第30話 逃亡者3
セリーヌとシドは、国王陛下直属部隊が保護してくれると言うことで話がついた。
カムラン殿から、国王陛下に直訴してくれるのだそうだ。
それと、天候魔法対策だが、四界瓶のことを伝えて貰い、まず僕達が対処したい旨を報告して貰うことで合意した。失敗したらセリーヌに頼むことになるだろう。
カムラン殿に、なぜそこまでの権限があるのかを聞いたのだが、国王陛下より一任されていると言うことで、はぐらかされてしまった。
こんな僻地の飛ばされた人と思ったのだが、実際はかなり高い役職に就いているのかもしれないな。
それと、もう一つ情報というか、連絡事項があった。
「兄上が、昇進ですか?」
「うむ。小隊長から中隊長になった。それと、極秘だが国王陛下直属部隊への移動の話も来ている」
さすが兄上だな。でも、将来は父上の後を継いでヘリオドール侯爵家の領地運営をしなければならないのだが。
「国王陛下直属部隊への入隊は良いのですが、兄上は将来領地経営をしなければならないのです。
極秘任務部隊とかに入っても大丈夫なのでしょうか?」
「はは。我々は暗部ではないのだ。国王陛下の目となり耳となる部隊なのだよ。
将来のことは心配ななくて良い。
ただし、戦争が起こった場合は、最前線で部隊を率いる役目もある。
その時は、戦死も覚悟しなければならないがな」
戦争か……。回避したいが、エリカの未来視では、今のところ回避不可能なのだよな。
たしか、パワードスーツとか言うのを取れれば、無双して終戦に導くことも可能とか聞いたのだが。
兄上を死なせる訳にもいかないので、戦争が起きるのであれば僕が戦地に行けば良い。
誰かがやらなければならないのであれば、僕がすれば良い。
そのために、エリカも来てくれたのだし。
その後、簡単な雑談を済ませて解散となった。
こうして、セリーヌとシドは、王都へと向かった。
ジークフリートの毒牙に掛からないことを祈るばかりだ。
◇
「エリカ。ジークは今どうなっているか知っているのか?」
「男爵家に戻った時に、確認して来たわ。謹慎は解かれて騎士学園に通っているけど、女性は寄ってこないみたいね。
貴族令嬢も、地方の学園には飛ばされたくないみたい。
でも、一人だけジークが目を付けている貴族令嬢がいたわね。
かなり凶暴な人物でね。『癇癪令嬢』と呼ばれているわ。攻略対象の中では、一番簡単なのだけど、二年間彼女の暴力を受け続けなければならないの。
それも、一度でも反撃したら終わり。一番簡単で、一番人気のない攻略対象ね」
「あのジークが、暴力を受け続けているのか?」
「ジークは、二年後に、決まった相手がいないと破滅することが決まっているの。
残りは、セリーヌさんと癇癪令嬢、後もう一人いるのだけど、誰かを選ばないといけないのよ」
「ジークは、セリーヌが王都に向かったのを知っているのか?」
「多分知っているでしょうね。でも、出会うことさえ出来ないと思うわ。
今のジークは、国王陛下の監視下に置かれていて、王城と学園以外は移動を厳しく制限されているのよ。
セリーヌとシドは、研修室というか、ある屋敷で軟禁状態で保護されるので、大丈夫かな」
「それは、エリカが誘導したのか?」
「……いいえ。国王陛下のご判断になるのよ?」
かなり疑問が残るな。皇太子であるジークの監視と、セリーヌの軟禁か。
それと、本来であれば、出会うはずの相手とのフラグの回避。
まあ、良いか。天候魔法対策さえすれば、セリーヌは追われることもなくなるのだから。
結局は、僕次第なのだ。
「セリーヌのことは分かった。それで、話題を変えたいのだが、この開拓村に川を引きたいと思う。
水源はあると思うのだが、場所は知らないか?」
「う~ん。そんな描写はなかったかな。たしかに川はあった方が便利かもしれないけど、余り便利にし過ぎない方が良いかもしれないわね。開拓村が一大生産地になったら、他国から狙われかねないので。
水源は、井戸五個で十分なはずよ」
う……。他国から狙われるのか。
この開拓村は、他の三国と山を挟んで接している。そして、ここを取られると、王国へ侵入するのは容易だ。
今は、百人規模で生活出来る土地だが、千人規模になった時点で、戦略的価値が生まれる。
帝国と繋がる獣道まであったのだ。狙われる可能性は、十分にあるだろう。
僕が考えていると、エリカが話題を変えて来た。
「春になるまでにやらなければならないことは、パワードスーツを取ることかな。
そろそろ準備を始めましょう」
次の最終武器か。
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