第0.5章 始まりに近いの終り 後編

 「大きーなぁー」

 この山頂に思ったより大きな城に見えた。いや、城というより外見は要塞と言った方が正しいかもしれない。

 近く見ると確かに大きな城に見えるが、崩れたレンガや錆びれた鉄の扉、どう考えて、もうとうに廃れたと思われるのもおかしくないはずだ。しかし、現実はそうではない。このお城の中には確実に何かがいる。いったいどんな人が暮らしているかを、まったく想像つかない。


 「やっと、ここにたどり着いたね」

 「そうですね。ではここからはどうしますか、カレイ様」


 閉じられた大きな扉の前に、アンブロワーズだけは前に立った。

 「こういう力仕事はオレに任せとけてー」自分の力の強さは示すため、アンブロワーズは鎧を着けたまま、腕を出して上げて、力を出して、そのたくましい筋肉を皆に示そうとしていた。


しかし、

 「待って!」

 突然、珂玲は手を横に伸ばして、前に進むつもりのアンブロワーズを止めた。


 「どうかしましたか、カレイ様?」

 そう聞かれたのに珂玲は依然に沈黙を保った。次の瞬間、扉が軋んでゆっくり開かれた。それを見た全員が素早い動きで戦い準備を構えた。


 「大丈夫だよ」冷静さを保ったまま、淡々と言った。

 完全に開かれた扉の向こうには誰にもいなかった。あるのはただ石で真っ平らに敷かれていた長い廊下だった。


 「これは…どういうつもりでしょう?」

 「わな…かもしれませんね」

 今までウィルはどんな質問を提出しても、必ずきちんと答えた珂玲でさえも分からなかった。

 「さぁね…まぁ行かないとわからないもんね」

 そう言った珂玲はまっすぐにこの入口を踏み出した。


 「やっぱりお城だったのか?」


 長い廊下に通って、この山と同じように人の気配やほかの生き物の姿を見当たらなかった。また玄関を通った後は、周りの景色を眺めると、枝しか残っていない樹は順番に並べて、その下には枯れた葉っぱたちが散らかしていた。そして、真ん中にいた噴水の池は今も乾いてて、池の底もはっきり見える。


 一応この庭に一通りを見渡して、ふっと「実家」の庭を思い出した。ここの庭とは大違いしているが、なんだか似たような景色を目に入ると、言葉で表せない感情がまた急に沸き起こった。


 「にしても…そこそこ大きなお城だね」


 ふいに口から漏らした言葉で、全員一瞬、息することができなっかた。


 「私から見ればこの城も十分広いますが……」

 「まさかカレイ様って、もとの世界でも貴族のか」

 一瞬言ったことが後悔しはじめた珂玲は思わず足を止めてため息がついた。

 「…そんなわけないでしょうーだいたいね、こっちの時代はも貴族なんてないわよ!そもそもうちもこの城みたいに広いじゃないわ」

 「へぇーそれじゃ、家はやっぱ、お金持ちってこと」

 なぜかしつこく問い詰めるアンブロワーズに対して、たぶん今の珂玲にとってはここまで追い詰められたのはこの瞬間かもしれない。

 「アンブロワーズ、今はそこに気になるところじゃないだろう!いい加減にしなさい」

 「い、やー別にいいだろう!グレースも尊敬なるカレイ様のことが知りたいんだろう」

 「…まぁ…それは……」もともと怒ったグレースはそう言われたとっさに答えできなかった。


 (はい~めんどくさいなぁ…でも今回は私の悪いから、しょうがないや~)


 「別に言えないことじゃないさ…」

 「おうーそれでそれで」

 「わかんない」

 「えっ?何を」

 「アンズって先言ったんでしょう!お金持ちかどうかって」

 「おう、それで、お金持ちなの」

 「だから、よくわからないだって言ったじゃん」 

 「それは…どういう意味でしょうか」

 さすがにこの答えでは皆に追い詰めるだが、ほかに答えになれそう言葉が見つからないので、素直に答えるしかなかった。

 「今の家と比べれば確かに広いだけど…お金持っているかどうかははっきりしないわ!まぁ、とりあえず経済的に困ることはないから、そこそこいけるじゃないかな」

 「お父さまの仕事は…」

 「ないわ!」

 ウィルはまだ話していないのに、珂玲はもうはっきりと答えた。

 「えー」

 その答えは聞いたすぐ、アンブロワーズは大声を上げた。その大きさはもはやここにいた全員の鼓膜を破らんばかりだ。

 「アンズ!すこし…静かにしてもらえないかな?」


 さすが珂玲の寛大さにもついアンブロワーズをかばわない状態になる。なんせ今の話題は彼女にとって、できれば触れなければよい話だったから。しかし、これも元の世界の話しだ。けれど、いざ言うときにはやはり多少の抵抗がまだ残った。


