第31話 ジークフリート2

◆ジークフリート視点



 ──バキ


「ぐは!」


「ふん!」


 今俺は、癇癪令嬢こと、ナリスの攻略に取り掛かっていた。この攻略対象は、とにかく暴力を受け続けなけらばならない。

 今まで築き上げて来た俺のイメージが崩れてしまうが、今のところこの攻略対象しかいないので、甘んじて暴力を受け続けている。

 俺は、『ふぅ、やれやれ』と言って、服の埃を払った。


 しかし、身体能力向上の魔法を覚えたとはいえ、鈍器で殴られるのは痛い。歯が折れそうである。

 しかも、一ヵ月後には、刃物を向けて来る。これらは全て避けなければらない。

 そうやって、暴力では何も解決しないことを教えなければならないのだ。


 とても、手間の掛かる攻略対象である。一番の不人気だったのも納得だ。


「さて、授業に行くか」


 俺の後ろには、貴族令嬢ではなく、衛兵が続くようになってしまった。そいつらに聞こえるように、独り言を言う。

 この衛兵は、国王陛下が俺に付けた監視役だ。

 一度逃げてみたのだが、すぐに見つかり、手足を拘束されてしまった。

 その後、三日間牢屋で過ごす羽目にもなった。

 こんなシナリオなどなかった。俺がゲームのストーリーを変えてしまったので、新しいシナリオが起きているみたいだ。

 だが、変わらないストーリーもある。

 不作による物価の高騰だ。

 ここで、俺が鮮血の豚人クリムゾンオーク……いや、紅き豚人レッドオークを使い、新しい水源を発見すれば、国民の不満は一気に解消されるはずであった。

 だが、紅き豚人レッドオークは、開拓村へ行ってしまった。一番簡単な手段はもう使えない。

 また、攻略対象であったある貴族令嬢を使えば、魔法学園の者達を使っての地下水源発掘シナリオもあった。

 そして、隠しキャラの天候魔法を使える魔導師が、来年来るかもしれないが、こいつは正直どうでも良い。


 俺の破滅ルートを回避することが、最優先である。

 不作を救って、国民と大臣の賞賛を受けて、王位継承権を確実なものとするのがトゥルーエンドへの近道なのだが、投獄までされて国王陛下の機嫌取りをしようとは思わなかった。

 王国の経済の混乱は、国力の低下を招き、取れるアイテムが減る。それと、戦争時に不利になるくらいか。だが、破滅ルートを回避することは可能である。

 今の俺の命題は、癇癪令嬢ことナリスを落とすことだけだ。

 そんなことを考えている時であった。


 ある研究施設が、厳重警戒区域として発表された。

 おかしい。あそこには隠しキャラが匿われる予定の場所である。

 もう、ゲーム通りのストーリーではないのだ。もしかしたら、天候魔法を使える魔導師……。セリーヌが来ているのかもしれない。

 一年早いが、もう来ている? ありえるのか?


 調べてみよう……。





 夜中にこっそりと城を抜け出した。王城からあの研究施設までは隠し通路があるのだ。

 特に障害もなく、研究施設に辿り着いた。

 建物の陰から中庭を見ると、老人が星を観察していた。

 あいつは知っている。魔法研究者のシドだ。年老いているが、上位の魔導師で賢者の称号を受けている。そうなると、セリーヌが来ている可能性が極めて高い。


 セリーヌは、初心な女だ。誤ってキスしてしまうストーリーなのだが、それだけで俺に付いて来るようになる。

 ここは、夜這いをかけてしまっても良いな。


『暗闇で相手を間違えてしまった。今回の過ちは一生を掛けて償う』


 これで行こう。

 セリーヌを手に入れて、破滅フラグの回避と王位継承権の獲得……。一石二鳥である。

 思わず笑みがこぼれる。ついでに股間も膨らんだ。


 建物に侵入して二階へ。建物内部に衛兵はいなかった。

 たしか、定期巡回のはずである。時間さえズラせば、侵入は容易なシナリオであったはずだ。

 そして、灯りがある部屋へ。

 ドアを少し開けて中を覗いた。


 ──ドス


 槍の穂先が、俺の頬を掠めた。慌てて仰け反ると、廊下に尻もちをついてしまった。

 その音を聞いてか、衛兵が階段を駆け上がって来る。

 まずい。身を隠さなければ。


「ジーク! ここに何しに来た!!」


 え? ドアが開かれるとそこには、槍を持った初老の男が立っていた。


「国王陛下!?」


「ジーク。ここまで腐った奴だったとは。実子とは言えもう庇い立て出来んぞ!!」


 なんだ? なぜ、国王陛下がセリーヌの部屋にいる?

 そんなことを考えていると、俺は衛兵に捕まり捕縛されてしまった。

 混乱する俺であったが、セリーヌがチラリと見えた。

 上半身を脱がされて、前だけ隠し俯いている。


 何なのだこのシナリオは? 俺の攻略対象を国王陛下が落としているだと?

 母である王妃は、早世している。後妻にでもするというのか?

 真面目が取り柄で、厳格な国王陛下が、こんな若い娘に手を出すなどありえない。

 混乱の最中、俺は引きずられて、またもや投獄となった。


 その翌日、俺への処分が下された。

 教国への追放である。王位継承権も剥奪されてしまった。

 王国内には、俺は重病となり療養を開始したと発表するらしい。そして、二年後に死亡を発表するとのことだ。

 人目に付かぬように監獄車で教国へ運ばれて行く。

 教国は、厳格な国だ。自由な恋愛など出来ない国なのだ。俺のギャルゲー転生が、終わった瞬間でもあった。


「このままでは、終われない……」


 だが、まだ諦めきれない俺がいる。

 教国へ向かう監獄車の中で、復讐心に燃える俺が、そこにはいた。

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