第27話 水源調査2

 今日も水源調査である。

 四界瓶を持ち、除雪しながら野山を散策して行く。

 木に葉がないので除雪さえ出来れば、視界良好である。まあ、地面がぬかるんでいるので、時々足を取られるのが難点だな。

 そんな状態だが、今日は教国方面を探している。


 開拓村は、帝国と教国に接してる。また、山を二つ超えれば、連邦に行ける場所にある。

 だが。深い山々に囲まれているので、道を作るのは現実的ではない。また、他国が開拓村を攻め落としたとしても、補給もままらないので、実質的に攻め込まれることはない。

 戦争で孤立するほど、愚かなことはないのだ。

 だが、ここで思ってしまう。


 土竜爪があれば、簡単に道を作れてしまうな……。


 戦争になり、奇襲を掛ける事態になるのであれば、そのような王命も下るかもしれない。

 国王陛下直属部隊にも知られているし。

 まあ、その時はその時だ。僕も貴族である。戦争になるのであれば、戦場に行く義務が発生する。


 エリカは、戦争に関して明言を避けている。どうやら、まだ未来が不安定らしい。

 二年後、いや、一年半後に開戦だったらしいのだが、ジークフリートが未来を大幅に変えてしまい、その軌道修正に手こずっているようだ。

 そして、エリカとジークフリート以外の転生者がいるらしい。

 『魔導師エヴィの聖なる魔導書』を取りに行った時の妨害から、敵対関係にあるのかもしれないな。

 スピネル伯爵……、その家の令嬢みたいだが、この辺もハッキリしない。魔法学園に通っているらしいし。

 エリカは、スピネル伯爵を調べているのかもしれないが、戻って来た時に聞いてみるか。


 そんなことを考えながら、山を進んでいる時であった。

 僕の生命感知に何かが引っ掛かった。


「セバス。この先に誰かいる。少数……、数人だ」


 僕は制止を促した。セバスチャンは、身をかがめて従ってくれる。気配を殺して、ゆっくりと近づく。こんな山奥の人気のない場所にいるのである。盗賊と思うのが合理的だ。

 視認出来る距離まで近づいた。


 そこは、洞窟であった。そして、洞窟の中で、焚火を行っている。暖を取りながら雪を溶かしているみたいだ。飲料水にするのであろう。

 煙は洞窟の外に出ているので窒息はなさそうだが、あれは危ないな。キャンプには慣れていない感じだ。

 洞窟の中にいる人物を見ると、そこにいたのは、若い女性と老人であった。


「セバス。盗賊に見えるか?」


「いえ。逃げて来た労働奴隷かと思われます。いや、服はボロボロですが、元は品質の高い物を着ていたとも見受けられます。もしかすると、貴族かもしれませぬな」


 薄着であり、顔色も悪い、死にそうだとは思わないが、寒さで震えている。気力もなさそうだ。

 どうする? 保護するか? それとも、見逃すか……。

 そんな時であった。またもや、僕の生命感知に何かが引っ掛かった。

 武装した男三人が、飛び出して来たのだ。そのまま、僅かな抵抗で、若い女性と老人が拘束されてしまう。

 数発殴られた後に、腕を後ろで縛られて、そのまま引きずられてしまった。

 煙で見つかったのかもしれないな。


「セバス。あの武装は、教国の兵士で合っているか?」


「おそらく。ただし、盗賊が変装している可能性も捨てきれません」


 僕達は見つかっていない。だけど、見捨てる選択は取れなかった。

 山を降りて、洞窟の前に着地する。セバスチャンは、何も言わずに僕に着いて来てくれた。


「何者だ!?」


 ここは、名乗る必要もないであろう。服装も獣の革で出来た防寒具だし、外見では判断がつかないはずである。

 無言で土竜爪を起動させて、教国の兵士と思われる三人の足元を崩した。

 動けなくなったところを、セバスチャンが峰打ちを行って、気絶させた。


 若い女性と老人は、唖然としている。





 僕は老人を、セバスチャンが若い女性を担いで急いでその場を後にした。

 山の反対側に移動して、少し開けた場所で一度休憩を取る。

 一応携帯食を持っていたので渡すと、二人は勢い良く食べ始めた。それと、体を温めるためのワインも飲み干してしまった。

 相当に酷い状況だったのが伺える。あと少しで動けなくなり、寒さで凍え死んでいたであろう。


「まず、名前を教えて貰えるか?」


「……セリーヌと言います。それと、こちらは賢者のシド様です」


 賢者? セバスチャンを見るが、首を横に振った。

 まあ、良いか。こちらも自己紹介からだ。


「僕は、この近くの開拓村を任されている、エヴィ・ヘリオドール僻地伯だ。それと、執事のセバスチャンになる。

 君らは、教国から逃げて来たのか? それと何処へ向かう予定だったのだ?」


 二人が驚く。

 まあ、他国の人間が救ってくれるとは、思っていなかったのだろう。

 服装も獣の革で作られた防寒具だし、盗賊と思われても不思議ではない。


「……急いで逃げて来たので、方向も分からずに山の中をさ迷っていました」


「なぜ追われていたのかは、話せるか?」


「それは……」


 さて、どうしようか。ここで、教国との関係悪化は避けたいな。

 だが、見殺しをする気にもなれない。


「とりあえず、その服装ではこの山で過ごすのは無理だ。開拓村で服と食料を渡そう。

 その後、何処へ向かっても良いので、とりあえず移動しようか」


 二人が、再度驚いた。

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