第48話 答え合わせ
国王陛下の目が光った。エリカと同じオッドアイになる。
「予が、三人目だ」
ハッとする。過去を振り返る。
そもそも、地方の騎士学園に行く予定の僕を開拓村に送った件。
アゲート子爵の件。
セリーヌを王妃にした件。
そして、ジークを廃嫡にした……。
この一年で起きた矛盾と感じた出来事は、全てとは言わないが国王陛下が下した命令によるものだった。
そうか……。この人が、ストーリーを操っていたのか。
「そうでしたか……。エリカには、転生者であることを話していないのですよね? いや、一昨日エリカが王都に着いたと聞きましたので、もう話されていますか?」
「うむ。予もジークとリナ嬢だけだと思っていた。時期を見て土竜爪をエヴィ殿に送る予定だったのだが、ボールター男爵家の令嬢が欲したと連絡を受けてな。予想はしておった。
そして、思案したのだが、エヴィ殿を導いてくれると思い、接触はしなかった。
また、昨日のうちに、リナ嬢にエリカ嬢を紹介して貰い、話し合いは済んでいる」
そういうことか。エリカがいなくても結局は、土竜爪と四界瓶は僕の手に渡ったのだな。
いやエリカは、自分が転生者であることを隠そうとしなかった。土竜爪を僕に届けることで、国王陛下やリナ嬢にメッセージを送っていたのだな。ジークフリート以外の転生者は、自分以外にも『居る』ことを感じていたのだろう。
いやジークフリートが、予定外の行動を取ったので、転生者の三人は、『自分以外にも居る』と気が付いたと考えても良いかもしれない。そして、目的が合致したので、三人が図らずも協力したのか。
「想定外だったのは、ジークだけなのですね」
「その辺は良く分らんのだ。ジークは、幼少期より前世の記憶を持っていたみたいだ。
そして、宝物庫より身体強化の魔法スクロールを盗んだ時に、予が前世の記憶を取り戻した。
その後、攻略対象の貴族令嬢を落とし始めると、リナ嬢の前世の記憶が戻ったみたいだ。まあ、時系列なので明確には言えんがな。
エリカ嬢は、予よりも前なので、彼女の時期は分からん」
ジークが歪めてしまったストーリーを修正するために、三人が呼ばれたのかな?
もしかすると、五人目がいるかもしれない。
だがそれ以外に、一つだけ気になることがある。
「国王陛下。大体の話の流れは理解出来ました。ですが、一つだけ不可解なことがあります。
セリーヌ王妃です。エリカに聞きました。彼女はジークの攻略対象であり、隠しキャラだと。
なぜ、王妃にしたのですか?」
「……そうだな。国王の身分とは言え、自分の子供といえる歳の娘に手を出したのだ。
大臣達からも非難を受けたよ」
国王陛下は後妻を取らなかった。重臣達の派閥争いを生みたくなかったらしいとの噂くらいは聞いている。
「そうよな。その質問に答える前に、予の前世の話を聞いて貰えるか?」
「……。お聞きします」
「予は、前世でクリエイターであった。学校を卒業後、あるゲーム会社に入社してな。初めて任されたのが、課金制の追加キャラのシナリオ作りであった。
嬉しかったよ。いきなり大きな仕事を任されて、寝食を忘れて彼女を作り上げた。
会社内では、色々とダメ出しをされて、その度に修正を行い、ついにリリースまで漕ぎ付けることが出来た。自分では、会心の出来だと思えたよ。
だが、世間の評判は散々であった。『どこかで聞いたことのあるストーリー』、『感情移入が出来ない』、『攻略キャラの性格が破綻している』、『ストーリーがギャルゲーではなくエロゲーじゃね?』などとな。
SNSでの評価を見る度に凹まされた。
そして、仕事を干されて、バグ修正のプログラム改修を行う日々となった。
そのまま一年くらい鬱々と過ごしていたのだが、突然変化が訪れた。
3rdの製作が決まり、そのシナリオの一部を任されることになったのだ。どうやら、鬱々と日々を過ごしていた間に大きなことが起こったらしい。
制作陣の顔ぶれも一新されていたしな。
急にやる気が出て、仕事に邁進することになった……」
この人が、この世界を作ったのか。エリカは、この世界を模擬遊戯と言った。
国王陛下が作り、ジークフリートとエリカ、リナ嬢が遊んでいたと言うことなのだろう。
「そして、一年後に3rdがリリースされたのだが……、散々であった。
前作のセリーヌ以上に叩かれたよ。そして、会社は倒産してしまった。無理もない。素人を集めて作ったのだからな。
ただ、純粋に良い物を作れば売れると思ってた自分が愚かだと思えた。そんなものは、自己満足だともな。
売れるためにはどうすれば良いか……。経営やマーケティング、宣伝など全てが揃わないと人気は出ないのだろう。
予は、固定観念に捕らわれた、古い人間であったらしい。いや、何かを創造する才能などないと、自分を責めたものだ」
良く分からない。作った物が売れなかったのか?
