第41話 再来2

「そうゆうわけで、戦争が始まりそうなんで、エリカっちを向かえに来たのだ!」


 リナ嬢がそう言って、ビシッとエリカを指差した。

 全員が唖然としている。


「先ほどの繰り返しになるが、一年早い理由は、分からないんだよな?

 戦争となれば、かなりの準備が必要だと思うのだが……」


「そだねぇ~。あーしもこの時期だとは思わなかったし」


 リナ嬢にとっても予想外なのか。


「何か想定外のイベントでも起こったのかしら?」


「う~ん。誰も分かんないと思うな。

 もしかすると、ジークが帝国で何かしたのかもしんないんだけど、あーしも情報は掴めてないんよね。

 途中から消えちゃってさ。消されたかもと思ったんだけど、生きてたんだわ。

 そんで、『呪われた剣士』にジョブチェンジしてて、今進軍中」


「どんな状態か分かる?」


「え~とね。狂戦士って分かる? 知性が吹っ飛んでる感じ。

 まあ、ジークは良いよ。あーしが退治するから。一応対策も練ってたから準備万端だし。

 それよりもさ、エリカっちには、教国側を通って来る帝国軍を向かえ討って欲しいんよね。

 一日でも放置すると、王国は街をいくつも落とされちゃうんよね……」


 エリカが、顎に手を当てて考え出した。


「……それが、3rdのストーリーなの?」


「そそ。シナリオの一つだね~。騎士学園と魔法学園の対抗戦で、魔法学園が圧勝するのが条件の一つ。

 二つ目は天候魔法対策でやり過ぎること。

 三つ目が、セリーヌっちを帝国に渡さないで保護してること。

 条件が三つ揃うと、このシナリオに突入するのだ!」


「一つ目のフラグを折らなかったの? 最悪のシナリオとも取れるのだけれど」


「あ~。宰相の令息を落とすのは、このシナリオなんよ……」


 つまりは、リナ嬢が選んだストーリーになっているのか。


「……分かりました。

 不可解なのは、教国には水不足の解消の恩を売ったのに、帝国に協力していることかしらね……。

 まあ、細かいことは、道中で聞くわ。

 エヴィ様。四界瓶を借りて行きますね」


「うむ……。僕は良く分らないのだが、リナ嬢の思い描いた通りにはなっているのだな。

 教国方面は頼んだぞ。僕は、開拓村を守りつつ、不測の事態に備えておく」


 エリカとリナ嬢が顔を合わせる。


「うんとね。エヴィ様には、最も手強いのを相手して欲しいんよ」


「先ほどから出ている、『闇落ち騎士』と言う奴か?」


「そそ。その騎士は、今はエヴィ様しか倒せないんだよね~」


「ああ、分かった。パワードスーツは、そのために取ったのだしな」


 ここで、シルビアが僕の袖を掴んで来た。その手に手を重ねる。


「シルビア。これは貴族としての責務だ。行かなければならない」


 僕の言葉を聞いて、シルビアの力が抜けた。ただし、掴んだ手は離さない。


「エヴィ様は、責任感強くて助かるわ~。モブの中でも好感度では、上位に入るのが分かるわ~。

 そんでね、エヴィ様には、帝国と王国を繋ぐ一番近い道あるっしょ?

 途中に関所があって、その先の国境限界線って不干渉地帯で待ってて欲しいんよ」


「ああ。パワードスーツで飛べばすぐだな。何時攻めて来るかは分かるか?」


「そこが不明でさ。なるべく早く行って欲しいかな?」


「承知した……」


 こうして、リナ嬢はエリカを連れて帰って行った。





「シルビア。パワードスーツを出してくれ」


「……」


 何時もの『ツ~ン』ではない。泣き出しそうだ。

 後ろからそっと抱きしめる。これでダメなら、キスしてみるか……。

 一分ほど抱きしめていたら、シルビアの力が抜けた。

 そして、指輪が光る。


 パワードスーツが現れた。


「ありがとう」


「……」


 額にキスをする。

 その後、セバスチャンから携帯食と護身用のナイフを受け取った。それと、背負っていた盾を降ろした。

 回復薬などは不要だ。僕が回復魔法を使えるのだから。


「シルビア。それでは行って来る。必ず戻るので待っていてくれ」


「お早いお帰りをお待ちしております。お気をつけて……。どうか、どうか……」


 シルビアが泣き出してしまった。

 今抱きしめると、何時間も離せなくなりそうだ。僕は触れることはせずに、パワードスーツを着た。

 そして、盾をパワードスーツの腹に取り付けた。ギザールさんと出会った時に得た盾であり、僕が背負っていた盾だ。

 これで、全ての準備が整った。


 空を見上げて、飛び立つ。

 僕は、戦場に向かった。

 これからの数日間が、この国の運命を分ける時間になるのだろう。

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