第26話 水源調査1
数日が経過した、とりあえず村民の傷も癒えたので仕事も再開して貰っている。
まあ、そうは言っても、雪が降り出したので、各家で藁細工と革製の防寒具の作成、それと、家畜の世話くらいだが。
薪は、森林に囲まれた盆地なので在庫が大量にある。
家からは出れないが、衣食住が揃い仕事も楽となれば、少し気が緩むかもしれないな。まあ、追加の労働を課す気はないのでのんびりして貰おう。
少し問題になったのが、馬だ。
アゲート子爵が乗って来た馬が、十頭ほど僕の所有物となった。元々三頭いたので、計十三頭となったのだが、世話が大変だ。
相談の結果、八頭をボールター男爵家に譲ることにした。
エリカの提案なのだが、この件はお願いとのことだった。ボールター男爵家に譲ったところで、将来的に何かが変わるとかはないのだそうだが、まあ、有効に使ってくれるのであれば不満はない。
馬は、エリカが一人で連れて行った。魅了の魔眼を使用するので、逃げ出すことはないのだそうだ。
しばらく帰省しても良いと言ったのだが、数日で戻って来るとも言われた。
ちなみに趣味の悪い馬車は、装飾品を剥ぎ取り普通の馬車に変えている。盗賊に襲ってくださいと言わんばかりだったので、光り物は全て取り外した。
馬車は、雪が解けたら、街へ物資を売りに行くのに使おうと思う。
それと、四海瓶である。
開拓村の中央に置き、魔力を送れば、雪を無限に吸い込んでくれた。これで除雪作業はなくなったので、村民は大喜びだ。
朝昼晩の三回、雪を吸収するだけで積雪に悩むことがない。豪雪地帯なのにだ。これはとてもありがたかった。さすが最終武器と言ったところか。
何度も思うが、何故このような有益な魔道具が、僕の実家に眠っていたのだろうか?
父上も知らなかったし。
僕はと言うと、朝の水汲みを行った後は、開拓村周辺の探索を行い始めた。
開拓村は、山間の盆地に形成されている。そして、川がなかった。地下に帯水層もあったのだし、湧水が何処にあるはずなので、その捜索だ。
毎日野山を駆け回り、小川の痕跡を探す。
そんな時であった。獣道を見つけた。獣道なのだが、所々を石を使い道を舗装して通れるようになっている。明らかに人の手が入って来た。
「セバス。この道は地図に載っているのか?」
「いえ。知られていない道ですな」
道の先は、帝国領へ続いている。かなり怪しい。
だが、わざわざ開拓村へ密偵を放つ意味がない。山の稜線に沿って進めば、関所のない所から王国内へ侵入出来るのだ。逆に帝国へも行ける。
帝国と王国の境界は、険しい山林であり、その地形が両国の全面戦争を防いでいるとも言える。
まあ、整備された道には、関所が出来ているので、戦争になるのであれば、そこが前線となるであろう。
「とりあえず、進んでみようか」
意味のない調査になりそうであったが、何もないとは言い切れない。山賊が作った道かもしれないし。
そのまま、獣道を進んで行く。山腹を横に進むように作られた道である。斜度はそれほどでもなく、特に問題なく進めた。良い道である。
そして、山の裏側に辿り着いた。そこで足を止める。
目の前には、帝国領が広がっていた。このまま進めば、帝国に無断入国出来る。
「セバス。この道は塞いでしまおうと思うが、どう思う?」
「塞いでもよろしいかと。無許可での他国への侵入経路を見つけたのです。誰も文句は言わないでしょう」
この道を武装した兵士が、千人も通れば、開拓村は一日で滅ぶだろう。それに、山賊が作った線も消えない。
エリカに意見を求めたいが、今は不在だし、また来るのも面倒である。
土竜爪を使い、山を削ることにする。土を柔らかくして樹木が地滑りを起こした。これならば、山頂付近に向かうか、谷底に橋を架けるかしなければ、この道は使えないであろう。
こうして、湧水を見つけることが出来ずに、この日は開拓村へ帰ることにした。
水源の確保のためにも、当分は野山を散策かな。
◇
開拓村へ戻ると、シルビアが待ち受けていた。最近は僕の腕に抱き着いて来るようになってしまった。胸が当たっているというのに……。人目も気にしていない。セバスチャンの目の前でもだ。
「ただいま、シルビア。何か変わったことはあったか?」
「何もありませんね。工芸品も予定より多く出来上がっています」
僕の腕に頬ずりをして、嬉しそうに回答してくれた。セバスチャンは、そんなシルビアを見て何も言わない。
「そうか。それでは、夕食にしよう」
「はい! 今日も腕によりをかけて作りました」
ここ最近は、鍋料理だ。シルビアは、百人分の汁物を作り続けている。温かい食事に村民も感謝している。何より美味しいし。
歓談を交えながら、夕食が終わった。
そして、今日の情報交換だ。
「水源は見つからなかった。もうしばらくかかりそうだ。それと、帝国へ続く道を見つけたので通れなくしておいた。
明日も水源探しかな。今度は、教国方面を探してみたいと思う」
「そうですか。でもその道は、塞いでしまってよろしかったのですか?」
シルビアからの意外な質問であった。
「開拓村から帝国に行くことはないのだが、逆に兵士を送り込まれると困ると思った。何が問題があると思うか?」
「……いえ。今は必要ないかもしれませんが、将来的に使い道があったかもしれないと思っただけです」
帝国へ行くのであれば、山間部を迂回すれば良い。また、山間部の谷底の稜線を進めば、楽に移動出来る。隠れて移動する必要がなければ、あの道は不要だと思うのだが。
「土竜爪があれば、道はすぐにでも修復出来る。僕が必要性を感じたら修理しておくよ」
「さすが、エヴィ様です!」
もう、シルビアは僕を賞賛しかして来なかった。
「シルビアの話も聞きたい」
「う~ん。いつも通りでしたね。兎が出産したくらいです。とても順調ですね」
「怪我人は出なかったのか?」
「はい、怪我人も病人もおりません。巡回しているので確認もしています」
何もない日々だが、なんとなく幸せを感じてしまう。
後は、アゲート子爵の件が、どの様な回答となって返って来るかだな。まあ、僕に不利になるようなことはないと思う。
それと、エリカが無事に帰ってきてくれれば、元通りだ。
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