第44話 戦争3
僕は、再度、パワードスーツを着た。
そして、闇落ち騎士を抱えて空を飛んだ。
「名は何と言う?」
「……答えられません。家族に迷惑が掛かってしまうので」
無粋だったな。反省しなければ。
彼女は抵抗しなかった。男共に凌辱され続けたと言っていたのにだ。
でも、僕のことは信用してくれているのかもしれない。
その期待に答えたいと思う。
それと感じる。彼女の闇属性が薄まって行くのを。
先ほど、魔力の動力源として使われていたと言った。多分だが、魔力そのものが失われてしまったのだろう。
この後の人生は、魔力なしで生きる必要があるな。
しかし、何処に連れて行こうか……。
今はゆっくりと王国の空を飛んでいた。
本当であれば、連邦の家族の元に帰してあげたい。だが、本人がそれを拒んでいる。
では、開拓村に連れて行き、匿うか?
ダメだな。エリカとリナ嬢が知っているだろう。二人がどの様な行動に出るか予想出来ない。
彼女の過去を知る二人だからこそ、死を選ばせるかもしれない。
王国にも教会などの保護施設はあるが、数日で追い出されかねない。
身分証もない彼女では、娼館ですら働けないだろう。
王都もダメだ。
ヘリオドール公爵家に……。父上に頼むのはどうだろうか?
いや、帝国の捕虜を匿ったことが知られれば、立場が危うくなる。父上には頼めない。
何とかして助けたいと思うのだが、方法が思い浮かばなかった。
そんな時に、眼下に民家が写った。森の真ん中にある、一軒だけの隠れ家だろう。
その家に降り立つ。
生命感知で、家の中には誰もいないことを確認した。
盗賊の隠れ家なのか、木こりの休憩所なのかは分からない。
だが、今日くらいは使わせて貰おう。
彼女を降ろし、僕もパワードスーツを脱ぐ。
だが、彼女は立ち上がれなかった。それほどまでに衰弱していたのだ。
お姫様抱っこして、家の中に運ぶ。彼女は触られるの嫌がる素振りはしなかった。
ベッドがあったので寝かせる。
そして、体を温めるために持っていたワインを注いで渡す。
「飲んでくれ。その後に、この後のことについて話をしておきたい」
「……殺してはくれないのですか?」
一度戦場に立ったとはいえ、好んで人殺しはしたくなかった。
また、彼女を救いたいと思っている。
テーブルを持って来て食料を置いた。
「携帯食だが、食べてくれ。それと君の処遇は考える。決して悪いようにはしない。信じて欲しい」
僕は少し離れた場所で、彼女を観察した。
ダメだ。目が離せない。無意識に視線で彼女の動向を追ってしまう。
これが、聖女候補なのかもしれないな。エリカの魅了の魔眼とは違う、異性を虜にする魅力……。
彼女はゆっくりとだが、食事をしてくれた。そして、全て食べてくれた。
「ありがとうございます。久々の食事は美味しかったです。お返しは体でしか出来ませんが、よろしいでしょうか?」
ハッとしてしまう。分かる。耳まで真っ赤だ。
「いや……。僕には心に決めた人がいてな。君を辱める気はない」
見透かされていたのだろうか。慌てて否定する。
「……そうですか。不思議な人ですね。私を捕らえて手を出さないなど」
彼女は、ずっとその美しい外見に悩まされて来たのだな。
だが、世界中の男が、ケダモノではない。僕が証明しよう。
その後、回復魔法を施し歩ける程度まで回復させた。
「今は戦争中で、僕は兵士でもある。
少し離れるが、待っていて欲しい。報告がてら、食料などの必要な物資を持って来る。
君の処遇はまだ決まっていないが、悪いようにはしないので信じて欲しい」
彼女は、笑顔で、『はい』と言ってくれた。
◇
夜中だが、王国の関所に向かった。
そして、帝国の進軍は止めたことを伝えると、大きな声援がわいた。そして、王城へ使者が向かった。
これで、この関所方面は大丈夫であろう。
僕は他の戦場の状況を待つこととした。エリカとリナ嬢が向かった戦場の情報を欲したのだ。
最終武器を持つ二人であれば、問題ないとは思っている。だが、やはり心配してしまう。
落ち着かないが、なるべく落ち着くようにして待っていると、夜が明ける前に、帰還石にて兵士が報告に来た。
まず、エリカの方だが、四界瓶で大津波を起こしたのだそうだ。敵兵は津波で流されて撤退したとのこと。
そして瓦解した軍へは追撃を行わずに、近くの街を占拠したらしい。
帝国の帝都に近い街である。エリカが防衛体制に入ったので、もはや奪還は不可能だろう。
今は暗殺者を避けるために、エリカには何人もの護衛が付いているのだそうだ。
僕的には、護衛も必要なさそうな気がするが、まあ現地の人達に任せよう。
それと、リナ嬢の方だが、ジークフリートは討ち取ったと連絡が来た。
やはり、狂戦士化しており、話し合いも出来ない状況であったみたいだ。
打神鞭で打ち据えて、飛竜の炎で遺体なく焼き尽くしたらしい。
一応、魔法学園の生徒が連携して討ち取ったと言う形で報告が来た。
リナ嬢は、実力を隠して無双しなかったようだ。賢いと思う。
これで、戦争は終わりだ。
僕は、温かいスープをフタ付きのカップに入れて貰い、すぐに食べられる食料と毛布を分けて貰った。
そして、パワードスーツを着て、名も知らぬ彼女の元に戻ることにした。
距離的にそれほど離れているわけではないし、時間的にも一夜程度離れただけだ。
何も問題は起きないと思っていた。
だが、森の中の小屋には、誰もいなかった。
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