第18話 17歳の脅威
私がビーワンに入店して、もう3ヶ月が過ぎた。
今日は、給料日だ。
給料日には、ミーティングで先月の成績発表がある。
「先月のトップは今いないけど、ユキノちゃん!」
ああ、変わらない安定感だなあ。乳の人。
乳出して歌ってるだけっちゃだけなんだけどなあ。
アヤちゃんがいなくなって、トップに君臨だ。
週一の出勤でそんなに稼げちゃあ、やめられないだろうなあ。
「次が、ユイちゃん!」
「おおー」
拍手が起こる。
え?! 初の2番手だ! 嬉しい!!
「ユイちゃんは指名の伸びがすごい! 今月も期待してるわね」
「あ、はい!」
「ただ売上が弱いから、指名取るだけで満足しないで、売上上げることも意識して、頑張ってね」
「あ、はい!」
おねだりが苦手な私は、どうしても「買って」をかわいく言えない。
お客さんが食べたい、飲みたいって言ったら勧めるけど、自分のペースでいけない。
だいぶ前に、エミリさんからおねだりの仕方は教えてもらったのに、全然自分のものにできない。
「次が、カンナちゃん! 売上はちょっと上がったけど、指名が横ばいで増えなかった分ちょっとユイちゃんに届かなかったわね。でも、売上上げるコツがちょっと分かってきたんじゃない?」
「うーん、まあ、ちょっとはって感じくらいは」
「ふふ、その感覚でやればもっと上がるから、頑張ってね!」
「はい」
売上上げるコツかあ。
それってなあに? ってストレートに聞いて、教えてくれるものかしら?
「次が、リンちゃん! 指名も売上も順調に上がっていってるわね。一度ついたお客さんのリピートが抜群に多いから、接客がいいんだと思う。みんなも、リンちゃんの接客参考にしてみてね」
「あ、ありがとうございます」
接客かあ。自分がついてる客の接客に必死で、他の女の子の接客を参考にするって余裕がなかったな。
「次が、マイカちゃんね。先月は出勤が少なかったから仕方ないけど、出勤しない日でも時間があれば何日に出勤するから来てねってメールするとか、少ない出勤でも指名や売上を伸ばす工夫をしていけば十分上げられるものだから、頑張ってね!」
「はい」
同じくらいだった、リンちゃんとマイカちゃんに差がつき始めたのか……。
まあ、出勤日数が違うから、そりゃ差もつくわね。
「あと、明日なんだけど面接が入りました。先月は1人だったけど、今月こそ、いい人が来れば3人は採るつもりだから」
ほんとですね? エミリさん。
「じゃあ、解散! 帰りにお給料もらうの忘れないでね」
先月、5人面接に来て、1人採用された。
ミズキちゃん、17歳。
17歳。高校中退フリーター。
オープンラストで毎日でも入れます!
今日から働きたいです!
と、面接で訴えていた。
募集要項は18歳以上だし、17歳は水商売ダメ、ゼッタイ。
でも、エミリさんが
「あと何ヶ月かで18歳になるんだし。年聞かれたら、絶対18歳って言うのよ!」
と、押し切った。
やっぱりエミリさん見る目あるんかしら。
この子が、まーすごい!
初日のミーティングから平気でタバコ吸うし、ヘルプでついたお客さんからもガンガン指名もらうし、お客さんのビール飲んで
「ミズキです、ビールおかわりでーす!」
って平気で言う。
若さって怖いわー。
脅威なのだ。
勢いがすごい。選ばれし勇者の勢いが初日からあった。
どちらかと言うと、カンナちゃん、リンちゃん、マイカちゃん、揃って押しが強くない。
私だって、「喫茶店感覚で働けるお店です」ってキャッチコピーに惹かれてこの店に決めたくらいなんだから、ノリで押せる時もあるけど、基本売り込みは苦手。
さっきだって、売上が弱いって言われたし。
ミズキちゃん、今月の成績、どこまで上がって来るんだろう?
ミズキちゃんも私と同じく寮に入っている。
寮の子は、時間関係なく店に出勤と言われれば出勤、休みと言われれば休みと言う勤務だ。
出勤日数も少なく、ラストまでも入れないマイカちゃんは恐らく抜かれてしまうだろう。
リンちゃんも超えてくる?
カンナちゃんも、もしかして?
いやいや、僅差の2位の私も超えて来るんじゃ……!
イヤ――――――!!
「ユイちゃん! 2位なんてすごいですね! どうやったら、そんな指名もらえるんですかあ?」
ミズキちゃんだ……。
ストレートに聞いて、答えてくれるのかしら? とか、考えないもんかね。
んー、かと言って、
「そんなあ、何にもしてないけど、たまたま指名もらえただけだよ〜」
とか言うのも、なんかコツ教えないケチな先輩みたいだしなー。
て言うか、ミズキちゃんに私が教えられることなんてすでにないよ。
たぶん、私よりちゃんと指名取れてるよ。
「えーと、100人にメールとかライン送ることかな。それで毎日5人でも来てくれたら、毎日5人の指名もらえるわけだし」
エミリさん、私、最初の頃に教えてもらったこと、忘れてませんよ。使わせてもらいますよ。
「100人か! ありがとう! がんばりまっす!」
「う、うん、頑張って〜……」
あー、素直だ。
いい子なんだよな〜〜〜。
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