 めったに見えない珂玲のこの本気の怒り。アンブロワーズはすぐ両手で口を塞いだ。

 「それは本当ですか…」

 珂玲は口を噤んで、眉をひそめながら、一目で灰色の空を見上げた。そして、平坦な声で語った。

 「……ん…正確に言えば…仕事をしている姿は見たことないし、自分の仕事についても言ったことない。私の知っている限り、唯一の収入の出どころはどっかのマンションの家賃の収入だけ」

 「それなら仕事はなくてもいいではありませんか」

 「そうだよ!家賃をもらっていくだけで暮らせるなんて、地主が…いいなぁ」

 「はぁ…わかっていないなぁ…」

 「それが何か問題でも……」

 「問題は大きのよ!」

 ここで珂玲はついに限界に達して、苛立っている。それで、怒りを乗せたまま、続きを言う。

 「私、一度もあのマンションが見たことないのよ!父さんに聞いても教えてくれないし。たかが場所でしょう?教えてもいいじゃない」

 「それなら確かに怪しいですね」

 「でしょう?」

 「しかし、お父さまはなぜ自分の職業を打ち明けないのでしょう」

 「さぁね、いまさら聞いてもね…」

 偏見にされたくないから、いつもこの話題の触れたたびに、必ず誤魔化していた珂玲はやっとはじめて仲間に語った。ずっと自分を苦しめたわだかまりがつい解けて、すっきりした感じがする。

 「さぁ、無駄話はここまでにするか、さっさと行きましょう!」

 爽やかな顔で首を少し振り向いて、宮殿に行く道を進んだ。




******************

 

 宮殿に入っても、外と何も変わらない静かだ。少し灯りもつけていないこの回廊には、一瞬果てがないと思える長さ。しかし、歩けば歩くほど、一つの扉はどんどん近くなる。その扉の下には隙があり、そこにはわずかな灯りが見えてきた。全員息を殺して、音が立たずに一歩ずつ、扉を近づく。


 今は突入すべきが、準備も本当は整ったが、まだ何か忘れていないではないか、と困惑中のその時、

 「別に、こそこそ隠れなくても済んだのに、どうぞを入りなさい」このきれいな声が響いたとともに、この部屋の扉は先の鉄の扉のように、自らゆっくりと開く。


 扉は開いた。すぐ目に入ったのは、それは少し遠いところに、真ん中の人の姿だった。たぶんあれは今まで、この世界に留められた原因である。


 大きな宮殿の中に、玉座の上に座っているのは黒ずくめのローブ・デコルテという礼服を着ている女性だ。胸と肩に大きく白い肌を露出されて、彼女の美しい姿を見事に表した。その美しさは遠いところから見ると、まるで美術館で展示された中世期の油絵みたいのだ。


 「ようこそいらっしゃいませ、異世界から来た勇者さま。わたくしはこの世界に赴かれた闇の使者の一人、様々な世界を支配した女王、アタリヤ・ラムハダト」

 アタリヤと名乗った女性は王座から見下しては笑みながら気迫的な美声で、この宮廷に響いた。

 「して、今日のご用件は?」そのなまめかしい声と仕草はリュカにぞっと感じて、自然に後ろに下がった。


 「…あ、ご、ごめんなさい」下がっているうちに、いつの間にかアンブロワーズとぶつかった。

 「ん?どうしたの、ボウズ?」

 「い、いいえ。な、何でもないです」

 ばれると怖がって、すぐに頭を横に振って誤魔化そうとした。けど、アンブロワーズの獣みたいなカンを誤魔化せると思えるなら、大間違いだ。

 「ん?…あ、わかった!ボウズ、お前はあの女王にビビっているかい?」

 「そ、そんなことな…いですよ」言い訳が見破ったか、リュカの頬は急に赤らんだ。

 「アンブロワーズ様、リュカ様のことは私に任せればいいのです。あなたは自分の仕事を集中して、先みたいに皆のことを引っ張らないでやりなさい!」

 反論したいことは山ほどあるが、ウィルの言う通り、今はやはり自分の仕事を集中しないといかない。しかも今はまさに敵の前だ、決して油断できない。そうと思うアンブロワーズは、珍しく黙り込んだ。


