第46話 帰還と王城への招集

 どれくらい飛んでいたのかも分からない。

 だけど、僕の帰る場所は決まっていた。

 ……開拓村に降り立ったのだ。


 パワードスーツは目立つ。今は一人でいたかったのだが、皆集まって来てしまった。


「エヴィ様。戦争はどうなったので?」


「ああ。一日で終わったよ。王国の勝利だ……」


 村民が沸き上がる。

 だが、レガートは僕の沈み込んだ顔を見て、何かを察してくれたようだ。


「エヴィ様。疲れているみたいですし、少し休まれては……」


「ああ……。そうさせて貰う」


 そして、村長宅に向かおうとした時であった。

 シルビアと目が合ってしまった。数秒の後、僕から視線を外してしまう。

 そして、シルビアの前に歩いて行った。


「戦争には勝ったよ。もう何も心配はいらない。

 でも、疲れてしまった……。少しで良い、一人にさせてくれ」


 何時ものシルビアであれば、満面の笑顔で僕に抱き着きて来ただろう。

 自分でも分かる。酷い表情をしているのだと。

 そんな僕を見て、シルビアの瞳から涙が溢れてしまった。

 僕は、闇落ち騎士を選べなかった。シルビアを選んだからだ。今は、シルビアを抱きしめても良い場面だと思う。


 だが、出来なかった……。


 シルビアの横を通り過ぎ、村長宅の玄関を開ける。そのまま、自室に籠り、ベッドに横になった。

 もう一日以上寝ていないのだが、神経が高ぶっており寝れなかった。

 僕は、戦争で一人だけ救えなかった……。

 エリカとリナ嬢は、もしかすると数百人は相手にしているのかもしれない。僕は覚悟が出来ていなかった。

 前は、『兄上の代わりに戦場へ行く』などと考えていたが、現実はどうだ。

 僕に、そんなメンタルなどなかった。戦場と言う場所の事実を知り、その恐怖に震えている臆病者……。

 自己嫌悪で自分を傷つけてしまいそうだ。

 だが、体力の限界を迎えたのだろう。しばらくすると、眠りに落ちていた。





 目が覚めた。外は、日が暮れている。結構長い時間寝ていたようだ。


 ──コンコン


「……空いている」


 僕が起きたことを察してくれたのだろう。

 シルビアが、一礼して入って来た。


「お食事のご用意が出来ております。それと、パワードスーツは回収しておきました。

 えっと……。あと、エリカから連絡が来て、王国側から帝国に進軍はしないそうです。

 それと、その……」


 シルビアを抱きしめる。


「分かった。ありがとう。でも、今は言葉はいらない。

 少しで良い。このままにさせてくれ」


「……はい」


 シルビアが回復魔法を施し始めてくれた。僕は何処にも怪我はないが、温かい感覚だ。

 精神を癒そうとしてくれているのが分かる。

 精神を落ち着かせる。シルビアの甘い香り、柔らかい感触。これが、この人がいる所が、僕の帰る場所なのだ。

 そっと、シルビアを放す。


「さて、食べようか。メニューは何かな。いや、シルビアが作る料理であれば、僕は何でも美味しく食べられる」


 シルビアは、満面の笑顔で僕を見てくれた。

 一時的に気がふれてしまったかもしれないが、僕はもう大丈夫だ。

 自分の居場所を見つけたのだから。





 その後、王城へ招集が掛かった。

 セバスチャンとシルビアも付いて来ると言ったが、僕一人で行くことにした。

 移動は、馬である。紅き豚人レッドオークと呼ばれた頃は、馬を乗り潰してしまったが、今なら何の問題もない。鎧も着けていないしな。

 開拓村を出て、三日かけて王都へ入った。

 道中、ボールター男爵家とヘリオドール侯爵家があったが、行きは素通りとさせて貰った。帰りに挨拶に寄ろう。


 王都の門の前で、下馬しようとした時だった。

 衛兵が近寄って来た。なんだろうか? 城壁の門の前は、下馬してから身分を確認する必要がある。貴族であってもそれは変わらない。家紋だけで通れるのは王族だけだ。


「その紅い髪は、エヴィ・ヘリオドール僻地伯とお見受けします。お間違いなければ、そのままお進みください」


「うむ。僕がエヴィだが……。何かあるのか?」


「皆、お待ちです。ささ、お急ぎ下さい」


 待つ? 誰が? 国王陛下か? 馬で三日掛けての移動は間違いだったかもしれないな。帰還石は設定していないので使えないが、パワードスーツで即日来るべきであったかもしれない。

 多少の叱責は、覚悟しよう。


 この数日、精神が安定せずに無駄な時間を取ってしまった。僕一人で戦争をしたわけではないのだ。反省しよう。

 そして、城門を潜った。


「エヴィ・ヘリオドール僻地伯のご帰還である!!」


 びっくりした。城壁の上から、大きな声が聞こえたのだ。

 その後、大歓声が上がった。目の前の道の両脇は、王国の民が埋め尽くしていた。人の道は、王城まで続いている。


「え? なんだ?」


「エヴィ。待っていたぞ」


 不意に声を掛けられたので、横を向く。


「父上!?」

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