第11話 おねだり
森川さんが帰ってっと、カンナちゃんとフリーの客じついとっちゃら、初めて見る客が来た。
いらっしゃいませーゆうて、しゃべっとちら、黒崎さんが
「ユイちゃん、場内指名です」
と来ちゃ。
「なんぞ」
「お店に入って、ユイちゃんを見て、気に入ったから指名してくれたんだよ」
「でえ?! んげ指名もあんのかー」
「ぶっ……はい、ついてきて」
今黒崎さん、吹き出さんかったけ。
なんや、今まで見た客ん中で、1番若くてカッコよろしゅうのう。
「はじめまして、ユイです。ご指名ありがとうございます」
おーちゃんと言えたで。完璧ざ!
「はじめまして! うわー僕こういうお店初めてなんで、緊張します」
「ほげー初めてで場内指名とかずんら、勇気あるのーとんで」
「えっ……ええ?」
「我峨弁知らんとか。この辺の人おは我峨弁知っちょ人皆無んな」
「我峨弁? 初めて聞きました〜」
「敬語やのうてええよ、お客様。わちゃもしゃべれんかんのーあはは!」
ちゃんとかわいい笑い方ポーズで笑いよう。
「あーでもいいかも、我峨弁!」
「おーええ言葉っさー」
「こんな、かわいい女の子となんて緊張するけど、我峨弁だと話しやすいかも」
「かわいい? わちゃか?」
「わちゃ? あ、うん、君」
「お兄さん、見かけによらずぶっかましよるのお! あはは!」
「なんか、ポーズと言ってることが一致しないねえ」
なんや、おっさんばっかりやっちい、若いお兄さんはどう接客しざんええやら、なんざ手探りな感覚なあ。
村田さんゆうらしいげ。
お、村田さん、顔も濃いめやけんど指の毛えがすごい。
ちゅか、アクセサリーもえらい付けとんの。
アクセサリーの話で、だいたい1時間過ぎた。
黒崎さんがお時間です、ちい来る。
「あ、じゃあ、また」
「おう! また来ちょうな!」
「ま、また指名していいかな?」
「うれしーで! 大歓迎っさ!」
黒崎さんがお会計です、ちい来る。
店の外までお見送りしち、店内戻りよったら
「ユイちゃん! ユイちゃん!」
ち、カウンターからエミリさんが手招きしちょす。
黒崎さんもおる。
「はい」
「今のお客さん、絶対延長取れたでしょ!」
「延長?」
「指名を、もう1時間してもらうことだよ。今のお客さん、たぶん時間が来たら帰らないといけないと思ってたんじゃないかな」
「あー、初めてや言うちゃざだ」
「お時間です、って黒崎さんが来たら、延長をおねだりして!」
「おねだり?」
エミリさんが、右手でわちゃの左手を取って、
「もうちょっとお話したいなあ、とか上目遣いで言って、お客さんがいいよって言ったら」
エミリさんが両手で、わちゃの左手を包みよる。
「嬉しい! ありがとう! って笑顔で言って、黒崎くんに延長でーすって言うの! 分かった?!」
「分かったんが……できようかな」
「自分なりのおねだりの仕方でもいいから! 延長のお願いがないってことは、お客さんにこれ以上自分と話したくないのか、って思わせちゃうこともあるのよ」
「あーそら失礼してもうたな」
おねだりか……苦手そうざなあ……。
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