だが、一人の人間が責任を背負う必要はないと思うのだが。それに、責任は指示を出した人が負うべきだ。
作った人が悪いわけではない。
でも、転生後は国王役なんだよな……。
「失意の中、事故に巻き込まれてこの世界に来たようなのだが、気が付いた時にはジークがストーリーを歪めていた。
そして、エヴィ殿との決闘だ。さすがに、怒ってしまった。
エヴィ殿がいないと、この国は疲弊するというのに。それを知っていて怪我を負わせたのだからな」
僕は、便利キャラと言われたが、国の財政にも影響を及ぼす人物になると知っていたのか。
まあ、最終武器を取った今だから分かることだが。
「そして、セリーヌが来た。一目見ただけで、止まれなくなったよ。
自分が愛情を注ぎ作り上げた人物……。それが目の前で保護を求めて来た。彼女の悩みや弱点、そして才能の全てを知っている。
一日で攻略してしまった。年甲斐もないと言われればそうかもしれない。
だが、予の理想の人物が現れたのだ。許して欲しい……」
「許すもなにも。セリーヌ王妃が幸せであり、シド殿が他国から怯えない生活を営めるのであれば、問題ないと思われます」
「うむ。ありがとう。そう言ってくれると救われる思いだ。
もちろんセリーヌとシドは、安全を保障する。教国や帝国から引き渡し要請も来ているが突っぱねている。
そして、エヴィ殿達が戦争に勝ってくれた。犠牲も僅かだと聞いている。
また、闇落ち騎士を選ばなかったとも聞いた。シルビア嬢を選んだともな」
パワードスーツで圧倒しただけだし……。エリカとリナ嬢も、最終武器で天変地異を起こして撤退させたのだろう。
しかし、ジークフリートがパワードスーツを取っていたならば、帝国を蹂躙していたかもしれない。僕達が最終武器を取って良かったと思えた。
それと、闇落ち騎士か……。彼女は本当に気の毒だったと思う。だけど、僕はシルビアを選んだのだ。
エリカの助言もなく、誰かに指示されたわけでもない。僕が決めた。
「僕は、この国が好きですよ。そんなに悪い国だとは思っていません。奴隷もいますが、笑顔の多い国だと思います。
それにリナ嬢は、3rdを好きだと言っていました。全ルートを攻略したとも。魔法学園で楽しんでいるとも。
僕もシルビアと出会えて幸せです」
「……そうか。その言葉だけで報われる思いだ」
「これからどうなされますか? 『ロードクロサイト学園』は、もうエンディングなのでしょう?」
「何も変わらんよ。この世界を楽しむだけだ」
それもそうか。僕が死ぬまで僕のストーリーは続いて行く。
そして、この世界は僕が死んでも続いて行くのであろう。
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