第25話 シルビア2
◆シルビア視点
エヴィ様が、ダンジョンに向かわれてしまった。
キスとは言わないけど、ハグくらいしてくれれば、デレることも出来たのですが……。私は、異性としてそんなに魅力がないのでしょうか。
自信を無くしてしまいます。
でも、落ち込んでばかりもいられません。
領主代理補佐として、開拓村を纏めなければならないのです。
エヴィ様が戻って来た時に、『何もトラブルがありませんでした』と言うのがマストです。それ以外の回答などありません。
井戸は凍ってしまい、朝に水汲みが出来なくなってしまいました。
昼になり、氷が溶けたので、皆で頑張って釣瓶式の水汲みです。
井戸が五個になったとはいえ、時間が掛かってしまいました。エヴィ様の魔法のありがたさに、村民皆が改めて感謝しています。
初日は、何の問題もなく終わりました。
夕食を一人で食べます。実に数ヵ月ぶりの一人での食事になりました。
何時もと同じ料理なのですが、味がしないというより、美味しく感じませんでした。
エヴィ様に依存している自分が嫌になります。
二日目の昼頃。
昨日と同じく、開拓村を見て回っています。平和です。村民も皆笑顔でした。エヴィ様の人柄がこの開拓村に現れています。
とても嬉しい気持ちになりました。
そして、それは突然来ました。見慣れない騎兵と馬車数台が、開拓村に来たのです。
「こちらは、アゲート子爵である。敬礼せよ!」
一人の護衛が、いきなり大声を上げました。村民は皆理解出来ずに固まっています。
嫌な予感しかしませんが、私が先頭に立って対応します。
スカートを少し持ち上げて挨拶しました。
「領主代理補佐の、シルビアと申します。どの様なご用件でしょうか?」
「ふん。こんな小娘が、まとめ役とはな。領主の女好きが伺える」
エヴィ様への侮辱……。血液が沸騰するような感覚に襲われました。脳天に矢を射かけたい気持ちを抑えます。
でも、耐えます。エヴィ様の顔に泥を塗ることは出来ません。
「……ご用件を」
「食料及び物資を徴収する」
「ここはまだ、国王陛下の直轄地となっております。命令書をお見せください!」
アゲート子爵とその護衛が、笑い出しました。
その後、説明もなく護衛達が村民の各家に押し入って、食料及び工芸品等を奪い始めました。
ありえない出来事が起きてしまいました。盗賊ならいざ知らず、貴族が名を名乗っての略奪です。
後から報告すれば、罰することも容易ですが、今は村民を守らなければなりません。
それにしても変です。エヴィ様の不在を狙って来たとしか考えられない行動……。監視されていた?
私が短剣を抜いて、威嚇すると一人の魔導師が前に出て対峙して来ました。
次の瞬間に、右手に痛みが走り吹き飛びます。多分ですが、魔法を使われました。切られており、大量の出血が見て取れます。
短剣を左手に持ち替えて、再度構えると三人の護衛に囲まれました。
この時点で、私はもう動けません。
村民達の悲鳴が聞こえます。略奪が始まりました。
それと出血で、意識が朦朧として来ました。
悔しい……。エヴィ様に任された開拓村で略奪行為をされるなど。
「くっくっく。なかなかの美人じゃないか。お前も戦利品に入れてやる」
下卑た言葉を投げかけられました。冗談じゃありません。この体はエヴィ様に捧げると誓ったのです。
でも、出血と共に体力と意識が奪われて行きます。力が入らなくなって来ました。
回復魔法を使えば、無防備な状態となり取り押さえられてしまいます。
打つ手なしです……。
諦めかけたその時でした。
目の前の護衛達が、突風……いえ、大量の土砂に流されて行きました。
何が起きているか理解出来ません。ですが、次の瞬間に理解しました。
エヴィ様が私に駆け寄って来て、抱きしめてくれました。
「エヴィ様、エヴィ様……」
涙が出てしまいました。その後、回復魔法を施してくれて、決闘になります。
止めに入ろうと思ったのですが、真剣な表情のエヴィ様を見て止めることが出来ませんでした。
そして、魔導師を一蹴。かっこ良すぎです。抱き着いてしまいました。
そして、国王陛下直属部隊の方に引き渡し、今日は終わりました。
エリカ嬢は、何かの魔道具を使っていましたが、私の頭の中はエヴィ様のことしかありません。
今日の一番の収穫は、エヴィ様にハグして貰ったことです。
思い返しただけでも、表情が緩んでしまいます。そして分かります。耳まで真っ赤です。
◇
夜になり、私はある部屋に向かいました。
──コンコン
「……どうぞ」
エリカ嬢の部屋に入りました。
ドアの前で立ったまま、話し始めます。
「……これから、エヴィ様に夜伽をお願いしに行きます。でも、その前にエリカ様にだけはお断りを入れたいと思い来ました」
エリカ嬢の表情は崩れません。
「今日は止めておいた方が良いかな。エヴィ様も疲れているし。迫っても、手を付けてはくれないでしょうね。
それと、今後は『様』はいらないわ。私とあなたは同格なのだから、呼び捨てにしてね」
この人の未来視……。確かに信用に値します。それもで、今日は引けません。
「かまいません。今後毎晩、エヴィ様に添い寝したいと思います!」
エリカが、『ふぅ~』っとため息を吐きました。
「エヴィ様のあなたへの好感度は、まだそれほど上がっていないわ。
もう少し待つことを勧めたいのだけど。でもそうね。今後のことで少し相談したいことがあるの」
「……一応、お聞きします」
「次の最終武器なのだけど、封印されているの。そしてその先に守護者がいるわ。
その封印の解除と守護者の弱体化のために、協力して欲しいのよ」
この人の話は、何時も良く分からない。
「……何をすれば良いのですか?」
「扉の前で、エヴィ様とキスして欲しいの。それは、シルビアさんでないといけないのよ。あ、でも……、開拓村内であれば良いのかな? 扉の前である必要はないかもしれないわね」
「な!?」
意味不明です。エヴィ様とキスをするのは良いのですが、強要されるのは嫌です。
でも、従わない理由はありません。
「……その依頼に従ったら、エヴィ様から手を引いて貰えますか?」
「分かるでしょう? エヴィ様は、異性としての私に興味がない事を。正妻の座は諦めているわ」
その言葉に喜んでしまう私が、嫌になります。
「分かりました。それまで待ちます」
「それとなのだけど、エヴィ様には、運命の相手がいるわ。
出会い方も特殊でね。エヴィ様からその人を求めてしまう……。今のエヴィ様からは想像も出来ないでしょうけれど」
「え!?」
「もう現時点で、エヴィ様がその人を選ぶかどうかも分からない状況になってしまったわ。
その時までに、シルビアさんの好感度が何処まで上がっているかで未来が決まるの。くれぐれも軽率な行動をしないようにね」
その後、無言のまま部屋を出ました。
少し考えて、今晩は自分の部屋に戻ることにしました。
今日は一日で色々なことがありすぎました。でも、『エヴィ様に運命の相手がいる』と言う言葉が、一番の衝撃です。ハグされたことよりも、私には重く圧し掛かって来ました。
考えが纏まりませんでしたが、いつの間にか寝てしまいました。
やっぱり、私も疲れていたようです。
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