第19話 憎き収入源

 見事にガッキーボイスと言う武器を手に入れた私は、その大きすぎる武器を使いこなせずにいた。


 声のインパクトが強すぎるのだ。


 否、私の技量がなさすぎるのだ。


 そもそも、私自身を気に入って指名してくれる人って、我峨弁に興味津々の堀さん、店に来てくれる1週間~2週間前に行ける予定日を連絡くれるカウントダウンの横山さん、初日に会ってたのをまるっと忘れてたのになぜか来てくれる松田さん、アヤちゃんのお客さんだった中島みゆきファンの森川さん、あとはマスカラするようになってから


「あの若い女優さんにすごく似てる」


 とよく言われるようになった見た目を気に入って、場内指名してくれた指毛の村田さんくらいだ。


 場内指名してくれた人が、本指名で帰って来てくれることも多くない。


 でも、会得したビッグスキル、この声でリピートしてくれるお客さんは多い。


 ただ、逃げ恥のイメージが強いようで、入店時に


「おかえりなさい! 田中さん!」


 退店時のお見送りでは


「行ってらっしゃい、田中さん!」


 てリクエストが多くて、1人だけメイド喫茶みたいになってる。


 ……そして、今、堀さん以上に指名してくれて、私の一番太い客は、にっくきアイツだ。


「あんたはもー、来なくていい! 何回言えば私の目の前から消えてくれるのかなあ? 永遠に!」


「ごめんなさい! でも、ユイちゃんに会いたいんだよ〜」


 我峨弁を汚い方言と言い切った、地の果てで朽ち果ててればいい男は神宮寺じんぐうじなんて身の丈に合わない名前を持っていた。


「ユイちゃん、大好きだよぉ」


「鳥肌立つわ!! 気持ち悪い! 黙れ! ビールでも飲んどけ!」


「ビールお願いします!」


「私は梅酒じゃ!」


「ユイちゃんの梅酒のソーダ割もお願いします! あと、ユイちゃんの好きなポテトフライもお願いします!」


「別に好きじゃないけど高いからフルーツ盛りも頼め!」


「フルーツ盛りもお願いします!」


 本気で来てほしくないんだけど、こいつはドMなのか、罵倒されたいのかと思いつつ、目の前に現れると罵倒してしまう。


 客だと思うとついつい遠慮してしまうけど、こいつだけは何の遠慮もいらないから、私の売上の8割はこいつだ。


 それはそれでイヤ。


 大きな収入源だけど、めっちゃイヤ。

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