第36話 今後の予定と来訪者
パワードスーツが取れて、シルビアの機嫌も良くなった。
そして、雪も融けて温かくなって来た。
これから、また開拓村の開発を行える。
冬の間に作った工芸品だが、防寒着以外は、馬車で街に売りに行って貰った。
この件は、エリカ主導で行い、護衛にレガートと数人の村民が付いた。
馬車二台分の工芸品を運んで行って貰う。
数日で帰って来るそうなので、それまでは、セバスチャンとシルビアと僕の三人で開拓村を回して行く。
「とりあえず、畑を広げようか」
僕の提案に、セバスチャンとシルビアが頷いた。
土竜爪を使い、畑になりえる土地を開墾して行く。表面の栄養価の低い土地を退けて、沈んでいた肥沃な土地を掘り起こす。
一日で開墾は終わったが、広すぎたな。整地などを考えると、百人ではとても手が回らない広さの畑を作ってしまった。
村民とは、とりあえず一区画だけ整地を行い、麦と野菜を育てることで合意した。
雑草は集めており、兎や山羊といった家畜の餌にする。まあ、家畜の世話は、村民に任せよう。
後は、冬眠から目覚めて来る害獣対策かな。
猪や熊、鹿対策として土塁を作った。これで開拓村も要塞都市になりえる。
教国と帝国、それと少し離れた連邦との道も塞いだし、もはや危険はないだろう。
とりあえず出来ることは、全て行って、後は村民の希望を聞いて回る日々となった。
そして、数日後、エリカが帰って来た。
工芸品はかなり高値で売れたらしく、服や靴、布などを購入して戻って来た。それと、農耕器具を大量に。
道具は、ヘリオドール侯爵家からも貰ったが、見たこともない道具を大量に購入して来たみたいだ。この辺は僕には分からない。
だが、村民は大喜びだ。役に立つ道具なのだろう。
それと、開拓村で貨幣を持つ意味はない。一応少量は残してくれたみたいだが、ほぼ全て使い切ってくれたそうだ。
工芸品の売却は、エリカに任せて良かったと思えた。
◇
「ギザール商会に売りに行ったのか?」
「ええ。通常より割増しで買い取ってくれたわ。品質も良かったので、ギザールさんも喜んでくれたわ」
ふむ。伝手があると言うのは、便利なのだな。
「他に変わったことはあるか?」
「ジークが教国へ追放になったのと、セリーヌさんが、王妃になったことかな?」
「セリーヌが王妃? 国王陛下の目に止まったというのか?」
「私としても意外だったのだけど、前妻は数年前に亡くなっているし、王妃の座は空いていたのよ。
でも良かったと思うわ。これで、教国も帝国も手出し出来ないしね。
セリーヌさんも、研究に打ち込んでいるみたい。もしかすると、四界瓶の出番はないかな」
ジークフリートに近づけさせないとの約束だったが、国王陛下は良いのだろうか?
かなり疑問が残る。
まあ、セリーヌとシドの安全が保障されたので、良かったのだろう。
「ジークの追放の経緯とかは、分かるか?」
「極秘みたい。国民には、病気で臥せっていると発表されているし。
まあ、これでシナリオを捻じ曲げる人は、王国にいなくなったはずだから、やり易くなったかな」
エリカ的には、邪魔者が自分で退場してくれたのである。僥倖と言えるだろう。
そうなると……。
「後心配なのは、戦争くらいか?」
「う~ん。そうね……。天候魔法対策を誰がするか。それ次第なのだけど、選択肢が多すぎて迂闊に動けなくなったわ」
「選択肢? 対策案は、そんなにあるのか?」
「今分かっているのは、アクアマリン公爵令嬢の水魔法。この人は、ジークの攻略対象だったのだけど、今は地方の学園に通っているわ。
次にセリーヌさん。国王陛下が天候魔法対策を行いそうね。
それと四界瓶で集めた水を、各地に配る。
最後に、アゲート子爵令嬢もしくは、スピネル伯爵令嬢かな……」
「そんなに対策案があるのであれば、大丈夫そうだな」
「本当は、ジークが誰を選ぶかでシナリオが決まるのだけど、先が読めないわね。まあ、夏までに決めておくわ」
「うむ。よろしく頼む」
ここで、セバスチャンが、部屋に入って来た。
「坊ちゃま。来客でございます……」
「僕にか? 誰だ?」
「スピネル伯爵令嬢が、来られました」
エリカを見ると、首を横に振った。
シルビアを見ると、無表情で怒っている。
しばらくの間、若い女性は近づけたくないのだが、会わないわけにはいかないな。
出迎えるために、四人で村長宅を後にした。
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