第8話 本指名

 オープンしてすぐ、堀さんが来よった。


 いらっしゃいませーつって、グラス並べちょう仕事続けよったら、黒崎さんがわちゃんとこ来ち、


「ユイちゃん、ご指名です」


 つった。


「ほ? ご指名?」


「良かったね」


 黒崎さんがニッコリしはる。


「べ、あ、はい!」


 エミリさんがちょこちょこー来ち、


「堀さん、新人さんは大抵一度は指名してくれるけど、二度目の指名は気に入った子だけよ。よくやった!」


 言いち。


 これが、本指名!


 初めて、わちゃに会うために客が来てくれはうた!!


 ちゅか、指名が入ると黒崎さんが来るんちなあ。


「堀さん! ありがとうざ!」


 エミリさんが走って来、


「ご指名ありがとうございます!」


「あ、はい、ご指名ありがとうございます」


「あはははは!」


 エミリさん、おしぼりを持って来ちくれとったんげ、受け取って広げて堀さんの手に渡す。


「我峨弁、ちゃんと勉強してきたよ!」


「ほんなげす?! だんとうかんつなんだ、よげーでれった?!」


「あ、ごめん、まだ勉強不足みたいだわ」


「んだあ〜」


「ごめんごめん! でもユイちゃんの我峨弁聞いて、また仕事頑張ろうと思って」


「ほえ?」


「だから1時間しか居れないけど」


 わちゃん我峨弁で、元気に……


「堀さん、仕事やんなで気張ろうてなあ!」


「あはは、ありがとう!」


 1時間なんずすーぐやが、また来るねーと帰って行ったんず。


 指名されると、店の外までお見送りすんざ。


 お仕事、気張ってくうせいなあ、堀さん。


 店に戻っつぇ店内げ見回すち、アヤちゃんのお客さんが3人くれえおるで。


 ヘルプにリンちゃん、エミリさんがついちょう。


 そこへ、客ざ。


 わちゃしか動けんけ、いらっしゃいませーゆうて近づきち。


「はじめまして、ユイです」


 と、定型のごあいさつぞ。


「え? ユイちゃんの初日に会ってるよ」


「ぐげ?!」


 40代くれえの人ざねえ。


 んー、なんずら記憶ねえざ……。


「まんず、すまねえけんど、もっかい名前聞いてよんず?」


「名前? 松田です」


「松田さんけー……」


 思い出した感出してみちが、やっぱり記憶にございませんざな。


「あ、ご指名ありますか?」


「ユイちゃん」


「わちゃ?」


「うん」


「おー! ご指名ありがとうございます!」


 黒崎さんが「こちらへどうぞ」ち、案内してくれよう。


 黒崎さんて何してんだかよう分かりよらんかっち、けっこう仕事しよんじゃにゃ。


 おしぼり取って、席さ行かざ。


 おしゃべりしよっちも、全っ然松田さん思い出さんかっちが。


 また来てくれっかねえ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る