第46話 帰還と王城への招集
どれくらい飛んでいたのかも分からない。
だけど、僕の帰る場所は決まっていた。
……開拓村に降り立ったのだ。
パワードスーツは目立つ。今は一人でいたかったのだが、皆集まって来てしまった。
「エヴィ様。戦争はどうなったので?」
「ああ。一日で終わったよ。王国の勝利だ……」
村民が沸き上がる。
だが、レガートは僕の沈み込んだ顔を見て、何かを察してくれたようだ。
「エヴィ様。疲れているみたいですし、少し休まれては……」
「ああ……。そうさせて貰う」
そして、村長宅に向かおうとした時であった。
シルビアと目が合ってしまった。数秒の後、僕から視線を外してしまう。
そして、シルビアの前に歩いて行った。
「戦争には勝ったよ。もう何も心配はいらない。
でも、疲れてしまった……。少しで良い、一人にさせてくれ」
何時ものシルビアであれば、満面の笑顔で僕に抱き着きて来ただろう。
自分でも分かる。酷い表情をしているのだと。
そんな僕を見て、シルビアの瞳から涙が溢れてしまった。
僕は、闇落ち騎士を選べなかった。シルビアを選んだからだ。今は、シルビアを抱きしめても良い場面だと思う。
だが、出来なかった……。
シルビアの横を通り過ぎ、村長宅の玄関を開ける。そのまま、自室に籠り、ベッドに横になった。
もう一日以上寝ていないのだが、神経が高ぶっており寝れなかった。
僕は、戦争で一人だけ救えなかった……。
エリカとリナ嬢は、もしかすると数百人は相手にしているのかもしれない。僕は覚悟が出来ていなかった。
前は、『兄上の代わりに戦場へ行く』などと考えていたが、現実はどうだ。
僕に、そんなメンタルなどなかった。戦場と言う場所の事実を知り、その恐怖に震えている臆病者……。
自己嫌悪で自分を傷つけてしまいそうだ。
だが、体力の限界を迎えたのだろう。しばらくすると、眠りに落ちていた。
◇
目が覚めた。外は、日が暮れている。結構長い時間寝ていたようだ。
──コンコン
「……空いている」
僕が起きたことを察してくれたのだろう。
シルビアが、一礼して入って来た。
「お食事のご用意が出来ております。それと、パワードスーツは回収しておきました。
えっと……。あと、エリカから連絡が来て、王国側から帝国に進軍はしないそうです。
それと、その……」
シルビアを抱きしめる。
「分かった。ありがとう。でも、今は言葉はいらない。
少しで良い。このままにさせてくれ」
「……はい」
シルビアが回復魔法を施し始めてくれた。僕は何処にも怪我はないが、温かい感覚だ。
精神を癒そうとしてくれているのが分かる。
精神を落ち着かせる。シルビアの甘い香り、柔らかい感触。これが、この人がいる所が、僕の帰る場所なのだ。
そっと、シルビアを放す。
「さて、食べようか。メニューは何かな。いや、シルビアが作る料理であれば、僕は何でも美味しく食べられる」
シルビアは、満面の笑顔で僕を見てくれた。
一時的に気がふれてしまったかもしれないが、僕はもう大丈夫だ。
自分の居場所を見つけたのだから。
◇
その後、王城へ招集が掛かった。
セバスチャンとシルビアも付いて来ると言ったが、僕一人で行くことにした。
移動は、馬である。
開拓村を出て、三日かけて王都へ入った。
道中、ボールター男爵家とヘリオドール侯爵家があったが、行きは素通りとさせて貰った。帰りに挨拶に寄ろう。
王都の門の前で、下馬しようとした時だった。
衛兵が近寄って来た。なんだろうか? 城壁の門の前は、下馬してから身分を確認する必要がある。貴族であってもそれは変わらない。家紋だけで通れるのは王族だけだ。
「その紅い髪は、エヴィ・ヘリオドール僻地伯とお見受けします。お間違いなければ、そのままお進みください」
「うむ。僕がエヴィだが……。何かあるのか?」
「皆、お待ちです。ささ、お急ぎ下さい」
待つ? 誰が? 国王陛下か? 馬で三日掛けての移動は間違いだったかもしれないな。帰還石は設定していないので使えないが、パワードスーツで即日来るべきであったかもしれない。
多少の叱責は、覚悟しよう。
この数日、精神が安定せずに無駄な時間を取ってしまった。僕一人で戦争をしたわけではないのだ。反省しよう。
そして、城門を潜った。
「エヴィ・ヘリオドール僻地伯のご帰還である!!」
びっくりした。城壁の上から、大きな声が聞こえたのだ。
その後、大歓声が上がった。目の前の道の両脇は、王国の民が埋め尽くしていた。人の道は、王城まで続いている。
「え? なんだ?」
「エヴィ。待っていたぞ」
不意に声を掛けられたので、横を向く。
「父上!?」
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