちゃん。ほんと、何しに来たんだ。邪魔しに来たのか。


 閉店後、掃除しながら


「なんなの、あのおばちゃん。邪魔だわー」


 とポロッとこぼしてしまったら、カンナちゃんが教えてくれた。


「チエミさん、長年オーナーの愛人で自分の店みたいに思ってるからね」


「愛人の分際で態度でかいなあ」


「気持ちは分かるけど、ユイちゃん態度あからさま過ぎるよー。もうちょっと愛想良くした方がいいよ」


「嫌いなんだもん。今日すっごくやりにくかったわー」


 ほんと、あの人何しに来たのか全く分からなかった。

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