第24話 最終武器2-四海瓶

 アゲート子爵が、エリカの質問の答えを考えている。

 数秒の沈黙……。かなり重いです。

 それと、もう子爵ではないか。


「もう一度聞いてあげる。何故こんなことをしたのかしら?」


 エリカがアゲートに問い詰める。ちなみに、他の男共は別の場所に隔離している。

 アゲートは、視線を逸らしている。そして、答えない。

 エリカの手に火魔法が発現した。

 僕は、慌てて止める。エリカの魔法は、人を消し炭にするほどの威力なのだ。

 それに、拷問は見たくない。


「エリカ。アゲートは、カムラン殿に引き渡して、事の真偽を確かめれば良いだろう」


 何時も無表情のエリカであるが、今回は鋭い目付きで僕を見て来た。


「今回の略奪は、指示を出した黒幕がいますね。アゲートには、今ここで、その者を吐いて貰わないと、また来るわ。

 王城に連れて行かれてから、うやむやにされてしまっては、取り返しがつかなくなるし」


 言いたいことは分かる。だが、それほどの権力を持った相手がバックに付いているのであれば、僕なんかでは対応出来ないのではないだろうか?


「……とりあえず、拷問は止めてくれ。それと、アゲートだが、子爵位を剥奪されるのは決まっているのだ。

 その後、誰が助けるかで、黒幕が絞れるのではないか?」


「それでは、遅すぎるわ!」


 エリカは何かを焦っている。


「ふぅ……。しょうがないわね」


 精神魔法:魅了


 エリカの魔眼が光った。すると、アゲートが、ピクンと痙攣し目の焦点が合わなくなった。

 これは、かなり危険な魔法だ。教国に知られれば、拘束の対象になるえるぞ。

 今はカムラン殿の前でも使わざるをえない状況なのか?

 それほど、エリカは何かを急いでいる。


「……誰に指示されたの?」


「スピネル伯爵です。食糧難をスピネル伯爵家に相談しに行ったところ、そこのご令嬢から開拓村に食料が豊富にあることを教えて頂きました。

 食料の値段が跳ね上がっている今、多少の略奪は目を瞑るとも。これは、国中で起きています」


「そのスピネル伯爵令嬢は、何者なの?」


「……学生です。魔法学園に通っております。それ以外は、知りません。顔を合わせたのは、一度切りです」


 エリカが、考え出した。


「カムラン殿。国内で略奪が横行しているのですか?」


 エリカの考察中に、僕も聞きたいことがあったので、聞いてみる。


「……うむ。貧しい地区ほど発生している。護衛を持たない男爵家などは、屋敷を追い出されているほどだ」


 治安悪化が始まったのか。ヘリオドール侯爵家とボールター男爵は大丈夫だと思うが、来年は国として持たない可能性もあるな。

 帝国の天候魔法が、ここまで影響を与えるとは誰も考えもしなかっただろう。

 そして、来年も使われたら、反乱が起きそうだ。


 エリカは、スピネル伯爵家が黒幕だと知れたので、満足だと言い自分の部屋に閉じ籠ってしまった。考えたいのだそうだ。

 カムラン殿は、エリカの魔眼を口外しないと約束してくれた。

 そして、決闘の経緯を国王陛下に伝えて、領地の接収と爵位剥奪を約束してくれた。

 一応、領地はヘリオドール侯爵家直轄とし、爵位については、後日連絡が来ることになった。

 そして、財産の差し押さえを行うとも言ってくれた。子爵家なので、それなりに良い物が眠っていそうだ。


 カムラン殿が、男共を全員馬車に押し込めて、開拓村を後にした。

 余った馬車と騎馬は、貰えることになった。これだけは、素直に嬉しい。


 今は、カムラン殿を信じるしかない。だが、エリカだけでも逃がす算段はしておこう。

 こうして、魔導書の確保と開拓村への襲撃が終わった。





「とりあえず、これで全員かな?」


 僕は、回復魔法で村民全員を癒していた。数日は全員に休むように伝えてもある。

 シルビアが手伝うと言って来たが、静養を命じた。セバスチャンを監視にも付けた。自責の念もあるかもしれないが、今は休んで欲しい。切られていたし、出血量も結構酷かったのだから。


 もうすぐ日も暮れる頃であった。

 エリカが、出て来た。


「エリカ。落ち着いたか?」


「……考えが纏まったので、もう大丈夫よ」


 何時ものエリカだ。安心してしまう。

 そして、エリカの手には魔道具が握られていた。ヘリオドール侯爵家より譲り受けた物だ。形状は、瓶もしくは壺である。

 それを、開拓村の中央に置いた。そして、エリカが魔力を送って行く。

 すると、周辺の雪が瓶に入って行った。井戸からも、水が噴き出て瓶に流れ込んで行く。

 数分で、除雪した雪が全てなくなってしまった。乾燥していたが、湿度が下がり、さらに乾燥した感じだ。


「エリカ、それは何なのだ?」


「水を無限に納めることの出来る魔道具よ。『四界瓶』と言うわ。

 この魔道具の中には、海が入っているのだけど、今回は別な使い方をします」


 良く分からない魔道具だが、怖そうだな。それだけは分かる。


「今吸い込んだ雪は、後から取り出せるのか?」


「理解が速くて助かるわ。水不足の解消に使用するのよ」


 ふむ……。実家には、凄い物が眠っているのだな。父上に言って、一度全部見た方が良いかもしれない。


「それと、天候魔法対策ね。海水を無限に生み出せるので、荒れた地にため池を作る予定。それで、帝国は慌てると思うの。

 もう一つ、特産品として塩が取れるので、その事前準備も必要かな?」


 何時もながら理解出来ない。

 でも、エリカはこうであって欲しいと思う。

 何となくだが、振り回されることに嬉しく思っている僕が、そこにはいた。

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