 一方、ウィルは片足でリュカの前にひざまずいて、穏やかな目つきで言う。

 「リュカ様、ご心配なく、私は必ずあなた様を守りますから。だから、カレイ様とグレース様のサポートはお願いしますね」

 この微笑みに対して、リュカは思わずうんと頷いた。



******************


 「して、今日のご用件は?」

 「うん…そうですね!まさかこういう質問をされるとは…でも、結構いい質問だね」

 「ホウ、アンタこそなかなかいい返事ぢゃにないか」

 「そう言えばあなたこそ、何のためにそこに座っているの?」

 と、珂玲のこと一言で、アタリヤの余裕な笑顔は突然に顔から消えた。その代わり、深刻な顔で珂玲を睨んでいる。


 長い間に考えたこともない問題は突然に聞かれた。それもそうだ。生まれたからずっとそう教えてもらって、上のことしか聞かないのだ。でも、これは特に不満なんて持っていない、なにしろ、ほかの選択はどころか、別の考え方法も知らないのだ。知っていることはただひとつだけ、渡した任務をひたすらに果たすまでだ。余計のことを考える余裕は一切ない。それで、あっちこっちの世界を占めて支配した。最初にはじめての任務が成功したときには確かに褒められて、嬉しかったこともある。でも任務は切りがなくて、次々に渡された。はじめはその中にはまだ期待というものが込めたが、次第に任務だけがしか残されていない。なんのために自分の世界から離れて任務を実行するかもわからなかった。


 特に貴族の血を受け継いだ力が持てるアタリヤにとって、任務はただ暇潰すしかない。どの世界でも大した相手しかいない。虚しい毎日だった。最初もこの世界に来てもそうだった。あっという間に支配された。そのあとは勇者の現れを待つだけ。ただ、たとえ現れたとしても、結局たいしたことがない、と最初はそう思っていた。なぜなら手を動かす前に、皆、必ず「罠」に落としたのだ。


 だから、珂玲は勇者として、この世界に来たとき、実はとても喜んでいた。この勇者の雰囲気からはもう今までの勇者とは違う。これまでの勇者は人を殺そうな雰囲気しか出てこなかった。でもそれもそうだ、自分と同じに、ただ任務を果たすだけだ。それは長い時間に任務を従う自分によくわかっていたことだ。



 「先、私に聞いただよね!今日は何をしてきたって…今、答えをしましょうか?あなたをそこの席からを下ろさせるためよ!」


 この答えを聞いたアタリヤは耐えられない、思わず笑い声を漏らした。ただのそれは決して珂玲のことをバカさせたと思ったわけではなく、むしろ感心と思ったくらいだ。


(なんと斬新な答えのだ!)


 殺すとか消滅するとではなく、ただ席からを下ろすだけ?心の中はもう準備がとど乗ったが、まさかそこまでになっているとは。確かにいままでのは違ったようだ。こいつは本当に勇者なのかどうか疑ってもおかしくない程度だ。


 (試しとみようか!この勇者はいったい最後にどんな答えを出したのか、実に興味深いだわ。)


 「わたくしを?はあはあはあー自分が何を言っているのが分かっているのかしら?」

 珂玲は何も答えせずに、振り返った。すると、アタリヤの距離では聞こえない声で、皆に何かを話した。そして、アタリヤの方向へ向かって、階段の少し前に止まった。

 まだまだ余裕の姿を見せる珂玲は腕をこまぬいたまま、上に座っていたアタリヤを見上げた。そして、口元に三日月のような一縷の丸く弧を描いた。


 「それは…当たり前のことじゃない」

 「ん~それは」意外だ!てっきり頭がおかしくなっていると思ったのに、なるほど…」

 「それで、いつにする?」

 「ん?なんのこと?」

 「なんのって、さっき言ったじゃない、そこから下りるって。どう見てもそこには座る意味がとくにないみたいだから、さっさと下りてくれないかな、」

 強い勢いで声を上げて、そして、潔く腰に掛けた剣を抜いた。アタリヤのいた方向に指した。


 「私、早く家に帰りたいんだけど!」


 (ついに剣を抜いたか。まぁ、いいだろう!受けようか!でも…やはりアナタもここまでか…しょせん、わたくしに勝てるやつはどこの世界にもいなかったのだろう……ん!いや、待ってよ!)


