第42話 戦争1

 今僕はパワードスーツを着て、予定の場所に向かって飛んでいた。

 リナ嬢からは、帝国との国境となる関所を超えた場所で向かえ討って欲しいと言われている。

 ここで眼下を見る。

 今まで見たことのない視点で、ロードクロサイト王国を見ることが出来た。

 上空より俯瞰出来ると言うのは、便利なものだ。盗賊のアジトですら簡単に見つけられてしまう。

 ここで、パワードスーツの魔法を使って、盗賊のアジトを潰しても良いかもしれない。

 だが、少し考えて止めることにした。衛兵に連絡を入れて、捕まえて貰おう。

 今の僕ならば殲滅するのも簡単だが、彼等も王国の一員である。エリカは、『かませ役』も必要と言った。

 彼等には、然るべき罰を受けて貰い、その後厚生して貰いたいと思う。


 そんなことを考えていると、国境の関所が見えて来た。

 リナ嬢が、先手を打って連絡してくれていたみたいだ。声援が聞こえる。そして、国旗が振られていた。

 まあ、魔法も矢も届かない高度を取っているので、間違って攻撃されても問題はない。

 そして、そのまま、帝国との国境に向かった。


 リナ嬢に指定された場所に着いた。ここで、迎撃すれば良いはずだ。ここは、国境限界線と呼ばれており、両国が干渉しない条約を結んでいる。

 しばし待つが、まだ敵影は見えない。

 とりあえず、魔道具の確認をする。土竜爪と魔導書に魔力を供給し、土塁を作成した。

 紙の盾になるかもしれないが、一瞬の足止めくらいにはなるだろう。

 そして、腹部分に取り付けた盾が外れないことを確認する。ギザール商会から貰った盾だ。

 確率的にはかなり低いのだそうだが、腹に直撃を食らうと負けることがあるらしい。

 エリカ曰く、『アクションゲームの苦手な人への救済処置』と言っていた。とにかく、これで弱点はないのだそうだ。

 僕の準備は万端だ。


 後は、僕が敵を倒せば良いらしいが、エリカは、どんな敵が来るのかさえ教えてくれなかった。

 エリカの知るストーリー的には、軍隊が来るらしかったのだが、今回は『一人の騎士』が来るとだけ教えられている。

 どうやら、リナ嬢の知るストーリーに切り替わったらしい。3rdのシナリオと言っていた。

 まあ、リナ嬢の歴史では、パワードスーツは、魔法学園の学生が着るみたいなのだが、それは良いだろう。

 帝国の軍隊はエリカが抑え、ジークフリートはリナ嬢が抑えるらしい。それぞれ護衛をを引き連れて戦場に向かうとのことだった。


 もうすぐ日暮れである。遠くに、帝国の関所が見える。だが、変化がない。

 土塁の上で、緊張しながら待機しているのだが、こうも変化がないと寝てしまいそうだ。

 そして、日が暮れた。

 本来であれば、灯りのない街道である。何も見えないはずだが、パワードスーツから送られて来る視覚情報には、帝国の関所がくっきりと浮かび上がっていた。

 そして、何の前触れもなく、それが起こった。


 いきなり、帝国の関所が破壊されたのだ。土煙が舞い上がり、火災が広がって行く。

 そして、大きな黒い影が出て来た。


「……来たか」





 距離にして、十キロメートルと言ったところだろう。

 人間の歩く速度ほどのスピードで、その影がこちらに向かって来る。

 近づくにつれて、その輪郭がハッキリする。かなり大きい。

 そして、それは僕が見たことのある姿であった。


「ジークに切られた時に見た夢……。あの時の魔物そのものだな。そして『騎士』ではないと思うのだが……」


 あの夢では、僕は魔導書のみを持っており、十人前後で迎撃を行っていた。

 歪められたストーリーと、その修正。その意味……。

 まあ良い。ここで迎撃さえ出来れば。エリカの知るストーリーに戻るのだろう。

 僕は、パワードスーツの両手に取り付けられている筒を魔物に向けた。


 とりあえず、魔法を撃ってみると関所を吹き飛ばせるほどの威力の魔法が放たれた。これは、上級魔導師の数人分の威力になると思う。

 土煙が晴れると、魔物が再度見えた。魔物には、穴が空いており、蠢いている。攻撃は効いていると思われる。だが、ここで反撃が来た。

 反射で空を飛ぶ。

 パワードスーツと同じくらいの威力の魔法が、土塁を吹き飛ばした。属性は闇魔法みたいだ。

 魔法の攻撃力は同じくらいかもしれない。

 だが、どうやら連射は出来ないようだ。

 空を飛べるというアドバンテージ。そしてパワードスーツは連射が可能である。

 次々に魔法を撃ち込んで行き魔物を削って行く。すると、魔物は嬌声を上げて反撃して来たが、二発目で終わってしまった。

 そして、魔物はドロドロに溶け出して、その巨体を崩して行った。

 ここで思う。

 確かに、パワードスーツがなければ、一人では勝てなかっただろう。だが、夢で見たように上位魔導師十人もいれば、勝てたのではないだろうか?

 僕の見た夢は、リナ嬢のストーリーだったのかもしれない。あの夢には、僕以外の魔導師もいたのだから。


 とりあえず、油断せずに魔物に近づいてみた。

 魔物の核になる部分が残っている。これを破壊すれば、終わりだ。パワードスーツの筒を向ける……。

 だが、僕は引き金を引けなかった。


 そこには、手足を鎖で縛られた若い女性がいたのだ。

 その女性は、息も絶え絶えだが、僕を睨んでいる。


「これが、『闇落ち騎士』か……」

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