第39話 助け船

 夏前に麦の収穫が行えた。魔法を使えば、開拓村は三毛作が出来そうだ。

 開拓村は、広大な土地を開墾して畑にしてしまった。村民百人では、全ての土地の管理は出来ないので、一区画ずつ種を蒔いている。

 連続して種を蒔くと、土地が痩せてしまうので、順番に種蒔きと収穫を行い、畑を休ませることにしたのだ。

 今回も豊作となり、収穫祭となった。お腹一杯まで食べられて、村民達も喜んでいる。

 他の街から調味料も買い付けているので、とても美味しい。


 害獣駆除も順調だ。レガートが中心となり討伐隊が組まれている。

 土塁もあるので開拓村には入って来ないが、放置して数を増やすわけにもいかないので、定期的に大掛かりな討伐隊を森に派遣している。


 余った麦と肉、野菜は、また父上に献上しに行こうと思う。


 空を見ると、雨雲が不自然に動いていた。帝国に引き寄せられるように動いている。

 天候魔法を使い始めたのかもしれない。

 リナ・スピネル伯爵令嬢との取り決めで、セリーヌ王妃に任せることになったが、まあ大丈夫であろう。

 予備のプランもあるし、政治的なことは任せたいと思う。


 それと、時々開拓村近くまで、監視が来るようになった。村民が山向こうから視線を感じるのだそうだ。

 村民には、眼が良い者が多くいる。

 多分だが、教国かまたは帝国だと思う。連邦は、遠いので来ないと思っている。

 エリカに聞いたのだが、放置で良いとのこと。開拓村は水が少ないことが知られているので、攻めて来させない戦略を取っているのだそうだ。

 まあ、攻めて来られても、低いが土塁もあるし、防衛は可能であろう。最悪パワードスーツもあるし。

 暗殺者は、セバスチャンとエリカがいるので近づいた時点で拘束出来ると思う。心配はしていない。


 後は、ギザール商会に貰った盾である。とりあえず、僕が持つことになった。今は背負っている。

 なんでも、パワードスーツの一部品になるのだそうだ。

 エリカの知識では、パワードスーツを着て戦場に出ても、帝国の秘密兵器の完成度が最高レベルだと、破壊されることもあるのだそうだ。

 この辺は疑問が残る。パワードスーツに敵うアイテムを帝国が取っているのだろうか?

 最終武器が、帝国にもある?

 以前、エリカとリナ嬢は、『闇落ち騎士』と言った。シルビアが選んだ僕にしか対応出来ないとも。

 エリカがいるので、こちらの準備はほぼ終わっていると思う。

 まあ、戦争回避に動いてくれるのが一番であるが、そこは王城の人達次第だ。僕は関与出来ない。でも、リナ嬢の選んだストーリーが進行しているのであれば、回避は不可能なのだろう。

 そういえば、父上はどうしているのだろうか? 国政に関与出来るようになっていると、僕としては嬉しい限りである。





「アゲート子爵領に食料を提供したいのか?」


 今は、エリカと収穫した食料について話している。


「はい。今、王国内で一番酷い状況なので、手助けをしに行きたいと思います」


「噂の才媛は何をしているのだ?」


「……水を配って頑張ってはいますが、領民が餓死寸前なので、畑も耕せていません。あれでは、最終武器があったとしても食料の増産は無理でしょう。マンパワーが足りていないのです」


「……王城とスピネル伯爵家は、動かなかったのか?」


「王城は、国土全てを救おうとはしませんね。切り捨てなければならないと判断されれば、援助は打ち切られてしまいます。スピネル伯爵家は、王家に同調せざるをえないでしょう」


 リナ嬢もいるのだが、それでも救援出来ないほど追い詰められているということか?


「ヘリオドール侯爵家はどうなっている?」


「セリーヌ王妃とリナ様が水を配ったので順調です。収穫は、少し先になりますが、農作物は順調に育っていました」


 ふむ。反対する理由はないな。


「分かった。この件は、エリカに任せる」


「エヴィ様。ありがとうございます。これで、アゲート子爵令嬢と面識が出来ます」


 やはり、エリカは何か考えがあるのだな。まあ、深くは聞くまい。

 こうして、エリカが食料を運んで行った。





 一ヵ月しないで、エリカは帰って来た。

 アゲート子爵領は、もう大丈夫だと言っていた。領民が食事をとり、動けるようになると復興が始まったのだそうだ。

 噂の才媛が才能を発揮させ始め、もう領地経営は大丈夫なのだそうだ。

 今は、村長宅で何時もの四人でテーブルを囲んでいる。


「アゲート子爵令嬢は、どんな人だったのだ?」


「う~ん。聡明で見目麗しい人でしたね。お家騒動がなければ、男性が放っておかなかったでしょう。噂通りの人でしたよ」


 シルビアの視線が、痛い。


「まあ、国王陛下が認めた人なのだ。疑いはしないが、若干の疑問は残るかな……。それとリナ嬢は、何をしていたのだ?」


 シルビアの視線が、とても痛い。


「リナ様は、魔法学園と王城を往復していましたね。精力的に動いていたみたい。

 それと、宰相の令息と共に行動していたわ。リナ様も順調そうね」


「リナ嬢は、アゲート子爵令嬢と親友だと言っていたが、助け船を出さなかったのか?」


「……エヴィ様が助けるのを見越していたみたいね」


 ため息が出た。

 これは、未来視ではないな。リナ嬢とエリカも話し合っておらず、僕がアゲート子爵令嬢の窮地を知れば、助けると先読みされていたのだろう。

 まあ良い。これで、ヘリオドール侯爵家は、アゲート子爵家とスピネル伯爵家に伝手を持ったことなる。王家への印象も良いだろうし、僕は言うことはない。

 シルビアの視線が、とてもとても痛いだけだ。

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