第47話 凱旋と謁見

 大歓声と、拍手が僕を待っていた。

 父上と馬を並べて、王城への道を進む。


「父上。状況を教えて貰えないでしょうか?」


「うむ。まず、昨日はリナ・スピネル嬢が帰って来た。その前日には、エリカ嬢だ。

 二人は、軍に同行してサポート役に徹したとの連絡を受けている。だが、帝国の主力は、エヴィが一人で受け持ったと聞いてな。

 その話は、王城から王都へ一気に広まった。

 教国が誕生した時の、『悪い魔導師』に単身で対峙しに行ったとな。

 信じられなかったぞ。

 だが、関所からの報告もあり、国王陛下が事実として発表されたのだ」


 やられた……。あの二人は……。

 なにが、サポート役だ。実際は僕よりも強いだろうに。

 今回の戦争で名を上げるのは、僕だけになるのかもしれないな。


「それとだな。関所から無断で何処かに飛んで行ってしまったとも聞いている。

 それを、敵前逃亡だと言い出す大臣もいてだな」


 ……そうか。迂闊だった。エリカの未来視に頼り過ぎた僕が生んだ隙だ。


「すぐさま、二人が反論してくれて、飛竜を飛ばし、開拓村にいることを突き止めた。

 そして、国王陛下より、『無防備の開拓村をも守るために移動しただけだ』と擁護して貰った。

 実際のところは分からないが、これだけは口裏を合わせてくれ」


「父上。申し訳ありません、迂闊でした。

 でもそうですね。帝国が、百人でも軍を派遣すれば、開拓村は滅んでいたでしょう」


 こればかりは、エリカとリナ嬢に感謝だな。

 その後、声援が大きくなり、隣を共に進む父上の声も聞こえなくなってしまった。

 後ろには、馬車が着いて来ており、大量の花束が投げ込まれていた。


 これが、戦争の英雄なのだろうな。本来のストーリーであれば、ジークフリートがこの道を進んだのだろう。

 自分がなるとは思っていなかったが、とても恥ずかしい。だが、与えられた役目でもある。

 背筋を伸ばして、街道を進み、王城へ入った。





 そのまま、玉座の間に通される。父上とはここで別れた。もう少し話をして、事前情報を貰いたかったが、最低限の会話は出来たと考えよう。

 そのまま進み、片膝を突いて、敬礼した状態で待つ。

 誰かが入室して来た。そして、玉座に座った。


「面を上げよ」


「はっ!」


 初めて会ったのだが、僕は知っている。いや、この王国の誰もが知っている。目の前の人は、国王陛下だ。

 大勢の大臣に囲まれて、国王陛下との対面。人生最大の緊張感が襲って来た。


「報告は受けている。大儀であった」


「はっ! ありがたき幸せ」


 もう、テンプレートな言葉しか出て来ない。酸欠で倒れそうだ。

 国王陛下と宰相、大臣達が何かを言っているが、僕は、『はっ!』を繰り返すのみ。

 下を見ると、汗で床が濡れている。

 早く終わって欲しい……。胃が融けそうだ。


「……少し、二人で話さんか?」


「はっ! は!? はい?」


 国王陛下より、思いがけない一言が出た。大臣達が小声で話し始めた。

 その後、国王陛下が退室されると、僕も続くように促される。

 エリカとリナ嬢を見ると、少し困ったような表情をしている。

 二人で、何を話すと言うのだろうか?


 だが、僕に拒否権などない。

 国王陛下の後に続き、控室へ通された。


 僕が席に着くと、メイド達が出て行き、ドアが閉まった。

 今僕は、かなり緊張している。


「……エリカ嬢とリナ嬢とは、懇意にしているのか?」


「はっ! 二人とも懇意にさせて頂いております」


「ふむ……。英雄に王女もしくは王族の令嬢を贈ろうと思ったが、先約がいたか」


「……申し訳ございませぬ。もう決めた相手がおりますので」


 頭を下げる。


「……それは、シルビア嬢じゃな?」


 驚いて顔を上げる。なぜ、国王陛下がシルビアを知っているのだ?

 エリカ達が話したのか?

 だが、国王陛下を見た瞬間に、その答えが分かった。


 オッドアイ……。片目が黄色く輝いている。



「予が、三人目だ」

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