第29話 逃亡者2
六人での食事となった。
セリーヌとシドは、無言で食べている。ゆっくりと食事を味わっている。マナーもなっているな。
身分は高そうだ。
シルビアは、また機嫌が悪い。また、『ツ~ン』だ。これには、本当に困る。
エリカとセバスチャンは、静かだ。これも困る……。
食事が終わったので、二人の話を聞くことにした。
「話せる範囲で構わないので、なぜあんなところにいたのか教えて欲しい」
「……逃亡して来ました。捕まったら、拷問の末に処刑でしたので」
天候魔法のことを知っているのは、言わない方が良いな。
エリカの未来視で、驚かされたことは多い。今は、この二人を刺激したくない。
「何処かに行く当てはあるのか? 護衛付きの馬車で良ければ出せる。移動の手伝いくらいはするぞ?」
セリーヌとシドが顔を合わせる。だが、シドが首を横に振った。
「僻地伯殿。儂を教国に送り届けてください。そうすれば、莫大な懸賞金が得られるでしょう。ただ、セリーヌだけは逃がして貰いたい」
シドが頭を下げて来た。
う~ん。それはしたくないな。
セリーヌを見ると、涙を流して抗議している。
師弟の信頼関係は厚そうだ。
さて、どうしようか。教国、王国それと帝国もダメとなると、連邦だが、知人もいなければ生活もままならないだろう。
多少の資金援助では、途方に暮れるのは目に見えている。
国王陛下に保護を求めるのが一番だが、ジークフリートがどう出るかが予想出来ない。
──コンコン
ここでノックが鳴った。誰だ?
今、村長宅には、この六人以外いないはずだ。セバスチャンが、構える。
「空いている。入ってくれ」
ドアが開かれると、思いがけない人物が、そこにはいた。
カムラン殿だ。
「エヴィ殿。緊急故、ご容赦願いたい。そこの二人を預からせて貰いたく姿を現した」
挨拶なしの命令と言うより、依頼か。この人も緊急性を理解しているのだな。
教国の指名手配人を開拓村で匿うのは、難しい。
国際問題になったら、僕一人の首では補えないであろう。
「カムラン殿は、この二人をどうするつもりですか?」
「とにかく、王城で匿い、痕跡を消して貰う。教国の追手が、開拓村に来るかもしれないが、そこはしらを切って欲しい」
王城での軟禁か……。賛成はしたくないな。
エリカを見ると、考えている。
「国王陛下は、この二人を知っているのですか? そうでなければ。カムラン殿が出て来る理由がないですよね?」
「うむ。昨年の干ばつ時に他国に密偵を放っており、その二人のことは極秘裏に調べてある。まさか、エヴィ殿が連れて来るとは、思わなかったがな」
密偵か……。この二人が逃げた時点で、逃亡に手を貸せば良いものを。
いや、着いて来てくれる保証はないか。
もしかすると、この二人は密偵すら撒いたのかもしれないな。
だけど、力尽きてあの洞窟で途方に暮れていたのであろう。
「僕では、匿うことも出来そうにないですね。でもそうですね、天候魔法を使わせないと約束してくれれば、引き渡しましょう」
全員が僕を見て驚いている。
暗にセリーヌとシドに、なぜ追われているのかを知っていると教えたのだ。
「いや、帝国の天候魔法対策をだな……」
「天候魔法対策ですが、僕に考えがあります。と言うより、今準備しています」
四界瓶を見せる。
開拓村を監視しているカムラン殿であれば、内容が理解出来るはずだ。
「……それで水不足が解消出来るのであれば、それが最も良いというのは理解している。
だが、魔法の構築式を知っている人物を保護したいという考えも理解して欲しい」
「それでは、一つだけ約束してください。
ジークフリート皇太子とセリーヌを会わせないで欲しいのです。それだけ守ってくれれば、カムラン殿に預けましょう」
セリーヌとシドは、困惑気味だ。
エリカは、微笑んでいる。初めてかもしれないな。エリカの笑顔を見るのは。
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