 異様な「状況」と察したアタリヤはすぐ珂玲にもう一度先の答えを聞く。


 「さっき、何を言ったか?」

 「だから、私は早く帰りたいと言ったの!人の話しをちゃんと聞けって!」

 「帰る…って、どこに?」さすがに自分の耳が信じられないほどに疑っている。

 「どこって?家に決まっているじゃない!」

  

 一瞬、アタリヤだけではなくて、珂玲の後ろに戦い準備をしている全員さえ、一時的に反応ができない。


 「…それ、だけ……」ぼんやりで返事したアタリヤは、今自分は何を言っているかさえわからないのまま、片言で返事しかできなかった。


 「ん……半分…かな!」珂玲は少し考えたように見えたが、すぐにはっきりと答えた。にわかに理解できないアタリヤは珂玲に次の質問をした。

 「それは…あなたの願い…というのだね!」

 「願い?」

 「なんだい?違うのか?」

 「ん…どっちかというと…言っていることは…完全に意味不明だね」

 「はぁ…」

 「だってさぁ…あんた、家に帰りたくないの?」


 「家」。今のアタリヤはようやく理解できた。先ほどの自分はどうしてそんなに動揺されたか。


 (本当、なぜこの子が言っていることはこんなに違うのかしら?これで…やっとわかった。わたくしはどうしてこの勇者のことを気になるか……なるほど、彼女ならもしかして……)


 「家…ね、もう半分ってなに?」

 「もう半分って……ああ、えっと…それは…」

 先までまだ余裕な態度を見せた珂玲は突然口ごもってて、目もキョロキョロした。珂玲のおかしい様子を気付いたウィルはさっそく彼女の前に向かった。


 「カレイ様、大丈夫ですか?なにかされていませんか?」

 「あぁ……ん…」

 ウィルはわざわざ前に向かったけれど、珂玲はアタリヤどころか、ウィルでさえ目に合っていない。

 「…うん!大丈夫だ、ありがとうね、ウィル」

 「…カレイ様!しっかりしてください」

 「うん!なに?」


 (ほー、これは…仕掛けしようか!アナタは本物かどうか…)


 すると、アタリヤは突然に席から立ち上がった。


 「もう半分…叶ってあげようか」

 そしたら、アタリヤの掌から水晶のようなかたまりが徐々に棒になって、杖までと同じような長さに伸びていた。それで、一番上のところに銀色の三日月のようなものが、さかさまな状態に大鎌になった。


 「これは…こいつの兵器でしょうか」

 突然に現した武器に対して、珂玲はようやくいつもの彼女に取り戻して、もうすでに手に握った剣をさらにいつでも振られるような構えを整った。


 「カレイ様、気を付けたほうが……」

 「わかったよ、そんなことは」

 

 剣を上にいたアタリヤを指しながら、先まだ答えていないことを言った。

 「へーなるほど、どうやらあんたは今まであれこれの世界を支配できるのはこれか」

 「ほー、見破ったのか?」

 「まぁ、形だけね!やり方は知らないんだけど」

 「は…はぁ、はぁはあ!アナタって本当に面白いわ!」

 「カレイ様、」

 「どうしたの?」

 急にウィルは背を前に曲がって、珂玲の耳でささやいた。

 「どうしたところではないでしょう!」

 「はぁ、なんのこと?」

 「カレイ様は本当に敵の攻撃方法が分かりましたか?」

 「そうだよ、だから?」

 振り返る見ると、ウィルの真っ青な顔に驚かせた珂玲は危うく手に握った剣を地面に落とした。

 「ウィル…体、大丈夫なの?」

 珂玲は剣を鞘に戻して、ウィルのところに近づいた。そして、足を手が彼の額まで届くまで伸び上がった。

 「……カレイ様、何を…やっていますか」

 珂玲はウィルの額に掌で押さえながら、空いている右の手を上げて、ウィルの額を押さえるように、自分の額も押さえた。しばらくしたら、ようやく両手を下ろした。


 「どうやら寒気がしていないみたいだね!」

 「えっ!寒気…」

 「そうだよ!急に真っ青な顔してから、てっきり急病だと思ったわ!でも、そうじゃなくて、よかったわね、ウィル!」


 満面の笑顔を浮かべた珂玲に対して、このままつっこんだほうがいいか、それとも無視したほうがいいか、悩んでいるウィルである。しかし、どんなことでも、ついに決着しないといけない時期が必ず巡ってくる。


