第16話 故郷愛と武器

 武器が欲しかったんざ。


 乳も特別でこうない。歌も特別上手うない。


 飛び抜けて高身長でも、モデルさんみてえに細くもない。


 ただ、憧れのアヤちゃんのマスカラず塗って、満足してたようなんざらわちゃの、武器になりよるかもしれん声ざ。


 けんども、わちゃ故郷の言葉、我峨弁ざしゃべり続けよえじゃ、この声はなんの武器にもなんね。


 わちゃ、ずっと我峨弁しゃべっちゃっちずら、故郷に誇りざ、持っとるざ。


 だどん。


 標準語しゃべりよるじゃ、新垣結衣似の声ざ。


 激似ざ。


 故郷への思いざんでためらいちい方へ1回は行っちはみんげどて、新垣結衣の声に激似ざ。


 わちゃ心ん中は、決まっちゅう。


「エミリさん! わちゃに、日本語を、標準語を教えでんぐだ!」


「えっ……ええ?!」



 ただいま、夕方4時半ですだ。


 みんなが来られよる時間よらゃ、だいぶ早え。


「日本に住んでんだからさ、標準語普通に耳に入らなかったの? 現代日本でさー」


「考えりゃしゃべれぞうさ。教科書読んじゃっちゃもん。でん、単語の標準語が考えち、言い方考えち、しとらったゃあ会話んならんずだんや」


「……英会話を身に付けるような感じなのかしら。じゃあ、テレビ観てれば現代日本の標準語が学べるんじゃない?」


「ビーワンの寮ざ、テレビねえざ」


 あー、そうだったわねえー、ち、なんぞがごまかしてる感じぞな。


「スマホは店のだから、勝手にYouTubeとか観られても困るし。ん? 実家にはテレビあったでしょ」


「あったっげ、おもんなかっちゃ。あ、でも、朝ドラと大河ドラマはたまに観ちょっだら」


「どちらも現代日本語は習得できなさそうね……。ど田舎出身芸能人が言う、NHKと地元ローカルしか映らないってやつなのかな」


 なんや砂嵐しか映らんなっちし、テレビなんぞただの箱じゃ。


「あ、毎日これくらいの時間に来て、新聞読んだら? 店でスポーツ新聞とか日経とかまで全部取ってるんだからさ」


「わちゃ、字ぃ読んだらざ3秒で眠えなりよるわい」


「へえ、お客さんとの話広げるために、毎日一紙は読むように言ってたわよねえ?」


「えーと、なんか他の方法ざねえがな」


 今度はわちゃんごまかしよる。


「よく、日本に来てまだ3ヶ月なのに日本語上手な外人さんは、アニメ観て覚えたって言う人多いから、アニメ観たらいいかも! 楽しく標準語覚えられるんじゃないかしら」


「アニメ? はなかっぱと忍たま乱太郎は子供ん時ょ観てたざん」


「よくわかんないけど、それも現代日本が舞台ではなさそうね」


「頭ん上に花咲くカッパと、忍者のたまござ」


「……カッパと忍者……」


 はは、ちて、ちと笑いようで、エミリさんがカバンから財布ば取り出しち、1枚のカードを渡してくれよりだ。


「GEOよ」


「ゲオ?」


「アニメのDVDレンタルして、たくさん観なさい。パソコンで観られるから」


「わち! ありがとうざ、エミリさん! 帰りにレンタルして、完璧な標準語ず覚えてくるざ!」

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