第40話 再来1

 その日は、何時も通り開拓村を回って、何事もなく終わるはずの日であった。

 突然、村民が騒ぎ出した。

 慌ててその場に駆け寄る。


「何かあったのか?」


「空に何か浮かんでいます。こちらに向かって来ています」


 手を額に当てて、遠くを見る。村民が示した方向を見ると、とても小さいが何かが飛んでいることが分かった。

 だが、徐々に大きくなって行く。そして、その形だ。


「あれは、飛竜か?」


「……そうだと思います」


 村民には、避難を命じた。全員が作業を止めて家に入る。

 飛竜とは、数年に一度目撃される程度の魔物である。ただし仮に戦闘となれば、軍隊を蹴散らすほどの猛威を振るう。

 そんなのが、近づいて来たのだ。通り過ぎることを祈りたいが、どうやら開拓村が目的地のようである。

 シルビアとエリカは、山に入って山菜採りをしていると思う。

 セバスチャンは、護衛兼魔物の駆除だ。レガートも付き合っている。


 今、開拓村で対応出来るのは、僕しかいない。

 油断……。そう言われればそうかもしれないが。だが、余りにも想定外の出来事が起きようとしていた。


 とりあえず、村民は皆家に入った。

 僕は、一人で開拓村の中央にある開けた場所で待ち構えた。

 そして、上空には飛竜が旋回している。

 数分持たせれば、セバスチャンとエリカくらいは、来てくれるだろう。

 シルビアが来てくれれば、パワードスーツが使える。それまで時間を稼げば良い。


 僕が考えていると、飛竜が地上に降り立った。

 誇りが舞い上がり、一時的に視界が曇る。

 風が吹き、埃が飛んで行った。そして、目の前には、羽を広げれば十メートルはあろうかという飛竜が対峙している。

 僕は、土竜爪と魔導書に魔力を送り、臨戦態勢に入った。四界瓶も持っており、盾も背負っているので、準備は万端た。


「あ、エヴィ様み~け! あーしよ、あーし!」


「リナ嬢!?」


 飛竜の背中から、ひょいっと顔だけ出して、リナ嬢が自分の存在をアピールした。

 飛竜を見ると、背中に鞍が付いている。馬のように騎乗して来たのか?


 リナ嬢が、飛竜から降りて来た。その姿は、魔法学園の制服であり、スカートの下にパンツルックというあまり見かけない服装をしていた。

 リナ嬢が、パンパンと服の誇りを払った。

 そして、一礼して来たので、僕も返す。


「あ~、急ぎで悪いんだけど、戦争始まりそうでさ。エリカっちは何処?」


「……エリカは、今山に入っている。シルビアも一緒だ。でもすぐに来ると思うぞ」


「そっか~。タイミング悪かったかな?」


「それよりも、その飛竜は何なのだ? 騎乗出来るのか? いや、王族でさえそんな芸当が出来る者などいなかったのだが」


「あ、この子? 可愛いっしょ? アンナ言うんよ。3rdで手に入るアイテムでさ、【テイム】出来んのよ」


 アンナと呼ばれた飛竜がリナ嬢に頬擦りをする。本当に懐いていそうだ。

 その様子を見て、気が抜けてしまった。土竜爪と魔導書への魔力供給を切る。

 その場に椅子となる石を生成して、少し雑談すると、セバスチャンとエリカが戻って来た。

 疾風を思わせる速度だ。再度、埃が舞い上がる。


「あ、エリカっち、おひさ」


「リナ様? どうしてここへ? それと、その飛竜は?」


「ん? 3rdでは、モンスターテイム出来んのよ。んでね、あーしは飛竜を【テイム】したんよ。可愛いっしょ?」


 エリカが唖然としている。エリカの知識にはないスキルなのだな。

 しかし、リナ嬢が通っている魔法学園とは、いったいどのような場所なのだろうか?


「……世界観壊しまくりね。3rdは、別なゲームじゃないのかしら? なんで乙女ゲーにモンスターテイムを取り入れたのか、聞きたいくらいだわ」


「にしし。まあまあ。3rdは3rdで楽しいよ? 魔法学園に来る?」


「今は遠慮しておくわ。それで、どうしたの急に」


「あ、そうそう。忘れるところだった。ジークがさ、攻めて来そうなんよ。それに帝国が軍を国境に集結させてるんよ」


「何があったの?」


「う~んとね。言い辛いんだけど、天候魔法対策でさ、やりすぎちった」


 リナ嬢は、『あはは』と言って頭を掻いた。

 ここでシルビアが戻って来た。かなり息が切れている。山道を全力疾走したのだろうな。


「ここではなんだ。村長宅へ行こう」


 こうして、五人での移動となった。レガートは……、そのうち来るだろう。

 シルビアには、僕から経緯を話した。まあ、何も分からないと言うことを伝えただけだが。





「ぷはぁ~。空の旅の後の一服は最高じゃ~」


 リナ嬢が、お茶を美味しそうに飲んでいる。間違ってもアルコールは出しませんよ?


「それで、ジークについて教えて欲しい。それと、天候魔法対策はどうなったのだ?」


「うん。ジークは呪われたアイテムに魅入られてさ、帝国で暴れ回って捕まったんよ」


 意味が分からない。呪われたアイテム?

 エリカが割って入る。


「それは、闇落ちってこと? ジークが、あのアイテムを取ったの?」


「うんにゃ。エリカっちの知識にはない呪われたアイテムかな。闇落ち騎士とは別なアイテムがあんのよ。それをジークが取ったんよ。

 あ~、でも『取った』は違うかな。ジークの攻略対象にさ【鑑定】持ちいたじゃん? その娘の報復だからね。

 それとね、天候魔法対策だったんだけど、あーしも冬の間に水を集めててさ、帝国の天候魔法発動と共に放出したんよ。これは、セリーヌっちにも手伝って貰った。そしたらさ、帝国が洪水に飲まれちゃってさ……。農地とか水没させちった」


 ジークフリートは、報復されたのかな? まあ、恨んでいる相手は多いだろうし、そんなことも起きるだろう。

 しかし、洪水って……、やり過ぎではないだろうか?

 去年の報復にしても、度が過ぎている。


「その後、あーしとセリーヌっちでさ、教国と連邦に雨を降らせたので、この二国は味方に付けたんよ。

 でも、帝国が怒っててさ。もうすぐ戦線布告して攻めて来そうなんだわ」


「一年早くない?」


「う~ん。この世界の主人公は、やっぱしジークだったみたいな? ジークの行動でストーリーが決まるみたいなんよ」


「……そうなの。そうすると、私達は『噛ませ役』なのかしら?」


「うんにゃ。パワードスーツあるし、『噛ませ役』があるのであればジークかな? ジークが倒れるか、捕獲されてから、この世界の本当のストーリーが始まんじゃね?」


 意味が分からない。主人公が、『噛ませ役』のストーリーってなんだ?

 エリカを見ると何かを考えている。

 毎度のことながら、転生者の話は分からない。もうすぐ戦争が始まることしか分からないよ。

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