第43話 戦争2
僕は、闇落ち騎士に近づいた。
その姿から、もう反撃は来ないと思う。
呪われたアイテムに魔力を絞り尽くされて立つことも出来ないのである。このままでは、死んでしまうかもしれない。
少し考えて、パワードスーツを脱いだ。
ただし、土竜爪と魔導書は、展開している。
「はぁ……、はぁ……」
闇落ち騎士は、荒い息をしながら憎悪の目で僕を睨んでいる。
そして思ってしまった。
綺麗な女性だ……。
「……名は何と言う?」
自分でも意外であった。戦場で敵に話しかけるなど。
でも、とても興味がわいた。闇落ち騎士の瞳に吸い寄せられるように、僕はその女性に近づいた。
話しかけずにはいられない……。そんな感じだ。
「……」
返事はない。そして、魔力を吸い続けられている。このままでは、数時間もすれば、命まで吸われてしまうだろう。
助けたい……。何故か、そう思ってしまった。
そして、魔導書が僕の感情に反応した。
新しいページが開き、解呪の呪文が浮かび上がったのだ。
その呪文を起動して、土竜爪に纏わせる。
土竜爪を一振りすると、闇落ち騎士を縛っている鎖が切れて、消滅した。
僕は土竜爪を数度振り回し、闇落ち騎士と呼ばれた女性の呪いを全て解呪した。
呪いから解放された女性は、驚愕の表情で僕を見ている。
「話せるか? 無理なら回復魔法を施すが」
「……なぜ助けたのですか?」
やっと口を開いてくれた。
「理由はない。呪われたアイテムに縛られていたのだろう? 命まで取る必要はないと思っただけだ」
「……優しい人なのですね。でも、そう思うなら一思いに命を絶つのも情けではないでしょうか?」
心が魅かれる。彼女の一挙手一投足に目を奪われる。
「呪われたアイテムに捕らわれていたと聞いた。出来れば、経緯を聞きたい。
納得出来れば、王国で保護しよう。僕は、エヴィ・ヘリオドール僻地伯だ。
こう見えても、今回の戦争では権限を持っている」
「……面白い話ではないですよ。いえ……、殿方にとっては面白いかもしれませんね。
私は、連邦で生まれ育ちました。そして、教国からお迎えが来ました。
分かるでしょう? 私は光の単属性持ちの聖女候補だったのです」
そうか……。シルビアのバッドエンドを向かえてしまった人なのだな。
だが、なぜ帝国の先兵になったのだろうか?
「続けてくれ」
「教国で聖女候補として過ごしていたのだけれど、他の候補者よりも劣っていたので落第しました。
それで、連邦に帰る時に、護衛の騎士に襲われて……。体を汚されて……。その後は、良く分かりません。
ただ、帝国に運ばれて、そこで凌辱されて過ごしていました」
聞いたのは間違いだったな。話したくもない内容を聞いてしまったか。
だが、彼女からは堰を切ったように話が続いた。
「ある日、私が捕らわれていた牢屋に見知らぬ男が入って来ました。
手には鎖の魔道具が握られており、それで私を縛り上げた……。
私は、気力も体力も失っていて、されるがままに鎖に繋がれたのだけど、そこで異変が起きました。
私の光属性が反転したのです。そして、鎖の魔道具が私の憎悪を飲み込んで増幅し始めた……」
「その魔道具が、呪われたアイテムと言うやつなのか?」
「……名称は分かりません。でも、『呪われた』は、正しい表現なのでしょうね。
力が漲って来た……。私を凌辱した男共を見ると、私の憎悪に呼応して魔道具から魔力が溢れ出した。
思うに、私の魔力の増幅器だったのかもしれません。
そして、その場にいた男共を皆殺しにして、外に出ようとしたら兵士に囲まれました。
笑ってしまいましたよ。次の瞬間には、血の海に変わっていたのだから」
そうか。この女性も最終武器を手に入れたのだな。僕の魔導書と近い感じがする。
僕も、土竜爪と魔導書があれば、百人程度は退けられると思う。
だが、余りにも気の毒だ。自分の才能を反転させられて、恨みを原動力とするなど……。
「その後、帝国領内で盗みを働きながら逃げ回っていたのだけど、行く当てもなくて……。
連邦の実家に帰れば、家族や親戚に迷惑が掛かってしまう。途方に暮れました。
そんな時に、また捕まったのです。それも一人の男にね」
「帝国には、君より強い人物がいるのか?」
「……たしか、『闇落ち剣士』と呼ばれていたわ。それと、ジークとも呼ばれていました。
精神を壊していて、狂戦士と言った感じでしたね。
さっきまでの私と同じ。精神の全てを魔道具に支配されていたのでしょう。
でも帝国は、『闇落ちした者』を手懐ける方法を見つけたみたい。私は先ほどまで自我を失っていたので詳細は分からないけど。
それからは、ほぼ意識がありませんでした。あの日から今日までどれくらい過ぎているのかも分かりません」
「ジークだと?」
帝国に逃げたと言っていたが、ジークフリートの可能性があるな。
確か、リナ嬢が対応しているはずだ。
リナ嬢も最終武器を取っているが、大丈夫なのだろうか?
いや、これが3rdのストーリーなのかもしれない。リナ嬢であれば、対応策も準備済みと考えるのが妥当であろう。そうも言っていたし。
「その後の記憶は曖昧なのだけれど、魔力を物質化して纏うと、男共に触られなくて良かったと感じる程度でした。
そのまま、魔力の動力源として生かされ続けていました。気が遠くなりそうなほどの時間でしたよ。でも、実際には数日だったのかもしれませんね」
……この女性を助けたい。そう思ってしまった。
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