 「ああ!そうだ、わかったわ!」

 「ん?」

 「敵はついに武器が取り出したからビビったでしょう!別に怖がらなくて済むのに!皆と一緒にサポートしてでいい。全部、私に任せてもいいから。さっさと皆のところに戻って」

 「カレイ様、」

 「うん?」

 「お言葉ですが、人の考えていることは勝手に……詮索しないでください」

 珍しい怒鳴った声は、アタリヤを除いたこの場でいた全員、目を大きく開いたままウィルを見つめている。

 「ウィル…」

 「なんですか?」まだイライラしているウィルは本当返事する気はなかったが、それを無視する立場ではなかった。しかも先の怒鳴る、責られても文句は言えない。

 「これでよ!」

 「へー」

 宝石ようなキラキラの目、こんな近い距離では眩しすぎて、ウィルは思わず後退った。

 「なにを…ですか?」

 「先に言ったあれだよ!」

 珂玲はウィルに近寄って、襟を掴んで引っ張った。そして、そのまま、耳は珂玲の口近くまでの少し上に引っ張られた。

 「それで今の状況作戦とは何か関係ありますか」

 「あるに決まっているじゃん!」

 「それなら皆さんと聞かせてもらわないといけません……」

 「皆に聞いたらどうする?ばれるじゃない」

 珂玲は声を抑えながら、先より小さな声でウィルの耳で囁いた。一方、「作戦」の準備のため、ウィルはいつもより十二分気合いが入った。なにしろ、この「作戦」では仲間に伝えたら、「作戦」がばれる可能性は高くなるかもしれない。つまり、この「作戦」は自分と目の前の勇者とふたりで実行しかないことだ。


 「いい?さっきみたいに普通に話して、それでしばらく待つ。でも待ちすぎのはよくないから、先ほどのタイミングでちょうどいい。それで自分の気持ちを大声出して!これで完璧よ」

 「完璧…ですか…よくわかりませんが、そのままでやれば勝てますね!」

 「勝つ…?ああ、それは当たり前ことじゃないか!」

 「…そう…ですね…カレイ様の作戦は今まで失敗したことがありませんよね…」

 「…作戦?ああ、もちろんさ!先も言ったろう!確かに経験者じゃないが、模擬戦なら散々やったからね…だから……」


 言っていることがなかなか繋がらないため、ウィルは一度ペラペラで喋っている珂玲を止めた。


 「カレイ様、」

 「はい?」ひとつが確認したいですけど…

 「うん?まだなにか?」

 「なにを…ですか」

 「ん?」

 「先の話しは、誰に、なにを……ですか」 

 聞けば聞くほどますますわからなくなったウィル、ついにそこの異様が気づいた。

 「誰にって!ウィルも変ね!グレースに決まっているじゃん!でないと、逆に聞きたいだけど、誰にって!」

 呆れすぎ、突然に力が取られたみたいに気を失った。

 

 (この非常時では、この人はまだ何を考えているだい…いったい…)

 「ウィル!ウィルー」

 「…はい…」

 「ウィル、大丈夫?やっぱり具合が悪かったの?」

 「…あ、いいえ、そんなことでは……」

 「いいから、皆のところに戻って」

 否定したウィルの背中を押し引っ張って、ほかの皆のところに押していく。

 「だから、具合が悪いなんてどこでも……」

 「いいからさ、先言った通りにやればいいの!」

 珂玲が押し続きせいで、ウィルは前に進むしか選択がない。


 ウィルを見送ったあと、珂玲はもう一度玉座の前に立つアタリヤに向かって、先に収めた剣を再び抜いた。


 「さて、邪魔なものはもういなかったようだね、先の話しに戻りましょうか」

 「先の話し?ああ…願いとかそういうこと言っていたようなぁ…悪いけど、私にはそういうのは必要ないから」

 

 「必要ない…だってか!果たしてそうなのかしら」

 「ん?」

 「幻嵐レーヴ・オラージュ

 

 すると、大鎌の水晶の部分はだんだん赤くなっていく。そして、次にこの強い勢いが響くが早いか、周りからえんじ色の煙が湧きあがって、珂玲を巻き込まれた。その様子を見たリュカはさっさく彼女のところへ走った。すると、リュカの動きを続いて、ほかの皆もその跡を追いかける。


