第28話 逃亡者1
逃亡者と思われる、セリーヌとシドを連れて、開拓村へ帰って来た。
二人とも疲れ果てていたので、歩調を合わせたのだが、時間が掛かり過ぎて夕方になってしまった。
そんな僕達をシルビアが出迎えてくれた。
……くれたのだが。
セリーヌとシドを見ると、シルビアの表情が曇り出した。
「……お帰りなさいませ、エヴィ様。ところでそちらのお二方は、どなたでしょうか?」
「ああ、山で襲われていてな。放っておくことも出来なかったので、連れて帰って来た。こらから、事情を聞こうと思う」
「……そうですか。それと、エリカが帰って来ています」
「そうか、では村長宅に行こうか。色々と話も聞きたいしな」
また、シルビアの機嫌が悪くなって来た。ゴマすりを考えておこう。
◇
セリーヌとシドには、村長宅の一室を貸した。
まず、体を拭いて貰い清潔な服を渡す。その間に、シルビアが食事の用意をしてくれる。
僕とセバスチャンは、エリカの元に向かった。
「水源を探していたのだが、襲われている二人を見つけた。何か知っていたら教えて欲しいのだが」
エリカが考え出す。しばらくすると、考えが纏まったようであり口を開いた。
「まず、シドからね。帝国の天候魔法の基礎理論を纏めた人なの。
研究資料を奪われて、教国に損害を出した罪で投獄されるところを逃げて来たのかな。
でも、一年早すぎるわね。教国でも何かが起こっていそうだわ」
あの天候魔法の関係者か。老齢でありながら、しっかりとした目で僕を観察していた。
魔法の研究者なのだろう。賢者とも言われていたし。
「セリーヌは、シドの血縁者なのか?」
「セリーヌは、シドの助手ね。才媛と言っても過言ではないほどの知力の持ち主よ。
でも、着の身着のまま冬山に入ったところを見ると、相当急いでいたようね。
それと、ジークの攻略対象でもあるわ。隠しキャラでね。課金しなければ出現しない人なのよ」
ジークフリートに関係してくる人か。
王都に向かわせるのはまずいな。
それと、隠しキャラと課金は意味が分からない。
「ジークに会わせない方が良いということは分かった。それで、開拓村で匿っても大丈夫か?」
「はっきり言うとダメね。エヴィ様に災難が訪れるわ。
今教国は、セリーヌを追って密偵を飛ばしているので、見つかる前に移動させた方が良いでしょう」
「それほどの人物なのか?」
「帝国の天候魔法を打ち消せるほどの人材よ。彼女を巡って戦争が起きるわ。
王城に連れて行き、国王陛下に保護を求めるのが一番なのだけど、ジークが横槍を入れて来るでしょうね。
なので、王都や王城へは行かせずに、連邦もくしは帝国に保護を求めるのが良いかな……」
王国では、ジークフリートが邪魔であり、あの二人を保護出来ないのか。
あ! そういえば、聞かなければならないことがあった。
「別な話になるが、開拓村と帝国を繋ぐ獣道を見つけた。
危ないと思ったので、塞いでしまったのだが、意見を聞きたい」
驚く、エリカ。
「あの道を見つけたの? それも塞いだって!
あの道は、戦争で王国が負ける場合に、ジークが攻略対象と共に逃げる道なのよ。
帝国に入ってから、連邦に向かう予定なの。連邦で兵を借りて、手薄になった帝国の帝都を襲撃する予定なのよ。
あの道が使えないとなると、戦争には勝たなければならなくなったわね」
ふむ。あの道を使うのは、王国側だったのか。
「その話には、矛盾がないか? 獣道とは言え人の手が入っていた。王国側だけが使うとは思えないのだが。
整備されていたいし、誰かが通っていたと考えるのが、普通だと思うのだが?」
「『誰が』使っていたかは、明記されていなかったわ。でも、開拓村の一人が知っていてね。ジークに教えるの。
そうなると、開拓村の誰かが使っていたと考えるのが普通かな。帝国との密談用……かな?」
考えてしまう。手紙を届けるなら鳥を使えば良い。また、希少だが魔法による通信手段もある。
途中に休憩小屋などもなかったし、密談用とは考え難い。
そうなると、あの道は、違法な物資を運ぶ用途が考えられる。
だが、開拓村にそんな物は来なかった。想像力が足りていないだけかもしれないが、違和感を感じる。
エリカの話が本当であれば、帝国側から開拓村の誰かに会いに来ていることになるが、ありえるのだろうか?
考えが纏まらないので、あの獣道はしばらく放置だな。
誰か騒げば、使用者も見つかるだろう。もしくは、用途が分かるか。
そんなことを考えていると、食事の準備が出来たとシルビアが声を掛けに来てくれた。
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