第15話 我峨弁と声

「お客様、さっきはよくも私の地元を馬鹿にしてくださいましたわねえ? 頼み事する前に、なんややらなあかんことがありはるんちゃいまんの? お願い言う前に、私と、我峨の皆さんに謝らんなあかんのとちゃいまっか? 話はそれからどすなあ、おほほほほ」


「ごめんなさい!! 我峨の皆様! ユイ様! 申し訳、ありませんでしたあ―――!!」


「ふん! お前なんざどうでもええばい」


 よーざん、しゃべっちでろ、どんだ?


「標準語じゃないじゃん!!」


「でも、声はガッキーだった!」


「なんで?! なんで?!」


「わちゃんな動画見しぞろ!!」


 みんなで、スマホ覗きこみよるざ。


 ほんげんざ……声だけ、新垣結衣にしけえ聞こえんだん……。


「なんで、ユイちゃんのダミ声が標準語だと綺麗なガッキーの声になるんだろ……」


「わちゃダミ声かい? リンちゃん」


「あ、ごめんごめん」


「ああ、ダミ声! もしかしたら、我峨弁って特に濁音の多い方言だから、ダミ声になりがちなのかもしれない!」


 堀さんざ。


「濁音?」


「文字にした時に点々が付く音だよ。がぎぐげご、ざじずぜぞ、などの」


「あー、だずんに多いかも知らんだずだらなあ」


「多いわ……」


「濁音の多い方言はいくつもあるんだけど、ダミ声になりやすい傾向があるんだよ」


「じゃあ、標準語の時の声が地声?」


「標準語でもなかったけどね」


 ほえー、自分でもざ知らねげごたあ、解説されよる……。


「いや、地声はまた違うと思うよ。使い慣れない標準語を話そうとすることで、無意識に緊張するから多少声が高くなっているはずだ」


「あれ標準語じゃなかったけどね」


「関西弁風だったね。関西弁は濁音の少ない方言だから、澄んだ声だったんだと思うよ」


「すごいよ……ガッキーに責められてるようだったよ……ドキドキしたよ……」


「勝手に新垣結衣ざドSにずんな!!」


「堀さん、さすが先生ですねー。初めてすごいと思った!」


「堀さん、先生なんず?」


「聖天坂駅前の、中学受験専門塾の塾長さんなのよ」


「偉い人ざったんなあ」


「偉くはないよ。大学時代に方言を研究してたもんだから、ネイティブな我峨弁に感動しちゃって!」


「言うでぐんだらよがらずったがのー」


「いや、興味あるって言ったら多少は意識しちゃうものだからさあ。ナチュラルな我峨弁が聞きたかったんだ」


「それで何度も来てぐでだんだのー」


「澄んだ声のまま接客できないものかしらね?」


 エミリさんが言いち。


「ただしゃべるだけでドキドキさせることができて、謝れって言えばあの勢いで謝らせるなんて。私達にとっては、夢みたいな話じゃない!」


「ほんとだ……ガッキーの声だなんて、絶対にお客さん増える! 私も聞きたいもん!」


「すごいよユイちゃん! すごい武器だよ!」


 武器……。


 わちゃの声が、武器に……!!

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