 「カレイ様ー」

 「リュカ様、だめです。これはなんの罠がわからないままで近づくのはいけません」

 ウィルは両手を伸ばして肘窩でリュカの腕を挟んだ。

 

 「別に近づいても構わないわ!アナタたちにとって害はないから」冷たい言い方で、ウィルたちを蔑み笑った。

 「それはどういう意味ですか!」

 ウィルも含めて、全員がアタリヤに睨んでいる。

 一方、スキルがうまく発動したと思って、さらに余裕な姿を表しながら、ゆっくり階段から下りる。


 「深い意味なんてないさ、文字通りにね…このスキルはただ勇者さま一人にかけたものなの!だから安心して、近づいても傷つかないから」

 「皆、こいつの言っていることは信じるな!罠かもしれねぇぞ!」

 アンブロワーズは剣を前に振ってから言った。

 「これはあんたに言われなくても全員知っているわ」

 「マジで」グレースにそう言ったアンブロワーズは信じがたいの様子にリュカに見つめる。すると、リュカはひとつためきをして、首を縦に振った。その瞬間、アンブロワーズは再びに足が大きな岩を繋がれて、海の底に投げ捨てたみたいになる。


 「それより、今はどうすればいいのですか、グレース様」

 「そうですね…リュカはなにか方法はないか?例えば解ける方法とか…」

 「そうですね…でもこれはそんなに簡単に解けるものじゃないと思います」

 「それ、ボウズ!お前はなにか知っているか?」

 「ヘ!え…っと…」

 急にアンブロワーズの大声を出したせいで、リュカはついに口に出そうな言葉を失った。体は完全に凝った。

 「アンブロワーズ!」

 「なんだよ…」

 二人の怒りに対して、アンブロワーズは自分がなにかやってしまったか、見当つけないまま、ただ突っ立っているしかできなかった。それを見たアタリヤは思わず笑ってしまった。


 「ふふふ!なるほど、勇者だけではなくて、アナタたちも面白い人ばかりだね……いや、それとも勇者に影響されたのかしら…」


 「コイツ、いったい何を言っているか!いっそぶっ殺すか!」

 「はじめていいこと言ったな、アンブロワーズ」

 「はぁーそっか?じゃあ、殺してもいいってことだな」

 

 これを聞いたアタリヤはさすがに笑い声をやめた。代わりに不気味な微笑みを口にかけた。

 「殺すって私のことでしょうか?」アタリヤはそう言いながら、一歩、また一歩ずつに、アンブロワーズのところに近寄ってきた。


 「な、なんだよ…お前は?」


 一歩よりまた近づいたたびに、この世とは思えない寒さが急に襲ってきた。後ろに下がったアンブロワーズはやはりこの異常な雰囲気に耐えられない。いや、実際は、アタリヤから見れば、よく耐えると思う。少なくとも彼のその目はまだ自分を拒んでいる。ただこの人のカンが敏感にしすぎ、今では逆に弱点になってしまった。それで、耐えられないまま、倒れて臀を地面に打ち付ける直前に、アンブロワーズ素早いスピードに腰にかけた剣を抜いて、地面に刺して、自分の体を支える。


 「ヘ……はぁーはぁ…」

 「へぇーよく耐え抜いたか…さすが勇者さまの連れとは違うね…」そう言って、アタリヤは今、地面に跪いたアンブロワーズのところに行ってしまった。それで、手を伸ばして、ニ本の指でヒゲはまったく整っていないのあごを上げた。


 「ヘ…なにをする気か」

 「…ふーん。嫌いじゃないが、もう少し整理をした方がいいと思うわ!まぁ、ていうか……ちょっと好奇心でね…」

 アンブロワーズを含めて、その場にアタリヤの考え方を読める唯一の人は今もういなかった。アタリヤの言ったそばから、掌のところに冷たい煙がどんどん舞い上がって、アンブロワーズの顔も被られてしまった。

 「よし!これで完成ね!」

 煙はだんだん消えていたが、まだアタリヤの思考回路に追いつかないアンブロワーズはただ煙を完全に去っていくまでは待つだけだ。

 「うん!だいぶんよくなってきたと思う…わ……」

 アタリヤだけではなく、後ろにいたウィルやグレースも驚いた顔をしている。

 「あら、見損なったわね!けっこういいじゃない!本当にやりがいがあるわ」

 アタリヤの意味不明の発言の次に、グレースは驚いたすぎて口が塞がらないくらいになったのだ。代わりに、ウィルは前に歩いて、体を少し屈めた。それで、アンブロワーズの「新しい顔」を見つめる。


