第10話 憧れ

 ミーティングが終わって、オープンの時間じゃ。


 いつものようず、アヤちゃんの客が来よる。


 今日はまずは2人ざな。


「いらっしゃいませー」


 2人は、まっすぐエミリさんのおるカウンターに行きよる。


「こんばんは」


「エミリちゃん、アヤちゃんのこと、怒らんといたってくれな。俺ら、アヤちゃんが辞めても変わらず来るから」


「え?」


「アヤちゃんからメールもらったんだよ。昨夜。エミリさんに申し訳ないことをしたって」


「アヤちゃん、今日からイギリスに留学するらしいよ。大学卒業したら、ビートルズ記念館で働くためのコネ作りに行くって」


「イギリス? アメリカじゃなかったっけ」


 いいかげんやの、エミリさん。


「そうだったんだ……アヤちゃん、時々連絡くれたらいいな」


「いや、もう、この店関係の連絡先は消すって。これからは、ビートルズのことだけを考えて生きていくって」


「もう、ビートルズへの愛がギッシリ書かれてたよ」


「……そう……何事にも全力投球なアヤちゃんらしいわね」


「そうだな。きっと夢を叶えるよ、アヤちゃんなら」


「エミリちゃんも、この店任されて3年くらいか……良いママになったな」


 なんげ、この感動の雰囲気は。


 でも良かった!


 アヤちゃんは、やっぱりわちゃ憧れじゃ。目標じゃ。


「お! ユイちゃん、えらいかわいいじゃねえの」


「じゃろ! アヤちゃんがくれたマスカラ使こたんげ! アヤちゃんのまつ毛ざ!」


「アヤちゃんの! もっと見せてくれ!」


「指名してくれたらなんぞらでも見しちゃるげ!」


「うまくなったなーユイちゃん! 売れっ子んなるわ!」


 あはははは、笑いち、黒崎さんの案内で席につく。


 わちゃおしぼり持って隣に座っち。


 このおっさん、毎日アヤちゃんに中島みゆきリクエストしとったな。


「おっさん! 一緒に糸歌おうぞ! 横の糸はわちゃら、縦の糸はアヤちゃんざ!」


「おおー! いいね! 歌おう歌おう!」


「ユイちゃん!! おっさんはダメ! 森川さん!」


 ウェルカムセット持ったエミリさんが慌てて来よる。


「わち! すんません」


「あはははは! 覚えといてね」


「だ! 覚えたっちゃ!」

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