第49話 エピローグ

 戦争終結から三年が過ぎた。

 この三年間で大きなことと言えば、去年魔物の氾濫スタンピードが起きたことぐらいだろうか。

 僕も駆除に当たったのだが、リナ嬢率いる魔法学園の生徒の活躍が凄まじく、パワードスーツの出番はなかった。

 騎士学園と魔法学園の実力差が激しい。国王陛下が魔法学園を作ったそうなので、バランスを考えると言っていた。


 僕はと言うと、戦争での功績が認められて公爵となっていた。エヴィ・ヘリオドール公爵である。

 新しく魔導師の家系として独立した。父上と家名が被るので、そのうち新しい家名を貰えるのだが、今はまだヘリオドール家を名乗っている。籍を置いているか。

 今思うと、エリカの言った通りに公爵になれたのだ。まあ、国王陛下も転生者なので、僕の才能を知っており、公爵になるのは決まっていたのかもしれない。


 今僕は、内政大臣として忙しく働いている。

 開拓村はと言うと、定期的に見に行っているが、大きく発展していた。もはや街と言っても良い。

 教国と帝国を繋ぐ道も修復したため、交易の中継地点としてその価値を見出されたのだ。

 山を迂回することなく、短距離で国家間を繋ぐ重要な行路となっていた。

 そして、広大な農地を有する一大生産地にもなっていた。戦略的価値も生まれてしまったが、最終武器を揃えている王国に攻め込む国はいなくなっていた。帝国でさえ物資の融通を受け入れて、友好国となっていたのだ。

 最終武器が、世界を平和にしてしまった。抑止力と言えば聞こえが良いが、実際は国王陛下達が動かれたのだと思う。

 それと、開拓村は『エヴィ村』と呼ばれるようになってしまった。これだけは、止めて欲しい。

 何度も、開拓村の名称を変更しようとしたのだが、抵抗されて今だに変更は出来ていない。そのうち変えてやろうと思っている。


 エリカは、僕の元を去った。去って行ったのだが……。

 兄上の恋人になっていた。


「これからは、自由に生きさせて貰います。私もこの世界を楽しみたいので」


 そう言って去って行ったのだが、数ヵ月後に兄上から紹介されるとは思わなかった。父上は困惑気味だ。弟の元婚約者が、兄の恋人になったのだから。

 今は、ボールター男爵家と、世間的にどの様に発表するかで悩んでいるそうだ。兄上の婚約者となる日も近いのだろうが、父上には苦労を掛けてしまう……。

 それと、エリカの親友なのだが、破滅フラグは踏まなかったと言っていた。誰だったのかは教えてくれない。だが、今も親友として共に過ごしているのだそうだ。


 リナ嬢だが、無事に宰相様のご子息を落とし、婚約者の地位を手に入れていた。まあ、リナ嬢はリナ嬢でこの世界を気に入っており、王国に貢献してくれているので何も言うことがない。

 やりすぎないことを祈るばかりだ。


 そういえば、もう一人変化があった。五人目の転生者を見つけたのだ。

 その者は、僕の妹だった。

 エリカが、兄上の恋人としてヘリオドール家に来た時に発覚し、口論となったらしい。

 まあ、多少のトラブルはあったが、今は騎士学園に通っている。

 エリカ曰く、彼女が『2ndの真の主人公』なのだそうだ。

 第二王子が、ジークフリートの代わりであり、本来のストーリーが始まったらしい。ただし、同じ歴史を繰り返すとは限らないとのこと。2ndのストーリーでは、戦争が起きないストーリーもあるそうなので、そのストーリーに誘導して行くのだそうだ。

 妹が王妃になったら、父上は耐えられるのだろうか? 父上と母上には、兄妹でとても負担を掛けている気がする。





 その日僕は、墓参りに来ていた。手には花束を持っている。今は夏の暑い時期だ。

 仕事は忙しいが、この日だけは必ず休暇を取るように調整している。


「旦那様。どうかなされましたか?」


 僕の横には、シルビアがいる。


「ああ。もう三年なのだなと、感慨に浸っていた。忙しい毎日なのだが、この日が来ると全てを忘れられる。

 そして、再度昔を思い出し、あの時の悔しさを思い出すようにしてるのだ」


「何度も聞きますが、毎年この日にお墓参りされるこの方は、誰かも分からないのですよね?」


「ああ、名前も知らない。調べれば分かるだろうが、調べる気もないな。

 だけど、僕だけは死ぬまで彼女を覚えていなければならないのだよ」


「ふ~ん。『彼女』ですか……。旦那様にしては、珍しいですよね」


 また、『ツ~ン』として来た。結婚してもシルビアは嫉妬深いな。

 でも表情は笑顔だ。わざと拗ねているのだろう。あざといのかもしれないが、可愛いとも思える。


「浮気ではないぞ。彼女は戦争被害者だからな。前も話しただろうに。

 僕が救えなかった人なのだ。

 救う方法はなかったのかもしれないが、彼女のことは僕が覚えていればそれが供養にもなると思う。

 そして、彼女の家族が王国を訪ねて来たら、ここに連れて来たいと思っている」


「やっぱり、旦那様は優しい方ですね。素敵です」


 シルビアはそう言うと僕の腕に抱き着いて来た。


 セバスチャンには、家令として公爵家を取り仕切って貰っている。家が大きくなっても不備なく家を取り仕切ってくれていた。

 来賓も多く忙しいが、『元聖女候補を探している者』を見つけたら、僕に引き合わせるように手配済みだ。

 やっぱり、セバスチャンは優秀だと思う。でも、『ひ孫を見たい』と言うのはプレッシャーなんだよな。


「そういえば、旦那様は決闘に負けた人の治療も行い始めましたよね? 公爵の仕事ではないと思うのですが」


「ああ。決闘が起きたと聞くたびに、足を運んでいる。そうすると、皆萎縮して敬礼してくれる。そして、決闘の数は大分減ったと聞いた。

 貴族の礼儀かもしれないが、実際に負けた立場としては、余り多く起きて欲しくないのだよ。

 まあ、その抑止力といったところだな。

 こればかりは、僕のエゴかもしれないが、公爵の立場を利用させて貰っている。

 そのたびに政務が滞るので、王城で働いている者達も睨みを利かせ始めたみたいだ」


 もう、切られるのはごめんだし、優秀な人材を失いたくもない。

 国王陛下も納得してくれている。


「うふふ。大臣の立場を利用した嫌がらせですね。でも、そんな旦那様もやっぱり素敵です」


 シルビアは、デレている。少し気恥しいが、残りの人生も円満に過ごせたら良いと思えた。


 墓の前に着いた。

 墓前に花束を置き、片膝を突いて敬礼をする。


 墓碑には、こう書かれている。



『ロードクロサイト学園2ndの聖女』

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