 「きみは…どなたですか」

 「はぁ!?お前寝ぼけたのかい?」

 「うん!この嫌な言い方は確かに本人ですけど…」

 「嫌な言い方はお前の方だよ!」

 「…驚きました…何をしていますか、さっきは?」

 ウィルはアンブロワーズの言っていることを無視して、アタリヤの方に見つめる。

 「そんなに睨まないでちょうだい…恥ずかしくなるわよ…」

 「別に…睨まないでほしいければ、さっさとこの世から消えてしまえばいいのさ」

 「まぁ、勇者さまの連れ方って本当に怖いわ…まぁ、何もしていないわ!ただ、彼のひげを剃っただけなの!」

 「なんだと!」

 この一言で、アンブロワーズにとってまさに青天の霹靂であって、体は完全に石像みたいに凝った。

 「まあ、こいつはしばらく使えないでしょう!さて、これから何をしますかね?アナタたちの勇者さまはどうやらもうこっちの世界に戻らないでしょう」

 「それってどういう意味?」

 「文字通りの意味だわ。わたくしは先、勇者さまに願いを叶ったわ!ただし、それは…夢の中だけどね」




******************

 

 アンブロワーズはまだ顔の整理をしている間に、珂玲は目を開くと、周りはぼんやりの霧がしかなかった。先の宮殿はまるで消えたように、どこにも見つかない。


 (皆はどこにいたのか?)


 果てに見えないところでいくら歩いても仕方ないと思った珂玲は、探すのはあきらめて地面に膝を立って座り込んだ。


 「ここっていったいどこ?アタリヤだっけ。あの子、いったい何を……」

 「カレイ…」


 先まで自分しかいなかった空間に、今、その後ろに男性の声が届いた。後ろに振り返ると、黒い髪を肩まで伸ばして、髪と同じ色をしていたこの時代と合わないコートの青年は、いつの間にか、そこに立っていた。


 「あなたは…グリス…様」

 「そうだよ」

 「どうして…こんなところに…いたの?」

 「カレイはなかなか来ないから、こっちはわざわざ会いに行くから」そう言って、グリスと呼ばれた青年は珂玲の手を取って、一気に自分の胸元に引っ張った。

 唐突なことで、珂玲はまだ反応できず、相手に抱きしめられた。


 (カレイ…)


 「どこかで…また私…」

 「カレイ、どうしたの?」

 「いや、先誰か私に呼んでいる気がする…」

 「そんなことないさ、カレイを呼んでいるのはオレだけさ」

 

 (カレイ!)


 次に、珂玲は何か思い出したように、目の前の青年から離れていた。青年は驚いた顔でまた珂玲を近づいた。

 「どうしたのか、珂玲?」

 「別に、ただ…あなたは私の好きなグリス様じゃないことさ…」

 「なに言っているか、さっぱりわからない。オレはグリスさ。お前の好きなグリス、だろう?」

 激しくて説明した。ただ、珂玲は首を横に振った。

 「私が好きのグリス様はあなたじゃないわ、だって、あなたは…○○〇じゃないから」


 まだ目の前にいた少女の言葉は理解できていないうちに、青年も周りの景色もどんどんぼんやりになっていく……


******************

 

 「なんだと?夢って…そんな……」

 「ええ、だから先も言ったのよね!アナタたちの勇者さまはもう二度とこっちの世界に戻って来いないって……」

 得意げに言ったアタリヤは思わず大笑いをしている。その笑い声は宮殿の隅々まで響いた。


 (残念だわ!異世界から来た勇者、アナタならもしかして………と思ったけれど、アナタはわたくしの幻嵐レーヴ・オラージュにかけられた時点でもう負けたわ!とても残念だ……)


 そう思ったアタリヤは再びに窮地に落ちたグレースたちを見る。すると、アタリヤは目の前に立っている皆を見つめて、そして、手に持っていた大鎌を地面に四回に叩いた。しかし、一回目と二回目の位置は微妙に違った。そして、二回目から三回目、三回目から四回目もそうだった。

 次に見せたのは、先ほどと同様に、大鎌の水晶の部分赤くなっていく。ただ、珂玲の先と少し違うのは、濃さだ。先の赤と比べればその濃さは何倍に濃いのだ。


 「別にそんなに悲しまなくていいさ。みんなは勇者さまと一緒に素敵な夢に見るだけでいい。そうすれば、また勇者さまに会える……わ…」

 アタリヤはまだ楽しそうに話す最中に、後ろから聞き覚えがある声は突然に届いた。

 「そんなの…必要はないさ……なぜなら」

 耳でさえ疑いている程度に振り返って確認したいが、なぜかこの声を聞いた際に、どこから湧いてきた寒気が声とともに、後ろに襲ってくる。

 「私はもう帰ってきたからさ!」


 この声とともに、生き生きしいる珂玲はアタリヤが先、発動したスキルで作った煙の隙間から、手で握った剣のままアタリヤを攻撃した。

 「いきなりって、危ないじゃない」そう言って、アタリヤはさっそく大鎌で防ぐ。

 「冗談をやめてくださいよ!危なかったのはそっちじゃなくて、こっちのでしょう!先に私を仕掛けたみたいに」

 「ばれたか」

 二人は一方戦いながら、一方はペラペラしゃべると、もはやこれは決戦というべきでしょうか。二人の「戦い」を見続けたウィルは、思わず隣にいたグレースの意見を聞きたくなった。


 「グレース様、今はどうしますか?カレイ様のサポートしたほうが……」

 「ハァ、私に聞かれてもね……私なら見守りするしかないと思ったけど、リュカはどう思う?」

 「うんーそうですね!僕もカレイ様の力になりたいけど、このままサポートするのはちょっと…なんか、逆にカレイ様の足のまといになっちゃったかもしれません……とこう思うのですが、間違っているかもしれません…」

 「いや、ボウズの言う通りだ」

 「アンブロワーズさん…もう死んだと思っていましたけど、生きていますね」

 さっきまで落ち込んでいるアンブロワーズはいつの間にか、再び立ち上がった。

 「ちょっと驚いただけど!死んでいないわ!」

 「んーそうですか」


 (にしても、この人はひげを剃ったらこんなに差があるとは…カレイ様の言う通り、これ以上はやらないと!)


 「まぁ、先の話しをしようか!ウィル、お前はいつもそん~なに冷静なのに、こういう時はこんなに落ち着かない様子は……はあ」

 「嫌味だけ言っているのですなら、向こうに行ってください。今はあなたと冗談を言っている暇はないですから」

 「まぁまぁ、そう怒らないでよ!お前の気持ちは十分に分かったけどね!オレも手伝いんだけど…ボウズの言った通り今行くのはただ足まといだけさ」

 「どういう意味?」

 「ん…逆に聞きたいんだけど、今どうやって中に入るだい?」

 「え?」

 「入れないだろう?」


 (言い返したいけど、今回ばかりはコイツの言う通りだ。)


 ウィルは仕方なく黙ったまま、珂玲たちの戦いを見るしかない。

 



******************


 「そういえば、アナタはどうやって気付いたの?」

 「なんのこと?」

 「今まで夢から覚める人なんて一人もないわ」

 「あぁ、それは…夢と分かったから」

 「なに?そんなことできるわけない。目の前に好きな人と一緒にいられるよ!どうして拒んだの?」

 「それは…ないから」

 「なに?なんのこと?」

 「確かにあれは私の好きな人だけど…」

 「だったら…なぜ…」

 「ただ…あの人は次元は違うから」

 「ハァ…先から言っていることは矛盾じゃない」

 「そんなことないさぁ、私は好きな人は二次元の男性しかないさ。たとえ、その人は三次元に現したとしてもね」


 先から意味不明の言葉に困らせたアタリヤは、そのせいで動きは乱れた。それにたった今の言葉は彼女の頭の中に真っ白になってしまった。その隙に逃れていない珂玲はさっそく、中央に立っているリュカには合図を上げた。


 珂玲は両手で剣を握った、そして、全身の力と頭の中にいた思いを剣に注いだ。そして、アタリヤに狙って、一気に振ったと、その時。


 (カレイ…)

 

 どこかで、また自分の名前が呼ばれた。ただ、今の珂玲はそれを構う暇はなかった。


 「オーンドノワール」

 次の瞬間に、剣から滝のようなものはアタリヤの方向に流れた。そして、アタリヤを巻き込む。


 滝が消えた瞬間に、宮廷に先激しい戦った二人の姿はどこでも見当たらなかった。残ったのは濡れたカーペットだけ。


 「カレイ様ー」

 

 

  








 


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